明けましておめでとうございます。今年も、おつきあいのほど、よろしく願います


 さて、本年の干支(えと)は卯(う)。兎(うさぎ)にまつわる言葉に<兎の字>という隠語があるのを高橋秀治著『動植物ことわざ辞典』で初めて知った。「兎」と「免」の字形の相似から、免職になることを意味するとか


 年頭から尾籠(びろう)な話で恐縮だが、古く<兎の糞(ふん)>という諺(ことわざ)もある。つまりその、あの、ころころっとした形から物事が長続きしないことのたとえ。近年のわが国の政権のありようはこの二語に尽きるといってもいい。いかにも。あっけない<兎の字>続きで<兎の糞>…


 だから<兎の字>ちらつく菅さんは、本当に踏ん張り所だ。自民党から民主党に政権が変わってもだめ、さらに首相が誰に代わってもだめ、という経験がこれ以上重なると、政治や国家、ひいては、あらゆる既成権威がだめ、という世界観につながりかねない


 そう言えば、英語には、手品に由来する<帽子から兎を出す>という言い方がある。苦境に思いがけぬ解決策が出る、との意味だが、社会にマジックのような解決策を求める気分が生まれては剣呑(けんのん)である


 経済面も含めて、今年も“登り坂”が見込まれる日本だけれど、何とか<兎の登り坂>にあやかりたいものだ。彼らの後ろ脚が前脚より長いゆえだろう。それは「得意な方面で力をふるう」との意味である。


 中日春秋 2011年1月1日


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 各地で大雪になるなど、日本列島が荒れ模様の中での、二〇一一年の幕開けです。厳しい寒さの中でも、早咲きの梅はほころび始めています。春遠からじです


 今年の干支(えと)は卯(う)。虎のように鋭い牙もなければ、牛のような硬い角もありません。従順な小さな動物ですが、猛獣に食べられないために、とても強い「武器」を持っています


 それは長い耳。野ウサギは眠っている時でも、遠くで落ち葉がかすれる音やカエルがはう動きに反応するほど鋭敏な聴覚を持っています


 かすかな音が教える変化の兆しをキャッチし、やがて押し寄せる変革の波に備える-。このデフレ時代に生きる私たちに、ウサギの耳こそが必要な武器かもしれません


 政治が頼りないのは近年変わりありませんが、心配なのは若者の元気のなさです。文部科学省によると、〇八年の日本人留学生の数は前年より約11%、約八千人も減ってしまいました


 未知の外国に飛び込んで力を磨くことよりも、三年生の時からスタートする就職活動を優先せざるを得ない事情のようです。昨今の就職事情がそれだけ厳しいことの証左でもありますが、学生たちをここまで内向きの思考に追いやる社会に未来はあるのでしょうか


 ウサギには強靱(きょうじん)な後ろ脚があります。大地を蹴り上げ、脱兎(だっと)の勢いで、青年が日本の社会を揺さぶってほしい。そう念願する年頭です。


 筆洗 2011年1月1日

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 中国故事に、「石に枕し、流れに漱(くちすす)ぐ」というところを「石に漱ぎ、流れに枕す」と言い間違えた男の話があって、夏目漱石の漱石がそれに由来することは、よく知られている


 これも言ってみれば、言い間違いに原因する事故である。二〇〇一年に静岡県上空で発生し、多数が負傷した日航機同士のニアミス。最高裁が先日、指示を誤った管制官ら二人に、刑事責任を認める決定を下した


 当時、管制官は、一方の航空機にすべき「降下」の指示を誤って他方の航空機にしてしまった。操縦士は、衝突防止装置(TCAS)の「上昇」の警告より管制官の指示を優先して、降下。すんでのところで回避はしたが、危うく衝突につながるところだった


 無論、多数の命を預かる職責を思えば管制官のミスの意味は重い。だが、管制業務は過密で「一日一回は言い間違いをする」と明かす管制官もいるほど。それに、何より、言い間違いとは縁を切れぬのが人間だ


 実際、この事故を機に、指示が矛盾した場合、操縦士は管制官でなくTCASに従うようルール化された。人間より機械の信用が上とは寂しいが、いたしかたない


 あの故事では、言い間違いを指摘された男は「流れを枕にするのは耳を洗うため、石に口をすすぐのは歯を磨くためだ」と言い張る。だが再発防止のためには、この手の強がりを言ってもいられない。


 中日春秋 2010年10月30日筆洗

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 ようやく沈静化ムードが漂った日中関係に、またきしんだ音が大陸の奥の方から聞こえてきた。中国四川省などで三日連続で起きた大規模な反日デモは、中国人が経営する日本料理店を襲撃するなど一部が暴徒化した


 本紙特派員によると、綿陽市のデモは地元の若者たちが計画。「釣魚島(尖閣諸島)は中国のものだ」と叫ぶ数百人規模の行進は、二、三万人規模に膨れ上がり、警察当局も制御できなくなった


 群衆の一部は日系の商店などを次々に襲った。「同じ中国人じゃないの」と泣きながら懇願した日本料理店経営者の女性の話が胸を打つ。暴徒化した多くは、就職先のない若者などヒン困層の人々だという


 中国では、デモや集会は当局への事前申請が必要で、民主化要求などは許可されない。後からデモに合流した若者たちは、政府に対する不満のはけ口として、「反日」に便乗した面があるのだろう


 <複雑な問題に単純な答えはありえない>。そう語ったのは米国のカーター元大統領だ。尖閣問題で見せた強権的な態度も、内部に抱えた大きな矛盾を隠すためと考えるなら、納得はできないが理解はできる


 日本を抜いて世界二位の経済大国になろうとする隣国と、付き合いをやめることはできない。厄介なことではあるが、対等で良好な関係を築くには、双方が感情的な反発を抑える努力を続けるしかない。


 中日春秋 2010年10月19日筆洗

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 学生時代、清掃のアルバイトで、大物財界人の部屋に入る機会があった。ふかふかのじゅうたんを洗っていると、壁に飾ってある詩が目に入った


 <青春とは臆病(おくびょう)さを退ける勇気、安きにつく気持ちを振り捨てる冒険心を意味する。ときには、二十歳の青年よりも六十歳の人に青春がある>。サミュエル・ウルマンの「青春」だ


 GHQの最高司令官マッカーサー元帥が執務室に掲げ、日本でも知られるようになった。功成り名を遂げ、老境に入った財界人の自らを奮い立たせる気概、枯れない野心が伝わってきたのを思い出す


 老いて盛んだった財界人とは対照的に、いま青春真っ盛りのはずの学生に元気がない。原因は就職難。今春、就職できずに大学や専門学校などを卒業した「既卒者」が約六万六千人にのぼるというから深刻だ


 政府は、卒業から三年以内の既卒者を正社員にした企業に奨励金百万円を支給する政策を打ち出した。それでも、先の見えない就職活動を続ける既卒者からは不安の声が漏れる


 終身雇用を求める新人が急増するなど若い世代の保守化も指摘されている。「若者が夢をあきらめて組織に埋没していく姿は、江戸期の身分制そのままではないか。これを打破しないで日本の発展はありえない」(城繁幸著『7割は課長にさえなれません』)。ぎらつくのは、財界人よりも若者の方がふさわしい。


 中日春秋 2010年9月30日筆洗

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 『椿三十郎』は、言わずと知れた黒澤明監督の傑作時代劇である


 作中、城代家老の妻が、素晴らしく腕の立つ三十郎をさりげなくたしなめる場面がある。たしかこんな台詞(せりふ)。「あなたは抜き身です。よく切れます。でも、本当にいい刀は鞘(さや)に入っているものです」


 制御できてこその武、ということか。あるいは、刀を振り回さず鞘に収めたままで相手を畏怖(いふ)せしめるのが真の強さだ、との意にもとれる。確かに、差す人が差していれば、鞘の内にあるのが実は竹光(みつ)でも、敵は恐れて逃げ去るかもしれない


 さて、急激な円高進行にたまりかね、政府・日銀はきのう、六年半ぶりの円売り・ドル買い介入に踏み切った。先の日銀による金融緩和策も効果は限定的。本気度を示すため為替介入を求める声も強く、今回の措置を「“伝家の宝刀”を抜く」と評した記事もある


 とりあえず為替相場は円安にふれ、円高に引っ張られていた株も大幅反発したとの由。まずは慶賀の至りだが、どうも、根本的な円高解消とはいかず、市場のドル買い・円売りを呼ぶ米景気持ち直しまで、あの手この手で耐えるしかないらしい


 ただ、素人考えだが、今後さらに急激な円高が来た時、打つ手はあるのか、が心配である。鞘に収まっているうちは分からないが、もはや抜き身の“伝家の宝刀”。もしそれが竹光ならすぐに竹光と知れる。


 中日春秋 2010年9月16日


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 猛暑の中、ずっと咲き誇っていた百日紅(さるすべり)の花がようやくしおれてきた。にぎやかだった蝉(せみ)たちの合唱は、ツクツクボウシの独唱になり、代わって草むらの虫たちが美しい音色を奏でる


 九月に入ってからも続く厳しい残暑は、さすがに体にこたえたが、猛暑は一転、きのうは秋らしい涼しさだった。冷房ではない自然な風の方がよく眠れるし、窓の外から聞こえるコオロギたちの鳴き声が心地よい


 虫の音色を楽しむのは、日本人独特の感性らしい。秋の虫の声を聞くイベントなどは他国にはないはずだ。医学博士の角田忠信氏の説では、日本人は言葉の音を感じる左脳で虫の声も聞いているそうだ。外国人は虫の声を雑音と感じる人が多いという


 <影草の 生ひたるやどの 夕影に 鳴くこほろぎは 聞けど飽かぬかも>。万葉集の時代、秋に鳴く虫を総称してコオロギと呼んだ。鳴き声で区別するようになったのはもっと後になってからだ


 コロコロコロと高い音のエンマコオロギ。ル、ル、ルと単調で微妙なカンタン。フィリリリと繊細なクサヒバリ…。最近では、インターネットで聞いたばかりの虫の種類を音声で確認することもできる。その種類の豊富さに驚かされる


 ふと気が付けば少しずつ日が短くなってきている。秋の彼岸も近づいてきた。熱中症で多くの人が倒れた尋常でない暑さも、もう少しの辛抱だ。


 筆洗 2010年9月16日


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 ♪雪の白樺(しらかば)並木 夕日が映える…という歌詞はご存じの方が多かろう。ロシア民謡『トロイカ』である


 お察しの通り、もめていた民主党代表選の話。トロイカとは「三頭立て馬車」のことだが、同党ではもともと、菅首相、鳩山前首相、小沢前幹事長の協力態勢を指して使われてきた


 一昨日、久しぶりにその言葉を聞いた。「挙党一致」を求める鳩山さんが菅さんと会談後、そろって「トロイカの原点」の尊重を確認したと述べたのだ。だが、結局は♪走れトロイカ ほがらかに…とはいかず、昨日の菅・小沢会談は物別れに


 何となく、「菅支持」をいい「小沢支持」をいい、次には「激突は党分裂の危機」と融和に動いた鳩山さんの不可解な言動が事情をややこしくしただけの印象。さすが「宇宙人」だが、これでようやく、民主党が「脱小沢」で進むか否かを決するという代表選の性格ははっきりした


 実は、あの『トロイカ』の歌詞は別の歌の訳詞があてられたもので、原詩は、郵便馬車の御者が「あの娘はもう俺(おれ)のものにはならぬ。金持ちが奪った」などと嘆く、『金色夜叉』まがいの悲歌らしい。さて、代表=首相の座争奪戦で悲歌を歌うのはどちらか


 そもそもトロイカとは、三頭並列の関係ではないそうだ。物の本によれば、両脇の馬はただ引くだけ。方向を決めるのはやっぱり、中央の一頭のみである。


 中日春秋 2010年9月1日

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 スリランカの東海岸にあるヤーラ国立公園のサファリパークは、大自然の中に生きる象やヒョウ、水牛などの野生動物を車の中から観察できることで人気がある


 二十二万人を超える津波のシ者を出した二〇〇四年十二月のスマトラ沖地震の時は、震源地から約二千キロ離れていたために揺れはなく、突然、大津波が公園に襲ってきた


 日本人の観光客十数人を含む多くの人が犠牲になったが、鎖でつながれていた動物以外はシななかった。津波の一時間半ほど前から、象が安全な森の奥をめがけて走り、他の動物も追い掛けたためだという


 公園の管理官から聞いたこのエピソードを自著『防災格言 いのちを守る百の戒め』で紹介しているのは、防災アドバイザーの山村武彦さん。世界の災害現場百二十カ所以上を調査してきた人だ


 「自分だけは大丈夫」「災害など自分には無縁」という根拠のない安全神話の鎖につながれた人間は、予知本能を自ら退化させていると山村さん。それ故、「災害や事故はいつでも起き得るという心の準備だけはいつも怠ってはならないのだ」と


 <天災は忘れたころにやってくる>というが、怖い地震のことは「忘れたい」という心理が働くのかもしれない。世界有数の地震列島に住む以上、巨大地震が起きる宿命からは逃れられない。きょうは防災の日。あらためて心の準備を整えたい。


 筆洗 2010年9月1日

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 まあ、当然の帰結なのかもしれない。民主党の代表選に小沢前幹事長が出馬を決めた、とのニュース


 何となれば、小沢さんの別名は「選挙の鬼」、あるいは「選挙の達人」。代表選も選挙には違いないから、一等得意な舞台を前にじっとしていられなかったとしても驚くには当たらない。いわば、<得手に帆を揚げる>というやつである


 もっとも、国民は「政治とカネ」の問題に十分な説明がないことも、まだ三カ月前に幹事長を辞して、表舞台を去ったばかりだということも忘れていない。しかも、急激な円高と株安で景気が二番底の危機に瀕(ひん)しているなど、待ったなしの課題が数多(あまた)あることも、当然、分かっている


 もちろん、菅政権が発足間もなく、もし小沢さんが代表選に勝てば、またまた代わって四年で実に六人目の首相になるということも国民は先刻、承知。そして、多くがとにかく短命政権はたくさんだ、とも思っている


 そんな思いも、小沢さんの支持派に言わせると「俗論」らしいが、とにかく、これが小沢さんの揚げた帆に吹いている世間の“風”だ。あの諺(ことわざ)の<得手>には得意技だけでなく「順風」の意があるそうだが、そういう感じはない


 有力候補が堂々雌雄を決すること自体は悪いことではない。だが、流行遅れの言葉に重ねるなら「KY」の感も否めない。即(すなわ)ち、“風”が読めていない…。


 中日春秋 2010年8月27日筆洗

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