『椿三十郎』は、言わずと知れた黒澤明監督の傑作時代劇である


 作中、城代家老の妻が、素晴らしく腕の立つ三十郎をさりげなくたしなめる場面がある。たしかこんな台詞(せりふ)。「あなたは抜き身です。よく切れます。でも、本当にいい刀は鞘(さや)に入っているものです」


 制御できてこその武、ということか。あるいは、刀を振り回さず鞘に収めたままで相手を畏怖(いふ)せしめるのが真の強さだ、との意にもとれる。確かに、差す人が差していれば、鞘の内にあるのが実は竹光(みつ)でも、敵は恐れて逃げ去るかもしれない


 さて、急激な円高進行にたまりかね、政府・日銀はきのう、六年半ぶりの円売り・ドル買い介入に踏み切った。先の日銀による金融緩和策も効果は限定的。本気度を示すため為替介入を求める声も強く、今回の措置を「“伝家の宝刀”を抜く」と評した記事もある


 とりあえず為替相場は円安にふれ、円高に引っ張られていた株も大幅反発したとの由。まずは慶賀の至りだが、どうも、根本的な円高解消とはいかず、市場のドル買い・円売りを呼ぶ米景気持ち直しまで、あの手この手で耐えるしかないらしい


 ただ、素人考えだが、今後さらに急激な円高が来た時、打つ手はあるのか、が心配である。鞘に収まっているうちは分からないが、もはや抜き身の“伝家の宝刀”。もしそれが竹光ならすぐに竹光と知れる。


 中日春秋 2010年9月16日


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