米国の作家、故マイケル・クライトン氏がつくり出した物語『ジュラシック・パーク』は映画にもなり世界中で大ヒットした


 約(つづ)めていえば、遺伝子操作で現代に蘇(よみがえ)らせた恐竜たちが人を襲う、といったお話。暴れ回るのは、どこかから突如、現れた怪獣ではない。人間が科学技術で誕生させながらコントロール不能になった存在。それは人類が抱える根本の恐怖のような気もする


 今、米国ルイジアナ州沖のメキシコ湾で暴れているのは、恐竜ならぬ原油だ。英石油大手BPの海底油井の流出事故は、発生から既に二カ月近くになるのに、まだ汚染が止まらない。様々(さまざま)な流出防止の策がとられたが、失敗続きだ


 深い海の底に、深い深い穴を掘り、何とか石油を吸い出せたのは科学技術のゆえ。だが、いざ、止めようと思った時、それを止められないのだ。この制御不能の油井を、BPの技術者が事故直前のメールで、「悪夢の油井」と呼んでいたなどと聞けば、一層、不気味さが増す


 かつて、インターネットを「ついに人類はスイッチを切れない“装置”をつくってしまった」と表現した人があったのを思い出す。確かに、あれも、もう、誰にも止められない


 科学技術がわれわれの暮らしに多大な恩恵をもたらすのは疑いない。だが、同時に、いくつもの潜在的な「制御不能の恐怖」も引き受けているのかもしれない。


 中日春秋 2010年6月17日

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