二律背反の関係は、今風に言うなら、トレードオフか。昔ながらの文句なら<彼方(あちら)立てれば此方(こちら)が立たぬ>だ。落語にはこの<立てる>を<閉(た)てる>に掛けたシャレか、<九尺二間に戸が一枚>と続ける言い方もあるらしい


 さて、民主党内で選挙に出るとなると、やはり、小沢一郎氏との距離で分ける「親小沢」「反小沢」がトレードオフになる。中間派という菅直人氏だが、事実上の新首相選びだった昨日の党代表選では結局、<彼方=親小沢>より<此方=反小沢>を立てる道を選んで勝利した


 考えてみれば、政治課題の大方は<彼方立てれば…>の図式といえる。例えば、景気浮揚や福祉充実のため政府支出を増やせば財政は悪化するし、財政健全化のため支出を絞れば福祉は後退、景気は失速しかねない


 これは各国共通の苦悩だろうが、新首相は「強い経済、強い財政、強い社会保障。それを同時に実現できる方策はある」と。いわば、これらをトレードオフの関係にはさせぬ、彼方も此方も立てるとの宣言だ


 <双方立てれば身が立たぬ>とも言うから気になるが、風雨吹き込むこの国だ。どうやって広い間口を戸一枚で閉ってくれるのか。そのお手並みに期待したい


 ただ前任者のことがある。首相に「言葉も行動も」と望むのは別にトレードオフではない。そのことを常に行動によって証明してほしい。


 中日春秋 2010年6月5日筆洗

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