つえをついたお年寄りを前にしながら、シルバーシートに座り込んだ若者が動こうともしない。悲しいことに、都会ではありふれた光景になってしまった


 「お年寄りに席ぐらい譲ったらどうだい」。まだ体力に自信があったころ、二十歳ぐらいの男の子にそう注意したことがある。彼ははっとした顔を見せて「すみません」と謝りながら席を立った


 心根は優しい若者がほとんどなのだと思う。ちょっとばかりの想像力が足りないだけなのだ。ただ、相手によっては、思わぬ車内トラブルに発展することもあるから、要注意だ


 朝から、若い女性に絡んでいる酔っぱらいの男に注意した時のことだ。「おれは刑務所に入ってもいいんだ」とすごまれた。近くにいた青年が加勢してくれてその場は収まったが、女性はお礼の一言もなく知らんぷりだった。勇気を出した甲斐(かい)もなかったなと情けなかった


 そんな昔の話を思い出したのは、つえをついたおばあさんに席を譲ろうとしたら、冷たく断られたという女子高校生の体験を発言欄で読んだからだ。「小さな親切が、できなくなってしまいそうです」という声が悲しい


 自分は若いつもりなのに席を譲られ、内心穏やかでないかもしれない。それでも、若い人が振り絞る勇気にどうか応えてほしい。小さな親切がめぐりめぐって、私たちの住む社会を豊かにするのだから。


 2010年6月1日筆洗

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