敗戦間近の一九四五年八月十二日、米内光政海相は側近にこんな言葉を漏らしている。「原爆とソ連参戦はある意味では天祐(てんゆう)だ、憂慮すべき国内情勢を表面にださずに戦いをやめることが出来れば、寧(むし)ろ幸いである」


 戦後、明らかになった和平派の本音である。広島、長崎の被爆者、満州棄民の犠牲がなければ、本土決戦を呼号する陸軍は、頑強な抵抗をやめなかったのだ


 米軍普天間飛行場の移設問題で、批判を浴びた鳩山首相はきのう、韓国の李明博大統領と会談。魚雷攻撃で韓国の哨戒艦を沈没させた北朝鮮を強く批判、日韓両国が緊密に連携する方針を確認した


 朝鮮半島情勢の緊迫が一気に高まったこの状態を首相はまさか“天祐”と思っていないだろう。それでも、日米同盟の重要さを訴える好機と考えても不思議ではない


 憲法九条と日米安保条約が共存する下、国防予算を抑え、経済成長を優先させてきたのが日本の戦後だ。沖縄在住の芥川賞作家目取真(めどるま)俊さんはかつて「沖縄の現実に対して、あなたはどうするのか、という問いが、すべての日本人に向かって沖縄から発せられています」(『沖縄「戦後」ゼロ年』)と指摘した


 ほとんどの国民は、安全保障の負担を感じずに生きている。「その醜さを日本人は自覚すべきです」と目取真さんは迫る。普天間問題は鳩山首相を批判して終わる話ではない。


 中日春秋 2010年5月30日筆洗

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