※ネタバレあります。
知りたくない方はスルーなさってね。

【ベルリン・天使の詩】(87年)などで知られる独の名匠ヴィム・ヴェンダースが描く《THE TOKYO TOILET プロジェクト》で世界的な建築家やクリエイターによって改修された東京・渋谷の公共トイレを舞台にした人間ドラマ。
カンヌ国際映画祭では、役所広司が最優秀男優賞を受賞。

役所広司さん演じる寡黙な中年(初老?)の男性が主人公平山。仕事は公衆トイレの掃除。

平山のルーティンを延々見せられる。
さっぱりと掃除された狭い四畳半の部屋で朝目覚め(目覚まし時計の音は1度も聞かなかった)、
雨の音にも聞こえる木の葉が騒めく音を聞いてから支度をし、仕事に行く。
仕事が終わったら、銭湯に行って、馴染みの店で1杯飲み、帰宅後眠くなるまで古本屋で買った文庫本を読む。
毎日同じように見えるが、仕事に行く時に聴く懐かしい曲のカセットは毎日違うし、
渋谷の公衆トイレはお馴染みのよくあるトイレではなく、ちょっと変わったトイレばかり。
好んで撮る木漏れ日も当然毎分毎秒違う。

平山は寡黙でほとんど喋らない。
舞台が渋谷。
渋谷っていろんな人が田舎よりいるイメージがある。
そのいろんな人との距離を保ちながらも、完全に否定しているわけではなく、
楽しんでさえいた平山だが
もしかしたら、田舎より渋谷の方が1人でいることを許してくれるのかもしれない。

他の登場人物はそれぞれクセがある。
でもその一人一人を平山は否定しない。
平山が休日に行くスナックのママが石川さゆりさんで、
これが色っぽくて可愛らしい。最高。私も通いたい。
しかも元夫が三浦友和さん。
三浦友和さんはずっと正統派のハンサム。
離婚後家庭も持ったのに病氣になり、元妻に謝りたかったという、誠意にも卑怯にもとれる役を
もどかしい感じでうまく表現している。
ホームレスの田中 泯さんは凄みがあるし、
しょうもない若者のタカシ、柄本時生さんは本当にしょうもなく出来ていた。
平山の姪であるニコ、中野有紗さんは透明感のあるニコだったし、
その母であり、平山の妹であるケイコ、麻生 祐未さんは夕焼けニャンニャンの頃の特別感をまだ保持していて、クールビューティーなのが素敵だ(私と同い年だなんて)。
ものの見方が平山と全く違うが、兄の好きなものをお土産に持ってくることは出来る。
本当は兄が好きなのだと伝わる。
劇中でカセットを1本盗んで返しにきたアヤちゃん、アオイヤマダさんが、
平山の頬にキスしちゃったの、わかる。
平山は何氣なくもてる。

現在の平山は経済的にはあまり裕福ではない。
多分平山は結構裕福な家庭で育ったのだと想像できる。
音楽の趣味や選ぶ本(ウイリアム・フォークナー、幸田文、パトリシア・ハイスミス)が渋い。
いつも小さなフィルムカメラを持ち歩いて、〈友達である樹〉の木漏れ日の写真を撮る。
裕福だっだろうし、教養もある。
精神的にはとても豊かで、穏やかな人。
自分の機嫌を自分で取れる人だ。
でも、見ないでおきたい過去もあり、
それを正視せずには(思い出さずには?)いられない時、
あんなに穏やかにハッピーだった平山は声を殺して泣く。切ない。


穏やかな生活を穏やかに送れなくなることが幾つか起きる。
いつもハッピーな平山の眉間に皺が寄る。
でも最後はやはり幸せそうに笑っている。

難しい映画だと思った。
観客は中高年の方々ばかりだったが、
みなさんご理解なさってるのか。すごいな。
しみじみと良かったけれども、
かなりアーティスティックだ。
役所広司さんの演技のクオリティに唸らずにはいられない。
しかも役所さんは演技案をいくつも用意していたと後から聞いた。
なまらすげー。

でもね。
どんなに完璧に綺麗に掃除しても
トイレの床掃除用のモップの濡らす部分を服に付くような位置で持つのと、
素手でトイレの床に落ちているゴミを拾ったあと、
素手でトイレットペーパーを替えたように見えたのが嫌だった。
ゴミを拾った手でトイレットペーパーを替えたのだったら、絶対やっちゃだめ。



↑私の部屋の朝