グローバル・エリートの時代 個人が国家を超え、日本の未来をつくる | hiroの書評ブログ

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グローバル・エリートの時代 個人が国家を超え、日本の未来をつくる/講談社

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グローバル・エリートの時代
個人が国家を超え、日本の未来をつくる

グローバル・エリートの時代個人が国家を超え、日本の未来をつくる新興国の経済成長は目覚ましく、新興国のGDP の合計が先進国を上回る日も近い。そうした中、日本企業、そしてビジネスパーソンが世界で活躍するには何が必要か、その答えを示す。
● 近年、日本企業では、新卒採用において、留学経験を持つ日本人や海外の留学生の採用に重きを置く「グローバル採用」が増えている。この動きが本格化すれば、外国人従業員数が増加し、企業の組織運営の仕方も大きく変わらざるを得ない。
● 今、グローバル化の質が変容している。1つは、今後は新興国への拡大が中心となること。もう1つは、「組織のグローバル化」が必要になることだ。すなわち、新興国の優秀な人材を多く採用し、彼らが活躍できる組織にすると同時に、グローバルな視座を持つ日本人を育て、地域的に展開する必要がある。
●「組織のグローバル化」が必要な理由は、3 つある。・組織のグローバル化を進めないと、コスト、質、スピードの面で、ZARAなどのグローバル企業と太刀打ちできない。・新興国市場に素早く対応するには、技術研究や製品・サービスの開発まで含めて一括して現地へ移転する必要がある。・日本では労働人口が減り続けているので人材不足になる。そのため、新興国などの人材を活用する必要がある。
● 今、多国籍の人材が集まるグローバルな組織で活躍できる「グローバル・エリート」が求められている。この人材に必要なスキルには、例えば、次のようなものがある。・文化的背景や価値観の違いを感じる「感受性」・異なる価値観や行動への「理解力」・多様性を受け入れ、やり方を変えられる「柔軟性」・異質な環境で自分が貢献する「オーナーシップ」・ゼロからトップダウンで作る「ゼロベースの構築力」・しつこくコミュニケーションをする「粘り強さ」

「グローバル採用」の衝撃
2010 年頃から、新聞などで「グローバル採用」という言葉を頻繁に目にするようになった。この言葉は、日本企業の新卒採用において、国内の4 年制大学を卒業した日本人ではなく、海外の大学に留学経験を持つ日本人や日本に来ている留学生を中心に採用することを指している。例えば、パナソニックでは、2011 年度の新卒採用枠1390 人の8 割にあたる1100 人を、ユニクロも2012 年に採用する1300 人のうち、やはり8割の1050 人を外国人とすると発表した。それ以外にも、東芝、シャープなど多くのメーカーが、留学生や外国人の採用を強化している。● グローバル採用が生み出す変化これらの企業は急に外国人の採用を始めたわけではない。過去にも外国人を海外で採用している。ではなぜ、グローバル採用などと大騒ぎするのか。実はグローバル採用の本格化に伴い、次の2 つの点が大きく変わる。それによって、日本企業の組織運営の仕方も大きく変わらざるを得ない。1 つは、外国人従業員数が今までとは比較にならないほど増加するという、「量」の違いだ。パナソニックやユニクロでは、10 年もしないうちに外国人の数が日本人の数を上回るだろう。そうなると、従来の組織運営では回らなくなる。もう1 つは、「質」の違いである。今後は、外国人を海外の工場や販売拠点の平社員として終わらせるのではなく、経営幹部になるよう育てていくようになる。日本企業がグローバルに成長し続けるためには、経営判断を行える人材を複数の新興国市場に分散させる必要があり、外国人を経営幹部に育てていくことが不可欠になってきているのだ。このように現在、日本企業において、製品を海外で売るとか、生産するとかいう以上のグローバル化が起こり始めているのである。●「グローバル化」の質が変容している今後必要になるグローバル化は、これまで言われてきたグローバル化とは、質的に大きく異なる。1 つ目は、対象地域の広がりの変化だ。かつては、欧米などの先進国へ拡大することをグローバル化と呼んだ。だが、今後必要になるグローバル化は、新興国への拡大が中心となる。2013 年には、新興国全てのGDP の合計が先進国全ての合計を上回るだろうとIMF(国際通貨基金)は予想している。多くの製品・サービスの市場は、経済規模の伸びに比例して拡大するので、どの産業においても、新興国の市場規模が先進国の市場規模を超える日は近いといえる。もう1 つの大きな変化は、「組織のグローバル化」が必要になっていることである。新興国の存在感が高まるにつれ、今までのような海外での生産や販売だけでなく、研究開発や経営を含む全ての機能においてグローバルな人材を活用する必要が出てきている。新興国の優秀な人材をどんどん採用し、彼らが活躍できる組織にすると同時に、グローバルな視座を持った日本人を育て、地域的に展開していくことの両方が必要となっているのである。

なぜ組織のグローバル化が必要なのか
前述の通り、日本企業は「組織のグローバル化」に直面している。その理由を、競合、市場、日本発の課題の3 つの視点から見てみると ――①競合の視点グローバルに店舗を展開する、ZARA など欧州の衣服SPA(製造小売業)は、各地の顧客の状況を拾い、それに合わせて短期間で製品を次々に投入するサプライチェーン(原材料の調達から最終消費者に至るまでの一連の流れ)を築くことで、豊富な品揃えを安い価格で提供し、成功している。あるいは、韓国のサムスン電子では、新興国を含む各国に社員を派遣して実際に生活をさせ、その国のニーズを文化的背景のレベルから理解させる研修を行っている。こうして、各地域の詳細を理解しているグローバルな人材を育て、各国の事業の素早い意思決定に役立てている。日本企業でも組織のグローバル化を行わなければ、これらの多国籍企業と比較して、コストの面でも、質の面でも、スピードの面でも競争力を持てないような状況に追い込まれる。②市場の視点今後、世界市場において新興国市場の規模が半分以上を占めるようになると、これらの新興国に照準を合わせた経営が必要となってくる。これらの市場は、先進国よりも人々の収入の水準が低い。そして経済発展のスピードが速いため、ニーズの変化も速い。このような新興国市場で提供される製品・サービスは、今まで先進国市場向けに提供してきたものとは全く異なるものとなる。新興国市場に素早く対応していくには、今までのように、生産や販売を移転するだけではなく、技術研究や製品・サービスの開発まで含め、一括して新興国へシフトすることが大切になってくる。③日本発の課題という視点日本企業は今後、質的な人材不足だけでなく、量的にも人材不足に直面する。日本では、少子化とそれに伴う労働人口の減少が始まっている。一方で、新興国を含む世界市場の成長に合わせて企業を成長させようとすると、日本人だけでは市場や競合の伸びについていけない時代が来るのだ。優秀な人材の供給源として新興国が台頭してくるため、これら新興国の人材を自社の中で十分活用できるか否かが、日本のグローバル企業にとって成長のカギになる。従って、組織のグローバル化は、質的にも量的にも日本企業にとって必須になっているのだ。

グローバル・エリートの時代
多国籍の人材が集まるグローバルな組織で活躍できる人のことを、私は「グローバル・エリート」と呼んでいる。似た言葉として、最近よく使われる「グローバル・リーダー」という言葉があるが、この言葉はグローバルな環境で、何らかの集団のリーダーとなる人材という意味合いで使われることが多い。一方、グローバル・エリートとは、グローバル・リーダー層に加え、より幅広くグローバルな環境で仕事をし、活躍する人々を指す。具体的には、多様な文化的背景の人々を結びつける橋渡しの役割を果たす人や、グローバル・リーダーを補佐的な立場で支える人など、グローバルな環境において様々な文化的背景の人々を活かして仕事をして活躍する層も含んだ言葉である。組織において、経営幹部などのリーダー層になるのはごく一部だ。だが、実際に企業組織がグローバル化する際、最も必要なのは、グローバルなマインドを持った幹部だけではない。いろいろなバックグラウンドの人々と働き、成果を出せるマネージャーレベルや現場の層も多く必要なのである。例えば、1 つの製品を提供して売上を上げるためには、各国に散らばっている技術や人材などの経営資源をつなぎ合わせることが重要になる。この役目を果たす人は、まず技術を十分に理解しており、先進国側で技術を十分に理解している人を活用できると同時に新興国の顧客ニーズを理解し、またはニーズを理解している新興国の人材を活用できる必要がある。これがグローバル・エリートの果たす1 つの役割となる。

グローバル・エリートに必要なスキル
では、グローバル・エリートに必要なスキルとは? それは、例えば、次のようなものである。● 文化的背景や価値観の違いを感じる「感受性」日本人が多様な価値観を持つ人々と一緒に仕事をするためには、異なる価値観や行動パターンを受け止めて、ある程度は受け入れる必要がある。その最初のステップが、価値観や行動パターンが異なることを「感じる」「認識する」ということである。こうした感受性を育てるためには、異なる価値観を持った人々に違和感を覚え、その理由を考える経験を何度もすることだ。そのためには、海外の異なる価値観に触れる必要があるが、必ずしも海外の人々と物理的に一緒に過ごす必要はない。インターネットが普及し、世界中の情報が手に入る今、海外の新聞やニュースなどでも感受性を育てることができる。メディアからその国の価値観や文化の違いを感じることは、日本と他国の報道とを比較し、なぜこんなに違うのかと疑問に思うところから始まる。例えば、インターネットを利用して、同じ事件について日本と海外の新聞記事を比較して、違いの理由について推論を立てる。それを、複数の記事を比較しながら検証していくことで、文化的な違いに対する感受性を育てることができる。● 異なる価値観や行動への「理解力」多国籍の人々と働いていると、文化的な違いが原因でぶつかることが多い。そして多くの場合、どちらの主張にもそれぞれの文化や価値観に根ざした道理がある。従って、相手の道理を考慮して、お互いにやりやすい方法を編み出していくのが、お互いの能力を活かしあう最もよい方法になる。以前、私はメキシコやブラジルなど中南米の出身者数名と米国人1 名に交じって会議をしたことがある。この時は最初の約30 分、全く話せなかった。というのは、ラテン系メンバーの議論が激しく、口を挟むタイミングがつかめなかったのだ。誰かが発言している最中に、別の人が意見を言う。そして、その人の意見が核心に入ると、また別の人が「私はそうは思わない」とかぶせてくる。米国人でも、通常、頭から否定しない。反論する場合、まず相手の意見を認める言葉を入れる。会議後、ラテン系の人々に聞いたところ、反論の際、相手の意見を認める言葉を挟まず頭から否定することについては、「回りくどい。どうせ否定するのだから同じ」という考えのようだった。私が「相手が腹を立てたりしないのか?」と聞くと、そんな時は、後で一緒に食事に行き仲良くなればよいと言う。それが、彼らのやり方らしい。今まで会ったことがない国の人と仕事をすれば、必ず価値観や行動パターンの違いに悩まされる。だが、この違いを理解する「理解力」を身につけることで、一緒に働くのが楽しくなっていく。● 多様性を受け入れ、やり方を変えられる「柔軟性」相手が自分とは違う価値観を持っていることを認識し、その裏にある道理を理解しても、双方が歩み寄り、やり方を変えないと状況は変わらない。特にリーダーは、譲れるところは譲り、相手が働きやすいように自分のやり方を変えることが、相手を十二分に活用するために必要になる。規律が必要な生産工場などでは、会社のやり方や規律に従って働いてもらう必要があるかもしれないが、事業開発など知的集約性の高い仕事ほど、「柔軟性」がリーダーの資質として大切になる。● 異質な環境で自分が貢献する「オーナーシップ」グローバルな環境では、他人任せでは問題は何も解決しない。自分が積極的に動いて解決しよう、貢献しようと考える発想ややる気が大切だ。自分が積極的に動いて解決していこうという精神を「オーナーシップ」と呼ぶ。日本語でいうところの「当事者意識」だ。このオーナーシップを持つことで、グローバルな環境で、多様な価値観を持った人々をまとめて、物事を前に動かしていくことができるようになる。● ゼロからトップダウンで作る「ゼロベースの構築力」多国籍の人が集まる場で問題を解決する際には、解決方法や戦略などをゼロから構築する「ゼロベースの構築力」も極めて重要となる。かつての日本企業のように、社員が皆、前例を踏襲することを善しとする同じ価値観を持つ組織では、ゼロから戦略を構築し、実行するための方法論を作り直すことは、あまりないかもしれない。しかし、価値観が異なる人々が集まった場では、前例の意義が厳しく問いただされ、実効性のないやり方は壊され、新しいやり方を作っていくことが求められる。その時には、誰もが納得する最良のものをゼロから論理的に構築する、ゼロベースの構築力が重要となる。● しつこくコミュニケーションをする「粘り強さ」コミュニケーションのしつこさも、必要なスキルである。あきらめずに相手を説得しようという「粘り強さ」が、文化的な違いを持つ人々と仕事をする際に重要になる。特に新興国では、論理的な説明能力よりも、コミュニケーションの粘り強さがより重要となることが多い。