日本企業をグローバル勝者にする経営戦略の授業 | hiroの書評ブログ

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日本企業をグローバル勝者にする経営戦略の授業/PHP研究所

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日本企業をグローバル勝者にする経営戦略の授業

円高などをものともせず、力強く成長している企業がある。こうした「勝ち組」企業に見られる、グローバル勝者となるための戦略、「スマート×リーン」戦略について解説する。● 企業が競争に勝つための基本戦略として、ハーバード大学のマイケル・ポーター教授は、次の3 つを挙げている。①コストリーダーシップ戦略(コスト戦略)②差別化戦略③市場集中戦略(ニッチ戦略)しかし、市場がグローバル化した今日、その有効性は以前より低下している。
● 今日、グローバル競争に勝てる戦略となり得る可能性があるのは、「スマート×リーン」である。ここでいうスマートは、顧客が感じる価値や差別化戦略を意味し、リーンは、低コスト化、コスト戦略を意味する。つまり、差別化と低コスト化の両方を目指す戦略である。
● スマート×リーンを実現するには、次の「4 つの資産」を活用する必要がある。・顧客接点:小売りの店頭やクレーム対応、アフターサービスなど、実際にオペレーションしているところ。・顧客洞察:顧客が何を望んでいるのか、顧客にとっての新しい価値は何なのかを考えること。・組織DNA:自社ならではの着想をする時の根っこにあるものを考えること。・事業現場:企業が商品やサービスを顧客に提供する際に運営しているオペレーション。多くの企業は、このうち1つか2つしか使っていない。持続的に成長するには、4つの資産をバランス良く使う必要がある。

「高品質+低価格」戦略
企業にとって大切なもの、それは成長である。では、どうすれば企業は持続的に成長できるのか。
● マイケル・ポーターの3 つの基本戦略は今も有効か?企業の持続的な成長を実現する経営戦略を考える上で、まず確認しておきたいのが、ハーバード大学のマイケル・ポーター教授の競争戦略論だ。ポーター教授は、『競争の戦略』で次の3 つの基本戦略を示した。①コストリーダーシップ戦略(コスト戦略)②差別化戦略③市場集中戦略(ニッチ戦略)コストリーダーシップ戦略(以下、コスト戦略)は低コスト化を実現することによって、差別化戦略は他社にない特徴のある価値を提供することによって、競争に勝つことを目指す。市場集中戦略は、特定の分野に経営資源を集中することで競争に勝つことを目指す戦略である。ただ、特定分野に集中する場合でも、コストか差別化のどちらかに軸足を置くべきとされる。すなわち、突き詰めれば、コスト戦略か差別化戦略かということになり、中途半端な立ち位置では競争に勝てない、と指摘している。こうした戦略が今も有効であることは間違いない。ただ、市場がグローバル化した現在、その有効性は以前より低下している。コスト戦略は、他社が追随してくると、安値競争という泥仕合に陥るおそれがある。差別化戦略を追求し高機能を実現できたとしても、それが消費者に受け入れられるとは限らない。●「二に兎と追い戦略」が有効3 つの基本戦略の有効性が薄れてきているのだとしたら、新たな戦略を考える必要がある。そもそも顧客は、価値が高く、かつコストが安いものを求めているはずだ。両方を実現してくれるものがあれば、それを購入するのではないか。つまり、両方を目指すことが新しい戦略になる。もちろん、それは簡単なことではない。しかし、だからこそグローバル競争に勝てる戦略となり得る可能性がある。「二兎を追う者は一兎をも得ず」であることは重々承知した上で、あえて「二兎追い戦略」に挑戦する必要がある。

スマート×リーンを実現する
この二兎追い戦略のために提案したいのが、「スマート×リーン」というモデルである。スマート×リーンの「スマート」は、顧客が感じる価値や差別化戦略を意味し、「リーン」は低コスト化、コスト戦略を意味する。つまり、スマート×リーンとは、差別化と低コスト化の両方を目指す戦略のことである。● ユニクロの強さの秘密この理想モデルに一番近いのが、ユニクロだ。同社は高級衣料であった「フリース」を1900円という低価格で販売し、一世を風ふう靡びした。その後、後追い企業によってフリースの価格が安値安定すると、ユニクロの競争力は低下する。そこでユニクロは、高品質でありながら低価格―― スマート×リーンなカジュアルベーシックを目指した。「ヒートテック」「ブラトップ」など、その後のヒット商品を見ても、高品質+低価格なカジュアルベーシックを基軸にして進化・成長していることがわかる。では、なぜ同社では、スマート×リーンという難易度の高い二兎追い戦略が成功しているのか?まずスマート面では、デザイン性や機能性を高める努力を絶えず行っている。海外の有名デザイナーを招しょうへい聘したり、機能性を高めるための素材開発に力を入れてきた。また、中国のパートナーの工場には技術者を送り込み、品質向上、コスト削減に取り組んでいる。さらには、ニューヨークやパリのスマートなブランドを展開する企業を買収する一方、ジーユー( g.u. )というユニクロよりも一層リーン(低価格)なカジュアルブランドを立ち上げた。ユニクロだけでは成長が先細りするため、スマート側とリーン側に翼を広げているのだ。こうして価値とコスト ―― スマート×リーンの好循環の実現に成功することで、ユニクロは持続的な競争優位を実現しているのである。● 使われていない資産のありかでは、スマート×リーンを実現するには具体的にどうすればいいのか。まずは、下図を見てほしい。これは、通常の事業開発プロセスを表したもので、横軸にバリューチェーン(時間軸)を置き、縦軸にエコシステム(空間軸)を置いている。バリューチェーンは、新しい事業を構想して作り上げ、実際にオペレーションするという流れで、「着想」「構築」「提供」の3 段階に分かれる。エコシステムは、顧客と企業がいて、その間に商品やサービスがあるという流れで、「顧客」「企業」「商品・サービス」の3 つに分かれる。企業の多くの活動は、ある商品やサービスを思いつき、それを作って提供する「プロダクトアウト」が基本だ。単純にバリューチェーンを左から右に動く「横軸運動」である。この流れの中で、最も時間をかけがちなのが構築のプロセスである。構築時に「お客様目線」で考え、「自社の強み」を探し、「3 C( customercompetitor company )分析」を行うなど「縦軸運動」を行うが、提供時にはそれをそのまま実行するのみである。上図において、四隅にあるボックスでは運動があまり起きていない。だが、この四隅にこそ、顧客価値を高め(スマート)、コストを下げる(リーン)ための資産が眠っているのである。● 四隅を見れば自社の弱点がわかるそれを示したのが、次の図である。右上のボックス、顧客と提供がクロスする「顧客接点」は、実際にオペレーションしているところだ。小売りの店頭はもちろん、クレーム対応やアフターサービスなども含まれる。気を使う必要がある反面、ここが宝の山となることが多々ある。セブン‐イレブンは、POS 情報で顧客が何を買ったかだけでなく、店内での顧客の足取りを分析することで、顧客がどういう行動の結果、何を、なぜ買わなかったのかを理解しようとしている。こうした顧客の行動をじかに見続けることでしか宝を見つけることはできない。左上の、顧客と着想がクロスする「顧客洞察」は、顧客が何を望んでいるのか、顧客にとっての新しい価値は何なのか、それを考える場所である。スターバックスの「第三の場所」というコンセプト、iPod の「自分のライブラリを全て持ち運べる」というコンセプトもここで考えられている。左下の、企業と着想がクロスする「組織DNA 」は、自社ならではの着想をする時の根っこにあるものを考えるところだ。そこから生み出せる自社独自のものは何か、自社のこだわりをお客様のためにどう活かすのか、自社ならではの新しいものを作り出すアルゴリズムを生み出す。右下の企業と提供がクロスする「事業現場」は、多くの日本企業にとっての強みである。企業が商品やサービスを顧客に提供する際に運営しているオペレーション全てを対象にしている。トヨタ生産方式の「現場」なども、このボックスのことだ。最後に、ボックスの真ん中、商品・サービスと構築がクロスするところが「成長エンジン」である。まさにイノベーションの核となる部分であり、どの企業も最も力を入れるところである。では、あなたの会社は新しい事業なり製品を開発する際、これらの資産をうまく使えているだろうか? どこか1 つか2 つの資産だけを頻繁に使う、バランスの悪い会社が多いのが現実だ。例えば、組織DNA が強力にあって顧客洞察に優れている会社は、常に新しい何かを提供したがっている。昔のホンダやソニーなどがそうだ。こうした会社は、自社の強みと顧客の欲しがっているものを見つけるのはうまいが、後から他社に追いつかれるとモルモットにされてしまい、多くの場合は持続せず息切れしてしまう。マーケティングが得意なP&G のような会社は、顧客接点、顧客洞察を重視する。それぞれに良いところはあるが、惜しむらくは、4 つの資産をバランス良く使っていない点である。● 単なる課題解決から経営戦略へでは、どうすれば4 つの資産をバランス良く使えるのか? 実は、使い方には順番がある。出発点は顧客接点で、お客様と商品が触れている世界をまず見に行くのである。以前にNHK で見たのだが、月曜日の朝、ダイキンの設計部長が嬉うれしそうに紙束を持ってきて、「今日半日、これで楽しめますわ」と言っていた。その紙束は、前週の顧客からのクレームの束であり、言い換えれば宝の山、ヒント集なのだ。この顧客接点から、次に向かうべきはどこか?多くの会社は、気づいた問題点をすぐにカイゼンし、事業現場に戻す。あるいは、これを次のマーケティングのネタとして顧客洞察のために使う。こういう短兵急なことをせずに、組織DNA で自社の強みに置き換えて、「お客様の困りごとを自社らしく解決するためにはどうすればよいのか」「自社ならではのやり方でお客様を喜ばせるには何が必要か」などを深く考えれば、独自の答えが出てくる。それが、次の顧客洞察に活かせる。顧客接点で発見した課題を、一度組織DNA を通して考え、それから顧客洞察を加えて解決策なり新コンセプトを導き出し、それを事業現場で実現するというのが、一連の流れとなる。これができていないと、課題解決のための仮説や提案が陳腐なものになるか、その会社にはできない解決策になってしまう。あるいは、どの会社にも当てはまる一般的な解決へと向かってしまう。● iPod 誕生の裏側アップルのiPod は、上述の流れで生まれた。当時、米国では音楽ファイルを共有できる「ナップスター」などのMP 3 と呼ばれるソフトを使うことで、違法にインターネットからダウンロードして音楽を聞くのが流は行やっていた。これはある程度、IT 知識のある人たちだけのものだった。アップルの人たちの中にもこれを体験した人がいて、これを合法的に、誰にでも使えるようにできないかと考え始める(顧客接点)。この課題に直面することで、「我々はユーザーインターフェースの会社である」というアップルのDNA が目を覚ます。MP3 をいかに大衆化するか。ユーザーにストレスを感じさせないためにはどうすればよいか(組織DNA )。そして、自社のDNAならではの解決策に顧客の体験価値を加えて考えついたのが、音楽をライブラリとして持ち運ぶことができるというコンセプトだった(顧客洞察)。これは誰か1 人の天才が思いついたアイディアでも何でもない。顧客接点→組織DNA→顧客洞察→事業現場という流れの中で生まれたものである。*  *  *アップルなどの「勝ち組」に共通する特質。それは「自社のDNA を基軸とした環境適応力」だ。欧米流の最新経営モデルを振りかざすわけでもなく、新興国の追い上げに浮足立つこともなく、自社の本質的な強みに常に立ち返りつつ、環境変化を先取りして事業モデルを進化させていくことこそ、勝ち組に加わる条件である。