
あらすじ
大手自動車メーカー・トキワ自動車のエリート社員だった君嶋隼人は、とある大型買収案件に異を唱えた結果、横浜工場の総務部長に左遷させられ、同社ラグビー部アストロズのゼネラルマネージャーを兼務することに。かつて強豪として鳴らしたアストロズも、いまは成績不振に喘ぎ、鳴かず飛ばず。巨額の赤字を垂れ流していた。アストロズを再生せよ―。ラグビーに関して何の知識も経験もない、ズブの素人である君嶋が、お荷物社会人ラグビーの再建に挑む。
ひと言
以前、池井戸さんの「俺たちの箱根駅伝」という本を読んだときに、この「ノーサイド・ゲーム」という本も書かれていることを知りました。なんと2019年6月、日本開催のラグビーワールドカップ2019がキックオフされる9月よりも前にこの本が出版されていたのです。それにTBSでTVドラマまでワールドカップ前に放送されていたのに……まったく知りませんでした。
本を読み終えてすぐほんとうにすぐにレンタルDVDを借りて観ました。なんとなんと元ラグビー日本代表のキャプテンを務めた廣瀬 俊朗さんまでスタンドオフの浜畑 譲役で出ているじゃありませんか!。本もすごくよかったけれど、ドラマもすごくよかったです。返却するまでにもう一度全話見直します♪

いま自分たちが抱えている問題はなにか。なにをしなければならないか。批判は誰にだってできる。肝心なことは、行動を起こすことだ。「アストロズの宣伝のために街頭でチラシ配りでもするか? いや、そんなものは意味がない。ただスタジアムが埋まればいいというわけではないんだ」君嶋は断じた。「重要なのは、我々が観てもらいたい人に来てもらうことじゃないか。じゃあ、誰に観てもらいたい」「まず、社員とか」少し考えて、多英がいった。「一応、アストロズを通じてトキワ自動車の社員がひとつになれるということも目的になっていますので」「もちろん、それも重要だな」君嶋はテーブルを指先でとんとんと叩きながら考えている。「それだけでいいか。日本のラグビー、将来のアストロズが強くなることを目的とするなら、オレは子供たちに来てもらいたい。小学生や中学生。いまはサッカーや野球に熱中しているかも知れないけど、何かのきっかけでラグビーに興味をもってくれるかも知れない。ウチにジュニアのチームはあるか」君嶋がきくと、「ありません。作ろうという話は以前から出てはいましだけど、実現できなくて」、多英がいった。「だったら作ろう」君嶋はいった。「どう思う?」岸和田にきくと、「いいと思います」そんな返事がある。「だけど、ジュニアの指導は、君たちがやることになるぞ。それでもいいか」「いいと思います」答えたのは岸和田ではなく、多英だ。「五十人くらいいて、全員が試合に出るわけではないし、そのくらいのやりくりはできるはずです。それに、子供たちが観に来るようになれば、当然親も一緒にきます。それだけでも、スタンドは賑わうんじゃないでしょうか」その場で思いつくアイデアを、多英がメモしはじめた。
(第一部 第二章 赤字予算への構造的疑問)
「何もいうことはない」きっぱりとした返事があった。「お前の話には説得力以上のものがあった」「なんだそれは」「お前は自覚してないかも知れないが、チーム愛みたいなものだ。お前は本気でアストロズのこととを良くしようと思ってる」「シロウトなりにな」君嶋は笑いを浮かべていった。「オレは数字のことしかわからん」「だけど、本気だろ」柴門は、選手たちを眺めながらいった。「本気ってのは、相手に伝わるもんなんだよ。精神的な成長は、チームにとってもの凄い力になる。スキルやフィジカルコンディションをいくら鍛えても、それには及ばない。ラグビーを知らない奴がどうやってゼネラルマネージャーやるのかと思ったが、知らないからこそできることってのがあるんだな」「褒め言葉として受け取っておくよ」君嶋は傍らでぬるくなっていたビールを喉に流し込んだ。「ただし、いくら地元密着を進めても、試合で結果がでなければ、ファンは離れていく。強くなきゃいけないんだ。頼むぞ」柴門は黙したまま鋭い眼光を真正面に向け、その唇に不敵な薄い笑いを浮かべた。
(第一部 第四章 新生アストロズ始動)
「君も私も、このチームも、そしてトキワ自動車という会社も、さらにいえばこの日本という国も、あるいは世界のすべてがそうだ。最後には道を過(あやま)たず、理に適ったものだけが残る。逆にいえば、道理を外れれば、いつかしっぺ返しを食らう。自浄作用がなくなったとき、そのシステムは終わる」その意味で、日本蹴球協会は土壇場で息を吹き返したといえるかも知れない。「だが、もっと大きなところで、どんどん理不尽がまかり通る世界になっている。だからこそ、ラグビーというスポーツが必要なんだろう。『ノーサイド』の精神は日本ラグビーの御伽話(おとぎばなし)かも知れないが、いまのこの世界にこそ、それが必要だと思わないか。もし日本が世界と互角に戦える強豪国になれば、きっとその尊い精神を世界に伝えられるだろう。それこそが君に与えられた使命だ」思いがけない滝川の言葉に、君嶋は言葉を失った。その通りだと君嶋も思う。必要なことは、現状を打破し、日本のラグビーが本当に強くなるための仕組みを作ることだ。そのための一歩は、すでに始まっている。拍手に迎えられ、出場選手たちがグラウンドに姿を現した。キックオフの笛が鳴った途端、アストロズの選手たちが一斉に駆け上がる。スタンドの大歓声が天空へと舞い上がった。
(第三部 ノーサイド)