あらすじ
あることがきっかけで学校に行けなくなってしまった中1の陽和(ひより)。夏休み、逃げるようにして訪れたおじいちゃんの家の裏山で、不思議な少女・キミちゃんに出会う。陽和は、やさしい雰囲気のキミちゃんと一気に仲良くなるけれど、ちょっとしたすれ違いでケンカ別れして、そのまま会えなくなってしまって…。じつは彼女は、80年前・戦時中を生きていた女の子だった。命の大切さ、尊さを感じさせてくれる、やさしくて感動の物語。
ひと言
あとがきにも書いてあるように、「あの花~」の主な読書層よりも、もっと若い小学3、4年生くらいの人にも読みやすいような内容で、「あの花~」と同じように戦争のおそろしさや平和の大切さを伝えられるような作品でした。またこの作品がきっかけになって学校に通えなかった子が、また元気に登校できるようになってくれればいいなぁと思いました。
「この川はね、子どものころよく妹と遊んでいた、思い出の場所なの」うつむいたまま、キミちゃんは静かに語る。「妹に会いたくなると、ここに来ていたの。だけど、ここに来るとやっぱり、つらいことばかり考えてしまって……」キミちゃんが顔をあげて、わたしのほうを見た。すこし潤んだ目をしているけれど、やさしくほほえんでいる。「だけどね、ひよちゃんに会って、お話ししたり遊んだりしていると、つらい気持ちがかるくなるの。ああ、こうやってあの子とも遊んだりおしゃべりしたりしていたなって。とっても楽しくて幸せだったなって」「キミちゃん……」わたしは、どんな言葉を口にするのが正しいのかわからなくて、ただうなずくことしかできない。「亡くなってしまったのは悲しいけれど、苦しかったこと悲しかったことばかり思いださずに、楽しくて幸せな思い出もちゃんと大切にしようって、思えるようになったの」わたしははっとした。まるで自分のことを言われているようだとかんじた。そうだ。わたしは学校が大好きだった。楽しくて幸せな思い出が、たくさんあった。いまキミちゃんとこうしているみたいに、仲のいい友達と、時間も忘れておしゃべりしたり、ふざけ合ってはしゃぎすぎて先生にしがられたり、お腹が痛くなるほど爆笑したり……そんな思い出がたくさんあった。それなのに、大切な思い出をいつの間にか忘れて、苦しいこと、悲しいことばかり考えてしまっていた気がする。「ひよちゃんのおかげよ。本当にありがとう」キミちゃんがわたしの手をとり、その両手でふわりとつつんでくれた。やわらかくて、あたたかい手のひら。「そんな……わたし、わたしのほうこそ……」キミちゃんの手のぬくもりに溶かされたみたいに、わたしの口から、言葉がこぼれおちる。
(心地いい時間)
