あらすじ
家にも学校にも居場所を見出せず、自分を愛せずにいる14歳の少女。茉莉。かつて最愛の人を亡くし、心に癒えない傷を抱え続けてきた画家・歩太。20歳年上の歩太と出会い、茉莉は生まれて初めて心安らぐ居場所を手にする。二人はともに「再生」への道を歩むが、幸福な時間はある事件によって大きく歪められ。


ひと言
「天使の卵」から20年「天使の梯子」から10年の3部作完結編の本作。前の2作品は読んでいないが、これはこれで独立して読むことができました。ただ「柩」という言葉を題名に使ったのは、「彼はただ、ずっと長い間どうしても閉じることができずにいた柩の蓋に、今やっと手をかけて、お弔いを終えようとしているだけだ。(P281)」とあるように前作の「天使の梯子」の歩太のことを知らなければ「柩」の意味がわからないんだろうなと思いました。

「人生なんてほら、このお鍋の中身みたいなものよ。お肉が好きだからってそれだけ先に食べちゃったら、あとにはじゃがいもばっかり残るでしょ。べつに逆でもいいんだけど、とにかく、茉莉ちゃんがこれまで生きてきた中で辛いことのほうが多かったのなら、これからはきっといいことばっかり起こるわよ。私か保証してあげる」「はは、〈人生は肉じゃが〉かよ。ほんと能天気だよな、おふくろは」そう言って笑った歩太さんに、お母さんは、「そうよ」と、こともなげに請け合った。「だってそう思わない? いつか訪れるかどうかもわからない不幸に備えて、必死になって身構えてばかりいるなんて損よ。まだぜんぜん不幸でも何でもないうちから気持ちが滅入って、自分から不幸になっていっちゃう。そもそも不幸なんてものは、こっちがどんなに準備してたって、それとは関係なく降りかかるものなんだから」あたしは思わずお母さんの顔を見た。
(P287)