あらすじ
出産のために離れて暮らす母親のことを想う5歳の女の子の素敵なクリスマスを描いた『サンタ・エクスプレス』ほか、「ひとの“想い”を信じていなければ、小説は書けない気がする」という著者が、普通の人々の小さくて大きな世界を季節ごとに描き出す「季節風」シリーズの「冬」物語。寒い季節を暖かくしてくれる12篇を収録。


ひと言
もう一冊、年内に読むことができました♪。やっぱり今年最後の一冊も重松 清さん。今年もコロナ禍に振り回された一年でしたが、感動のオリンピック・パラリンピックもあり、ワクチンも多くの人が接種して少しずつ希望の光が見え始めてきた一年でした。来年の春には、満開の桜の下で多くの人の笑顔が見られる一年になりますように! 2021年ほんとうにありがとう。


おじさんは石焼き釜にくべた薪を組み直したり、煙突の空気穴を開けたり閉めたりしていた。最初は、意外と細かく火の強さを調節しなくちゃいけないんだなあと思うだけだったけど、やがて、ふと気づいた。おじさんはわたしが食べ終えるのを待っていてくれるのかもしれない。軽トラックが走り去ると、正門の脇にぽつんと立って焼きいもを食べるわたしだけが残されてしまう。ほんとうのひとりぼっちになってしまう。不思議だった。おじさんにはひとりぼっちの姿を見られるのが恥ずかしくなかったのに、そのおじさんかいないと、急に、自分がひどくみじめでみすぼらしい子になってしまいそうだった。そして、おじさんがいなくなったあとは、焼きいもは急においしくなくなってしまいそうな気もする。なぜだろう。おとなになったいまでもよくわからない。
(あっつあつの、ほっくほく)

じゅんちゃん。僕はいまでも、星のきれいな真冬の夜空を見上げると、きみのことを思いだす。僕たちはみんな、同じ星空を見ている。じゅんちゃんが星をつないでつくる星座は、僕たちがつくる星座とはちょっと違っていたのだろう。いまでも違ったままかもしれない。でも、僕たちが見ている星空は同じだ。
(じゅんちゃんの北斗七星)

掲示板の前の人込みがにぎやかになった。タカ研の花吹雪隊があらわれたのだ。花吹雪を浴びて、顔をくしゃくしゃにして笑う女の子は、四月からどんな大学生活を送るのだろう。それを横目に掲示板の前からひっそりと遠ざかる女の子は、来年の春は満面の笑みを浮かべられるのだろうか。
(サクラ、イツカ、サク)