あらすじ
南房総沖で漂流している男性の遺体が発見された。全国の警察で照会が行われた結果、同居女性から行方不明者届けが出されていた男性がこの遺体の有力候補として浮上した。警察は、行方不明者届けを出した同居女性「島内園香」に連絡を取ろうとしたが、連絡が取れなくなっていた。失踪した恋人の行方をたどると、関係者として天才物理学者の名が浮上した。警視庁の刑事・草薙は、横須賀の両親のもとで過ごす湯川学を訪ねる。
第1作『探偵ガリレオ』から、『予知夢』、『容疑者Xの献身』、『ガリレオの苦悩』、『聖女の救済』、『真夏の方程式』、『虚像の道化師』、『禁断の魔術』、『沈黙のパレード』そしてシリーズ10作目の『透明な螺旋』。「愛する人を守ることは罪なのか」ガリレオシリーズ最大の秘密が明かされる。
ひと言
科学的なトリックがなく、これを湯川学のガリレオシリーズとしてやる必要性を感じませんでした。強いていえば、これを警察官である加賀恭一郎でやるわけにはいかないということでしょうか。「容疑者Xの献身」の湯川学とは別人格の設定でした。これが(愛する人を守ることは罪なのか)ということなのでしょうか。
「どうして私たちを助けてくれたの?」「さっきいったでしょ。警察に任せたくなかったんです。でも ――」学は首を傾げ、肩をすくめた。「それは口実ですね。本当のところは自分なりに辿ってみたかったのかもしれません。松永奈江の人生を。彼女が何を思い、どんなふうに生きてきたかを知りたかった」奈江は顎を引き、上目遣いをした。「それで……何かわかった?」「ほんの少しですがわかったような気はしています。身寄りのない子供たちに紙芝居を見せていたのも、新座で隣家の息子を我が子のようにかわいがったのも、遠い過去と無関係ではないのでは、と考えています」「懺悔、なんてことをいったら大げさよね。我が子を手放したことに対するちょっとした罪滅ぼし。自己満足なんだけど」
ふふ、と薄く笑った。学も瞳を揺らして口元を緩めた後、その唇を開いた。「僕も懺悔はしています」奈汪は首を傾げて学を見た。「どうして?」「家を覚えていますか」「家?」「僕が両親たちと暮らしていた古い家です」奈汪は頷いた。「忘れるわけないでしょ。あなたを取り戻そうとして、訪ねていった家だもの」「あの家は、両親たちが横須賀のマンションに引っ越した数年後に取り壊されました。その知らせを聞いた時、こう思ったんです。今ここにいる自分は、あの家で従順な息子のふりをしていた少年とは別人だ。あそこにいた少年は、あの家でとうに死んでしまっている。だからあの家には、その少年の見えない死体が横たわっているに違いない、と」「そんな悲しいことを……」「でも大間違いでした。それから何十年も経ち、様々な人の様々な生き方を見てきた今は、あの時の自分がいかに愚かだったかがよくわかります。人は誰もひとりでは生きられない。今の僕があるのは、多くの人たちのおかげです。育ててくれた両親には心の底から感謝しています。それと同様に、僕を産み、あの両親に委ねてくれた人にも感謝すべきなんです。あの時……どちらかを選べといわれた時、僕はこう答えるべきでした。そんなことはできない、どちらも僕の親だ、と」学が真っ直ぐに奈江を見つめてきた。「会えたなら、お詫びをいおうと思っていました。申し訳ありませんでした、と」奈江の胸に何かがこみ上げてきた。それを堪えるために唾を呑み込み、学の視線を受け止めた。「さっき、別の機会、といったわね。事件の詳しい説明は別の機会にって。つまり、また会ってもらえるのかしら」「もちろんです。だって僕たちは親子じやないですか」学は微笑み、そして続けた。「そうでしょう、お母さん」息が止まりそうなほど胸が熱くなった。
(19)
