あらすじ
埼玉で小料理屋を営む藤原幸人のもとにかかってきた一本の脅迫電話。それが惨劇の始まりだった。昭和の終わり、藤原家に降りかかった「母の不審死」と「毒殺事件」。真相を解き明かすべく、幸人は姉の亜沙実らとともに、30年の時を経て、因習残る故郷へと潜入調査を試みる。すべては、19歳の一人娘・夕見を守るために……。なぜ、母は死んだのか。父は本当に「罪」を犯したのか。村の伝統祭〈神鳴講〉が行われたあの日、事件の発端となった一筋の雷撃。後に世間を震撼させる一通の手紙。父が生涯隠し続けた一枚の写真。そして、現代で繰り広げられる新たな悲劇。
ひと言
途中まで、何が何だかよくわからないのに、どんどん引き込まれて読み進めました。鱩鰰、キノコ、雪と雷、アザミと亜沙実 いろいろと考えられた設定で楽しく読ませてもらいました。
「”ハタハタを二つ並べて雷神様”ってね」「……何です?」「ハタハタてえ魚、こう書くが」主人はそばにあったチラシとボールペンを取り、意外な達筆で「鱩」「鰰」と書きつける。「これ、どっちも一文字でハタハタって読むちゃ。そんでほら、左側を隠すと、見てみこれ」人差し指で二つの魚へんを隠すと、たしかに「雷神」と読めた。聞いたことのない言葉遊びだが、私が知らなかっただけだろうか。それとも主人のオリジナルだろうか。
(第三章 真相の解明と雷撃)
「昔からこの羽田上村で雷神を祀っているのは、雷が落ちた場所にキノコがよく生えると言われてるからですが ――」それが科学的事実だということ。雷が落ちたあとには実際にキノコがよく生え、ときには二倍以上の収穫量になること。その理由は、電流を感じたキノコが、子実体、いわゆる笠の部分を急激に成長させ、多くの子孫をつくろうとするからだということ。「キノコにとって落雷は自分たちを全滅させるかもしれない恐ろしいものですから、その前に分身をたくさん残しておかねばということで、自動的に子実体を成長させるようになったんじゃないかという説が有力です。ほかの作物、たとえば稲なんかも落雷があると豊作になることがあるんですよ。日本で昔から雷を神聖なものとして見ていたのは、そのためのようです。語源も”神が鳴る”で雷なんだとか。よしできた」
(第三章 真相の解明と雷撃)

手紙を改竄(かいざん)するとき、おそらく父は文字を消しもしなければ書き加えもしなかった。そんなことをすれば、母親の字を見慣れている希恵には容易に気づかれてしまうから。だが、手紙の内容を大きく変えるには、文字を書く必要も消す必要もなかったのだ。私の考えが正しいとすれば、父がやったのはただ一つ、太良部容子の文章に二本の線を書き加えるという行為だけだった。すべてをはっきりさせるには、この目で手紙を見るしかない。
(第五章 映像の暗示と遺体)
