あらすじ
遺体で発見された善良な弁護士。一人の男が殺害を自供し事件は解決のはずだった。「すべて、私がやりました。すべての事件の犯人は私です」2017年東京、1984年愛知を繋ぐ、ある男の"告白"、その絶望そして希望。「罪と罰の問題はとても難しくて、簡単に答えを出せるものじゃない」私たちは未知なる迷宮に引き込まれる。
ひと言
520ページの少し長めの本でしたが、引き込まれてどんどん読み進みました。さすが東野 圭吾だとは思うのですが、倉木 達郎の行動は、どう考えてもやっぱり無理があるとしか思えません。自分が身代わりになることで息子の和真が被る理不尽に目をつぶってまで 人間はそんな行動を取れるものなのだろうか…。
かつて公衆電話は悪だくみをする連中にとって都合のいい道具でした。ところが今や警察にとって心強い味方です。犯人が公衆電話を使ったとわかれば、東京中の公衆電話付近の映像が解析されます。公衆電話の付近には必ずといっていいほどカメラが設置されていて、利用
者の姿が捉えられるようにしてあるからです。
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「かっての裁判は、被告人、弁護人、検察官のみを当事者として行われていました。被害者は、目撃者や証人と同様、被害状況などを立証するための証拠の一つにすぎず、完全に蚊帳の外に置かれた状態で、抽選に外れたら裁判を傍聴することさえできませんでした。それではいけないと何度か法律が改正され、被害者も裁判に参加し、意見を述べたり、被告人に質問できるようになったのです。それが被害者参加制度です」
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「被害者の遺族と加害者の家族が協力して情報交換しているなんて、ふつうじゃちょっと考えられないですよ」中町は頭を左右にゆらゆらと揺らした。「その通りだが、あの二人の場合は特殊なんだよ。共通の理由がある」「何ですか、それは?」「どちらも事件の真相に納得していないってことだ。もっと別の真実があり、それを突き止めたいと思っている。ところが警察は捜査を終えた気でいるし、検察や弁護士は裁判のことで頭がいっぱいだ。加害者側と被害者側、立場上は敵同士だが、目的は同じ。ならば手を組もうと思っても不思議じゃない」「なるほどねえ……といいつつ、やっぱり納得はできないですね。俺には気持ちがわかりません」中町は奴豆腐を口に入れ、首を傾げた。「光と影、昼と夜、まるで白鳥とコウモリが一緒に空を飛ぼうって話だ」「なかなかうまいことをいうじゃないか。まさにその通りだ。
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「…。それに純粋な復讐心ではなく、歪んだ心が犯行の原動力だったとしても、歪ませたのは父です。刺された後、父が自分で車を移動させたってことも聞きました。父は死んで罪を償った、そういうことなんだと思います。あの朝 ――」美令は、すうーっと呼吸を整えてから再び口を開いた。「事件が起きる日の朝、父が雪の話をしたんです。今年の冬は雪がたくさん降るだろうかってことを。昔、よく家族でスキーに行きましたけど、最近はすっかり足が遠のいています。今思えば、たぶん父は幸せだった頃を振り返っていたんですね。そしてその幸せな日々は、もう手放さなければならないと覚悟していたんだと思います。だから息を引き取る時も、父はきっと無念ではなかったはずです」佐久間梓は、ふっと息を吐いて頷いた。「わかりました。では担当検事には、そのように伝えておきます」「よろしくお願いいたします」
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「身代わりになって逮捕されたこと自体は、そんなに辛くなかったというんです。病気で寿命がそんなに長くないとわかっていたので、死刑も怖くなかったと。でも自分のせいで息子が、つまり僕が世間から冷たい目で見られたり、職を追われたりするのではないかと思うと、心苦しくて眠れなかったそうです。そして、この辛さこそが本当の罰なんだと気づいたといいました。これを受け止めることこそが自分に課せられた運命だと」顔を歪めてそんなふうに苦悩を吐露した父親の姿を、和真は昨日のことのように覚えている。
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