あらすじ

城下の「お狐火事」をきっかけに、扇野藩の財政は破綻の危機に瀕した。中老に登用された檜弥八郎は藩政改革に着手するが、改革は領民の生活を圧迫、人々は「黒縄地獄」と呼んで弥八郎を嫌った。そんな折に弥八郎は収賄の疑いで糾弾され切腹、改革は三年でとん挫する。弥八郎の娘・那美は、親類の中で最も貧しい、遠縁の矢吹主馬に預けられた。
――その数年後。弥八郎の嫡男、慶之助は、代替わりした新藩主の側近として国入りを果たす。父・弥八郎の改革に批判的だった慶之助は、自らの考える藩政改革に意欲を燃やし、藩札の発行など、新しい政策を提案する。警戒する家老らは、主馬を呼び出し、那美を妻とせよと命じた。主馬に檜家の家督を継がせることで、慶之助を排除しようとしたのだ。

財政破綻の扇野藩だが、この本は葉室 麟さんにしてはめずらしく論理破綻しているように思う。悪徳商人のように描かれている叶屋、升屋であるが、それらを無理やり藩札の札元にして借財を踏み倒すとか、慶之助が阿片中毒になるまで商家に閉じ込められるとか ……。力のおかげで人を信じることができたという点や、〈白骨おろし〉との因果関係も弱い。葉室 麟さんの本は、ほとんどはずれはないのだけれど、これは楽しめませんでした。
 

 

ひと言

「生きていくことぱ、自分が誰かから傷つけられるだけでなく、誰かを傷つけていることなのかもしれません。……」那美は囁くように言った。
(十四)

「そう言えば、先日、それがしの妻が面白いことを申しました」 ……。「ひとの真は、たとえ見えなくともどこかにあって、そのひとを支えているのだそうです。たとえ、違った道を歩んでもいつの間にか戻るのが、ひとの真であり、ひとはいつも自分の心の中のどこかにあるものを信じればよいのだと申しました」……。主馬は笑顔のまま立ち上がって御用部屋を出ていった。風が吹き抜けるような所作だった。
(二十四)