あらすじ
真冬に集う男女8人の運命は? あの東野圭吾が“恋愛”という永遠のミステリーに真っ向から挑む。衝撃の結末から目を逸らすな! この恋の行方は、天国か地獄か。怒濤の連続どんでん返し!
 
ひと言
久しぶりの東野圭吾さん。ひと昔前よりずいぶんと借りやすくなりましたね。7つの短編がうまくつながって登場人物のキャラもわかりやすく、昔の映画「私をスキーに連れてって」を思い浮かべながら楽しくあっという間に読了。最初の「ゴンドラ」もハラハラドキドキするので、ある意味サスペンスなのかもしれませんが……。でも東野さんの本としては、やっぱり「容疑者Xの献身」のような本を読みたいなぁ。
 
今回、このスキー場でのサプライズ・プロポーズを考えた時、水城の頭に浮かんだのが、この林道だった。作戦はこうだ。秋葉が月村夫妻と共謀し、この林道に向かう。そして途中、一人二人とコース脇に姿を隠すのだ。やがて一人きりになった橋本さんは焦るだろう。はぐれてしまったと思うに違いない。止まっているわけにはいかないから、とにかく進むしかない。やがてこの「魔のだらだら林道」に入ってしまうわけだ。間もなく今の水城たちと同様に止まってしまった彼女は、後ろ足のバインディングを外してスケーティングをしようとするだろう。ところがこの深雪だ。ボードが沈んでうまく進めない。そんな超緩斜面が、延々と続く。やがては疲れ果て、誰か助けて、私を引っ張って、となる。そこへ見知らぬ二人のスノーボーダーが現れる。バックカントリー・ツアーにでも行ってきたのか、ボードを取り付けたバックパックを背負い、ポールを手にし、足にはスノーシューを付けてサクサクと歩いている。雪の中で立ち往生している橋本さんを見て、彼等の一人が立ち止まる。そして、どうぞ、とばかりにポールを差し出してくれるのだ。疲れて足が動かなくなった彼女には、それが神の助けに見えるだろう。彼女がポールを摑むと、男性は力強く歩きだす。おかげで彼女は深雪での移動の苦労から解放され、すいすいと滑っていける。間もなく、「魔のだらだら林道」もゴールを迎える。そこからは滑走が可能だ。彼女は自分を引っ張ってくれた謎の人物に礼をいう。すると相手はここで初めて声を発する。
「これからも俺についてきてくれるかな」 聞き覚えのある声に、橋本さんは戸惑いの表情を浮かべるに違いない。だが考える暇を与えてはならない。このタイミングで即座にゴーグルとフェイスマスクを外し、正体を明かすのだ。 彼女は驚くだろう。見知らぬ男性だと思っていた相手が、じつは付き合っている恋人、日田栄介だったのだ。何がどうなっているのか、すぐには理解できないに違いない。混乱している彼女に、日田はすかさず懐から出した指輪を見せる。 「俺が引っ張るから、ついてきてほしい。永遠に」 それでようやく橋本さんは理解するはずだ。すべてが仕組まれたことだと。運命の瞬間に、今自分はいるのだと。 これほど凝った演出をされて、心を動かされない女性はいないだろう。彼女は迷わず指輪を受け取るはずだ。その劇的なシーンを撮影するため、水城のヘルメットにはカメラを装着してある。 我ながらいいアイデアだ、と水城は自画自賛する。定食屋のテレビで月光仮面の映像を見て思いついたわけだが――。
(プロポーズ大作戦)