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あらすじ
女が映し出す男の無様、そして、真価。太平の世に行き場を失い、人生に惑う武家の男たち。身ひとつで生きる女ならば、答えを知っていようか。時代小説の新旗手が贈る傑作武家小説集。
「ひともうらやむ」「つゆかせぎ」「乳付」「ひと夏」「逢対」「つまをめとらば」
男の心に巣食う弱さを包み込む、滋味あふれる物語、六篇を収録。
(平成27年/2015年下期 第154回 直木賞)

 

ひと言
どれだけいい女なんだろう、会ってみたいなぁ と思わせるような魅惑的な表現。今まで聞いたことがないほどユニークな表現で女性を生き生きと描き、どの短編も読みやすく引き込まれて読みました。敢えて云えば「ひともうらやむ」と「つまをめとらば」がよかったかな。

 

 

世津はとにかく、美しい。もう、どうにも美しい。ただ美しいのではなく、男という生き物のいちばん柔らかい部分をえぐり出して、ざらりと触ってくるほどに美しい。
(ひともうらやむ)
 
あらかたの男は、根拠があって自信を抱く。根拠を失えば、自信も失う。……。けれど、女の自信は、根拠を求めない。子供の頃から、ずっと目立たぬために周りを注視してきた私だから、そう見えるのかもしれぬが、女は根拠なしに、自信を持つことができる。 その力強さに、男は惹きつけられる。男のように、根拠を失って自信を奪われることがない。 朋はたまたまあの姿形だったから、美形という根拠があって、私が絶対に落ちるという自信を持っているように見えた。しかし、そうではないのではないか。 女という生き物は美醜に関わりなく、いや、なにものにも関わりなく、天から自信を付与されているのではないか。 もしも朋が醜女だったとしても、あのとおりに近づかれたとしたら、おそらく同じことになっていたのであろうと、私は思った。
(つゆかせぎ)

 

 

「通常、毒蛇が鼠を噛めば、たちどころに息絶える。ところが、なにごとにも程というものがあってな、噛み過ぎれば、毒液とて切れる。そういうときに噛むと、当然、鼠は死なない。驚いた毒蛇はそれっきり鼠を噛まなくなる。毒液がたっぷりと溜まっても、鼠が恐ろしくて二度と襲うことができぬ。で、餓死する」 嘘のような真の話か。真のような嘘か。 「その毒蛇のようなものかもしれぬ。こちらは二本差しているのに、百姓が敬服しないどころか、道で行き交っても挨拶もせん。で、うろたえる。なんとか挽回しようとして、墓穴を掘ると、さらにうろたえる。それが積み重なると、やがて百姓が恐ろしく見えてくる。しだいに閉じこもるようになって、終いには気を患う」
(ひと夏)

 

 

ともあれ、省吾は断わった。本心を押し殺して、断わりの言葉を並べた。すると、とたんに佐世の垂れ気味の大きな目に涙が湧いた。そして、朝露が葉を転がる音があるとすればかくやと思える声で、どうぞ、お願いいたします、使ってくださいませ、と言ったのだった。その声を聞けば、もう省吾も堪えようもなかった。
(つまをめとらば)