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あらすじ
敏腕編集者・牛河原勘治の働く丸栄社には、本の出版を夢見る人間が集まってくる。
自らの輝かしい人生の記録を残したい団塊世代の男、スティーブ・ジョブズのような大物になりたいフリーター、ベストセラー作家になってママ友たちを見返してやりたい主婦……。「現代では、夢を見るには金がいるんだ」。牛河原がそう嘯くビジネスの中身とは。牛河原が彼らに持ちかけるジョイント・プレス方式とは。現代人のふくれあがった自意識といびつな欲望を鋭く切り取った問題作。


 
ひと言
『ラブアタック! 』に1978年みじめアタッカーとして何回も出場した百田尚樹(結構 年配の関西人しかわからないと思うけど…)、長年『探偵!ナイトスクープ』のチーフライターだった百田尚樹。みたいな、てきな、ノリで書かれたような本。やっぱり『永遠の0』や『海賊とよばれた男』のような作品を読みたいなぁ。百田さん、お願いします。

 

「知ってるか。世界中のインターネットのブログで、一番多く使われている言語は日本語なんだぜ」「本当ですか」「今から七年前、二〇〇六年に、英語を抜いて、世界一になったんだ。当時のシェアは三十七パーセントだ。今ならもっと増えてるだろう」荒木は驚いた顔をした。「七十億人中、一億人ちょっとしか使わない言語なのに。それはどういうことですか?」「日本人は世界で一番自己表現したい民族だということだ」
(1 太宰の再来)

 

 

「あの手の根拠のない自信を持っている若者をその気にさせるのは簡単なもんだ」牛河原は手羽先をかじりながら言った。「自分はやればできる男、と思っているからな。自尊心にエサを垂らしてやれば、すぐに食いつく」「やればできるって、便利な言葉ですね」「まったくだ。近頃のガキは子供の頃から、親や教師から『君はやればできる子なんだから』などと言われ続けているもんだから、大人になってもそう思い込んでいる。でもな――本当にその言葉を使っていいのは、一度でも何かをやりとげた人間だけだ。何一つやったことのない奴が軽々に口にするセリフじゃない」「何か妙に耳が痛いです」荒木が苦笑しながら言った。
(2 チャンスを摑む男)

 

 

「本なんか本当は町の印刷所で自費出版で出せばいいんだよ。そうすれば今日の阿久沢という客が言っていたように三十万円もあればできる。ページ数が少なくて、少部数のものなら二十万もあれば十分だ」「そんなのちょっと調べたら簡単にわかることなんですが、なぜ、うちの客は百万も二百万も払って、本を出すんでしょうか」「自費出版じゃステイタスが上がらないんだ。金を使って自己満足で本を作ったと、周囲に受け取られる。それでは本を出す意味がないんだ。ところが丸栄社で出せば、これは自費出版ではない。ISBNコードもつくしな。一般書籍と同じ本ということになる。東野圭吾や宮部みゆきと同じように、全国の書店に並ぶということが客の自尊心を大いにくすぐるんだ。そこがキモだ」「実際は自分で金を出して作ってるんですけどね。それにISBNコードなんか個人でも取れるのに」「世間の人はそんなことは知らんさ。それに出版にかかる費用の半分は丸栄社が出していると信じている。客の頭の中では、自分の本はちゃんとした出版社が出した一般書籍なんだ」「そう思い込んでくれているんですね」「そう思い込ませるように持っていくのが、俺たちの仕事の大事なところだ」牛河原はタバコを取り出すと火をつけた。「国会図書館に納められるというのも、効きますね」「ああ、これは本当のことだしな。自分の本が永久に国会図書館に残るというのは、著者にとっては、俺たちが想像する以上に嬉しいことなんだ。実際には、永久に誰にも読まれないんだから何の意味もないんだが、自分の本が貴重な文化遺産か何かになったと勘違いするんだろう。……。」
(4 トラブル・バスター)

 

 

「日本の文学界には、主人公の心情を事物や風景や現象や色彩に喩えて書くのが文学的と思っている先生たちが多いからな。だから比喩をほとんど使わない作家や作品は評価されない。リーダビリティが高いと逆に低級とされる」「純文学って、僕、全然理解できないんですが」「純文学にはメタファーが含まれていることが多いからな」「それは何ですか」「暗喩とか隠喩とか呼ばれるもので、つまりある事象を描きながら、実は別のあることを表現しているといったものだ。しかしすぐにそのことがわかってはいけない。文学的な素養に溢れたレベルの高い読み手が、じっくり考えた末にやっとわかるくらいの難しさが必要だ。この難易度が高いほど高尚な作品と言われる」「何ですか、それは」荒木が呆れたような顔をした「パズルですか」牛河原が腹を抱えて笑った。
(6 ライバル出現)