イメージ 1 
 
あらすじ
お茶の水女子大学での藤原先生の「読書ゼミ」(座談会形式)をまとめたものです。毎週1冊文庫を買い、それを読破するのがゼミに入るための条件。戦前の日本なんて真っ暗闇、江戸、明治なんて遅れた封建社会だと教え込まれてきた女学生たちが、その時期を描いた名著(『武士道』『学問のすゝめ』『きけ わだつみのこえ』『逝きし世の面影』『武家の女性』『代表的日本人』『福翁自伝』『若き数学者のアメリカ』から『孤愁』他)の数々を読むことによって、自分たちの思いが単なる偏見ではないかと愕然としていきます。読書の楽しみ、知ることの喜びを実感させられます。藤原先生の最終講義付きです。

 

ひと言
『国家の品格』で市場原理主義を痛烈に批判された藤原正彦さん。今回も期待を裏切らない辛口な講義で、とても楽しく読ませてもらいました。本の最後の 父・新田次郎さんの未完の絶筆『孤愁―サウダーデ』を引き継いで執筆したいという言葉が印象的でした。
授業中こんな疑問が呈された。諭吉が激動の世で高杉晋作や坂本龍馬にも勝る洞察力を有しながら、実際の行動に一切出ず傍観者の姿勢を崩さぬまま人々を批判したり揶揄していたのは卑怯と言えないか。危機に立つ国家のためには一身を投じてこそ男ではないのか、という厳しい意見である。……。……。諭吉は幕末に三度洋行している。……。それまでの日本における洋学すなわち蘭学が医術、砲術、兵法、航海術、地理などに限定されていたことに諭吉は疑問を抱いていた。これら技術はなるほど必要不可欠だが、それを運用するための組織を研究しなければ、日本にこれらを根付かせ文明開化することはできない、とすでに悟っていたのである。だから初めから渡航目的を、選挙、議会、内閣、徴兵制、税制などの仕組み、また病院、銀行、保険、郵便、学校などの組織運営といったものの研究に的を絞っていたのである。……。……。こう考えると福沢諭吉は近代日本を描いた設計家、それに比べ木戸孝允、大久保利通、伊藤博文その他は諭吉の設計図に従い工事を施工した大工の棟梁のようにさえ見えてくる。諭吉は実際に行動を起こさない卑怯者どころではないのである。(福沢諭吉『福翁自伝』)