亜鉛は人体の生命活動に関わる代謝に深く関わる必須ミネラルです。しかし、亜鉛は不足しやすいミネラルでもあります。

亜鉛(あえん)はミネラルの中でも不足しやすい栄養素です。腸管での吸収率も約30%程度と低いため、意識して摂取する必要があります。亜鉛が不足するとどのようなことが起きるのでしょうか?亜鉛の働きから解説します。
亜鉛とは
亜鉛は、食事やサプリメントで摂取することが必要な必須ミネラルのひとつです。人体が生命を維持するために必要な、さまざまな化学反応(代謝)に必須である酵素を構成するミネラルです。
亜鉛の1日の推奨摂取量
厚生労働省音報告によると、亜鉛の1日の推奨摂取量は、成人の男性で1日10mg、成人の女性で1日8mgです。
亜鉛が不足する原因
亜鉛は必須ミネラルの中でも特に不足しやすい成分です。亜鉛の吸収率は約30%と考えられています。吸収率が低いため亜鉛が不足しないように摂取するためには、亜鉛含有量の多い食品を摂取することが必要です。
また、お酒などを飲んだ後、体内でアルコールをアルデヒドに分解するときに必要な「アセトアルデヒド脱水素酵素(アルコールデヒドロゲナーゼ)の活性」にも亜鉛が必須です。そのため、アルコール多飲者は通常、亜鉛が不足しがちです。
亜鉛の働き
私たちの体の「酵素活性」に一番大切なミネラルはマグネシウムですが、二番目に大切なのは亜鉛です。
人間の身体には、およそ1.4~2.3gほどの亜鉛が含まれています。量でみるとごくわずかではありますが、亜鉛は私たちが生きるうえで欠かせない栄養素なのです。
私たちの身体は、小さな細胞の集合体です。そして、この細胞の一つひとつが栄養をとりこみ、活動するためのエネルギーを生み出しています。細胞にはミトコンドリアと呼ばれる小器官が存在しています。このコンドリアは食事から摂取した炭水化物や脂質、タンパク質を利用してエネルギーを生産する役割を担っています。このミトコンドリアによるエネルギー生産の化学反応には、亜鉛を含んだ酵素が必要不可欠です。つまり、亜鉛は全身の細胞にとって欠かせない栄養素と言えます。
亜鉛を構成成分とする酵素の代表的な働きは以下のようなものになります。
- 細胞分裂
- 新陳代謝
- 皮膚や髪の毛の健康を保つ
- 性機能の維持
- 味覚の維持
- 免疫力を高める
亜鉛は細胞分裂に深く関わる必須ミネラルであるため、細胞分裂が盛んな生殖器や毛髪などに多く含まれています。男性の場合は精子の構成成分にもなるため前立腺にもっとも多く含まれます。
亜鉛が欠乏すると起こる症状
亜鉛は、人間の体に存在する約3000種類以上の酵素のうち、300種類以上もの酵素を構成する成分となっています。亜鉛が不足するということは、身体が活動するための機能低下につながるため、さまざまな欠乏症が発生します。代表的な欠乏症は以下のようなものになります。
味覚障害
人間は舌にある味蕾と呼ばれる器官で味覚を感知します。味蕾は細胞分裂が盛んな部位なので、亜鉛酵素が豊富に分布しています。亜鉛が不足すると、味蕾の特徴的な形態が失われ、感覚細胞としての機能が損なわれます。
亜鉛は唾液腺にあるガストリンの構成にも関与していて、それが味覚受容器に生理的な役割を果たしているとされています。味覚細胞の入れ替わりは早く、亜鉛不足に敏感と言えます。
また、薬物による味覚障害も亜鉛不足が原因のひとつと考えられます。制酸剤、抗生物質、降圧利尿剤、冠血管拡張剤などは、亜鉛の吸収を妨げます。高齢者では、薬物もチェックをしておいた方がよいでしょう。
皮膚症状
コラーゲンの合成や架橋には亜鉛が必要なため、不足すると皮膚が乾燥してきます。
脱毛
髪は毎日伸びています。亜鉛不足による細胞分裂の低下は、髪が作られなくなるだけでなく脱毛の原因になります。
性機能低下
精子や卵子などの生殖細胞は細胞分裂が活発な細胞のひとつです。亜鉛が不足することで細胞分裂が十分に行われず、性機能の低下が発生する可能性があります。精液や前立腺には亜鉛がたくさん含まれていて、精子形成やテストステロン合成には亜鉛が必要です。精子の運動や活発化にも亜鉛が関与しています。男性の性腺発育には亜鉛は特に大切です。男性不妊の一因となります。
性成熟の遅れ
亜鉛は性ホルモンの分泌にも関わります。亜鉛が不足することで性ホルモンの分泌が少なくなり、性成熟が遅れる可能性があります。亜鉛は黄体形成ホルモン(LH)や卵胞刺激ホルモン(FSH)の作用を高めます。妊娠の維持にも亜鉛が必要です。
また、成長ホルモン(GH)や甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)の分泌に亜鉛が関与しています。
貧血
意外なようですが血液も血液細胞と言う細胞です。そのため亜鉛が不足すると細胞分裂が満足に行われず、貧血を起こす可能性があります。亜鉛は赤血球中の炭酸脱水素酵素の活性中心となって二酸化炭素の運搬に関わっています。また、造血因子のひとつであるソマトメジンCは亜鉛タンパクです。そのため、赤血球の産生、機能維持、安定化に亜鉛は欠かせません。
精神神経症状
亜鉛不足は、無欲化、記憶障害、情緒不安定、行動異常、振戦などの原因になることがあります。亜鉛は海馬に多く含まれています。アルツハイマー病の血漿中および脳内の量の亜鉛の低値が報告されています。脳内の亜鉛の濃度の低下はニューロンの減少を示唆している可能性があります。また、GABAやドーパミンなどの神経伝達物質の放出や取り込みを調節しています。
免疫力の低下
亜鉛は免疫細胞が活性化するための情報伝達物質として活躍します。亜鉛が不足することで免疫細胞に外敵の存在が伝わらず、免疫力が低下します。
耳鳴り、聴力低下
亜鉛が不足すると、内耳器官のひとつである蝸牛(かぎゅう:耳の奥にあるカタツムリのような形状の組織)の機能が低下して耳鳴りのリスクが高まるという報告があります。蝸牛は体内でも亜鉛の蓄積量が多い器官であるため、亜鉛が聴覚に及ぼす影響は大きいと考えられています。亜鉛不足に由来する耳鳴りは断続的なものではなく持続的なものが多いようです。
HDL代謝異常
亜鉛はコレステロール代謝にも関与しています。亜鉛欠乏では、HDLコレステロールの減少による低コレステロール血症がみられます。
成長障害
細胞分裂が活発な時期である乳幼児期には亜鉛の需要が高まっています。この時期に亜鉛が不足すると、細胞分裂が十分に行われず成長障害が発生する可能性があります。
胎生期における亜鉛の貯蔵は胎生28~32週以後に急速に起こりますので、早産児は亜鉛貯蔵量が少ないので留意する必要があります。また、未熟児では亜鉛の吸収や利用効率も低いため亜鉛が欠乏しやすいと言えます。母乳中の亜鉛量は初乳に多く含まれています。母乳中の亜鉛は、ラクトアルブミンという蛋白に結合していて、消化吸収されやすくなっています。同じ蛋白でも牛乳に含まれているカゼインは消化が悪く亜鉛の吸収を妨げます。
妊娠中の亜鉛の不足には要注意
妊娠中の亜鉛の不足にも注意が必要です。人間がもっとも細胞分裂が盛んな時期は胎児期です。この時に母体からの亜鉛の供給が少ないと十分に細胞分裂が行われません。亜鉛不足により成長不良や奇形を生じる可能性もあるため妊娠している間は十分に亜鉛を摂取するようにしましょう。
亜鉛不足のバロメータ
爪の白い斑点
爪に白い斑点がみられるのは、亜鉛欠乏の特異的兆候です。
味覚障害
亜鉛不足による味覚障害で、口の中に苦味を感じるケースもあります。
味を感知するのは、舌の表面に分布する「味蕾(みらい)」です。味蕾は、味を感じる細胞の集合体で、この細胞は、とても短いサイクルで、次々に新陳代謝をくり返しています。亜鉛は、味蕾の細胞の形成にも関わっているため、亜鉛が不足すると、新しい味蕾を作りだすことができなくなり、味覚障害が起きて、苦味を感じることがあるのです。
亜鉛不足を解消!亜鉛が多く含まれる食品
魚介類や海藻類
- 牡蠣13.2mg
- 煮干し7.2mg
- するめ5.4mg
- カニ缶4.7mg
- うなぎ2.7mg
亜鉛は食品の中でも特に牡蠣に豊富に含まれています。男性ならば大き目の牡蠣4個、女性ならば3個ほどで1日に必要な亜鉛の推奨量を摂取することができます。
肉類や卵類
- ビーフジャーキー 8.8mg
- 豚レバー(肝臓)6.9mg
- 牛肩肉5.0mg
- 牛ひき肉4.3mg
- 卵黄4.2mg
牛肉やレバー、卵黄などにも亜鉛は多く含まれています。亜鉛不足を感じたら牛肉やレバーを摂取するとよいかもしれません。豚レバーの場合は、レバー串1本でおよそ30gになります。1本食べると2mg以上の亜鉛を摂取できるのでおすすめです。
豆類・木の実
- 松の実6mg
- ごま5.9mg
- 凍り豆腐(mg乾燥)5.2
- きな粉 3.5mg
- 大豆(乾)3.2mg
- 油揚げ 2.4mg
- 納豆 1.9mg
豆類、木の実には亜鉛が比較的豊富に含有されているため、ベジタリアンの人にとっては有効な摂取源です。間食を松の実などのナッツ類にしたり、大豆製品を意識して摂取したりするようにしたら、亜鉛をたっぷりと摂取できるでしょう。
乳製品
- パルメザンチーズ 7.3mg
- 脱脂粉乳(粉) 3.9mg
- プロセスチーズ 3.2mg
- カマンベールチーズ 2.8mg
- 牛乳(普通) 0.4mg
乳製品にも亜鉛は多く含まれています。特に水分の少ないチーズには亜鉛が豊富に含まれているため、おつまみや小腹が減った時に食べるとよいでしょう。一般的に想定される6ピースに分かれたプロセスチーズは、一戸当たりおよそ20gなので、亜鉛に換算すると0.6mgほどです。2個食べると1.2mgとなり、良質な亜鉛の摂取源となります。ただし、高カロリーな食材でもあるため食べ過ぎは厳禁です。
亜鉛を過剰摂取するとどうなるか
亜鉛の耐用上限量は、成人男性で40~45mg、成人女性は35mgとされています。耐用上限量を超えるには、食品の中でももっとも亜鉛の含有量が多い牡蠣を305g(大き目の牡蠣18個ほど)食べる必要があります。そのため、通常の食生活を送る限りはほとんど心配ありません。
亜鉛の過剰症を心配するケースはサプリメントなどで過剰に摂取した場合、亜鉛メッキされた容器などが酸性食品を入れることで亜鉛が溶け出した場合、特定の薬剤を飲んだ場合などになります。
亜鉛を過剰摂取した場合に起きる症状とは
耐用上限量を長期間摂取し続けた場合は、まれに以下のような症状が出ることがあります。
- 吐き気
- 嘔吐
- 腹痛
- 低血圧
- 下痢
- 黄疸
- 胃障害
- 腎機能障害
亜鉛の不足に関するまとめ
血液検査だけでは亜鉛の過不足はきちんと把握できませんが、ALPや亜鉛が低値の方は、亜鉛欠乏かもしれません。
亜鉛の不足は、さまざまな体の不調を招きます。不足しがちなミネラルだからこそ、多く含む食品を積極的に活用し、上手に摂取しましょう。