改まった顔をして彼が言いました。


「マコ、報告があります。」


「はい。」


「妻が出て行きました。」


「えっ?本当に?」


「うん。荷物全部出して明日最後に部屋の鍵を受け取ることになってる。」


「奥様と会うの?」


「本当は最後に会いたいと言われたんだ。でも、断った。会いたくないって言って。鍵は外の洗濯機の中に入れてくれって言った。」



彼が心を鬼にして冷たくあしらった気持ちを考えると涙が出てきました。


「つらかったでしょう。冷たくして、嫌われることして、最後まで頑張ってくれたんだね。」 


「だから、これから市役所に行きます。」


「えっ?」


「離婚届けを提出に行きます。」


「えっ?市役所やってないんじゃない?」


「聞いたら、結婚届けと離婚届けはこの時間でも扱ってくれるんだって。」


「そうなの?わかった。見届けるね。」


「一緒にいってもらいたかったんだ。」


「わかった。」


「離婚届けをカップル出しにくるやつなんていないと思うけど俺たちには大切なことだと思ったんだ。全てを知っていてほしいんだ。全てのことを共有したいんだ。」


「うん。」


夜の市役所に2人で入って駐車場の管理室に行きました。

そして彼は離婚届けを提出したのでした。


車に戻って彼はこう言いました。


「僕の離婚は決まっていた。ただやる気にならなかった。僕の怠慢だった。離婚を成立させてくれたのは君のおかげだ。ありがとう。でも、君はそれを負担に思わないでくれ。まだ僕らは出会ったばかりで何も知らない。君と旦那さんとの暮らしの中で、君が選ぶ選択肢に僕がいなくても僕は君を恨んだりしない。とてもいい時間を過ごさせてもらったから。こんなに愛してもらえるなんて思わなかったから。こんなに熱い愛を感じた事はなかったから。だから、これで終わっても僕は大丈夫。また、誰かと恋できるから。でも、こんなに人を愛したのは初めてだった。もう、こんなに熱く人を愛せるとは思えないけど君が選ぶ選択肢を応援するよ。なによりも君が幸せでいてくれたらそれでいいんだ。」



私はびっくりしました。ここまでしてくれたのに更にまだ私を思いやってくれているなんて!

本当に出来た人だと思いました。そしてそれが私を突き動かしてくれていました。