○健斗


健斗はリオンの妊娠を知った時はとても喜んでいました。

だからこそ、この悲しみの意味を深く考えることができませんでした。

健斗にとっては、まだ見ぬ子供のことよりもリオンと結婚できたことの方が数倍嬉しかったのです。リオンを妻にすることができて満足していたのでした。

そして、結婚して家族をまもるためにも仕事を頑張って、家長としての責任を全うしていこうと気負っている時でした。子供を流産したことすらも、ほんの小さなつまづきくらいにしか思っていませんでした。

リオンを幸せにするためには、健斗がいっぱい稼いでくることがいちばんだと考えていました。健斗にしてみると流産など些細なことでした。


そしてその後のリオンの変化も受け止められず、自分が帰って来て、リオンが悲しむだけなら顔を合わさずに仕事をたくさんしよう。顔を合わさないことでリオンを気遣っているつもりでした。夜勤の仕事を入れたり、出張の仕事を入れたりしてリオンと距離を置くようにしたのも、悲しむリオンをおもいやってのことでした。


ただそれはいつのまにか日常化してしまって、健斗とリオンの距離を開けていく結果となったのでした。