どうしても観たかったその試合。リオンは戦慄を覚えました。初めて間近に見る格闘技。その激しいぶつかり合い、凄まじい音が響いて、鈍く重たく当たるパンチ、キック、赤く腫れ上がる頬や唇が切れて赤い血が飛び散る。何度も何度も殴られてそれでも立ち上がり何度も何度も戦いを挑んでゆく鏑木選手のその強さ、その眼差し、その力強さにリオンは引き込まれてしまいました。


彼の勝利をリングの遠くから見つめてやっと少し口元に笑みを取り戻したリオンでした。


次の試合もリオンは観に行きました。祈るように、彼の戦いを見つめていました。彼が殴られるとリオンも打たれたような気持ちになりました。彼がパンチを繰り出すとリオンもパンチを繰り出して戦っているような気持ちになりました。彼の強さがリオンに憑依して少しずつ少しずつリオンに生気を取り戻してくれました。彼に何か伝えたくて何もかも忘れて大声で叫んでいました。周りの人達に紛れてリオンは感情をあらわにして叫びました。


そして、大きく手を挙げて彼が勝利の拳を空に突き上げるとリオンは周りの観客と一体になってそれを喜んだのでした。