それでも妻はしぶとく生き残った。いや、俺が(命だけは助けてください)と祈ったせいだろう。神は俺が祈った通りに命だけ助けてくれたのだ。


「こんなことなら神になんか祈るんじゃなかったよ!」


意識もなく機械に繋がれて生かされているだけの妻は、もはや返事もできなかった。妻の裏切り行為を知った今、この命を救うことにに何の意味があるのだろうだろうと思ってしまう。まして、人として存在するわけでもないこの病人を、なぜ神は生かしておくのだろうと考えてしまう。


俺は冷たい人間なのか。


かつてのおしゃべりな妻はもういなかった。話したくとも会話はおろか意思の疎通さえも測れない。離婚したくともサインはおろか判子を押させることも出来ない。命を維持するだけでも相当な金がかかるだろう。もはや家族としての絆もなく、ただ裏切られた恨みだけがふつふつと沸いてきて妻の顔を見ているのさえ嫌だった。


俺は病室を出た。