「私は彼女がこうなった時に一緒に居たんですが、とても具合が悪いようだったので、えーと、私が救急車を呼んだんです。」

「そうだったんですか。それはありがとうございました。妻の命の恩人です。あとでお礼をしたいのでお名前を教えていただけますか?」

「いや、えっと、な、名前はいいです。」

「いえいえ、そんな訳にはいきません。妻とはどういう知り合いですか?」

「えっ?えっと、あのー。」

「妻はどこで倒れたんですか?」

「えっと、.,それ聞いちゃいますか。聞いちゃいますよね。」

 歯切れの悪い返事でこの男は話しずらそうに口をモゴモゴさせて妙に落ち着かない様子だった。が、意を決したように大きく深呼吸をすると、ゆっくりと話し始めた。


「あのですね。私は彼女とお付き合いをさせてもらっていました。」

「はぁあ?」

「月に二、三度待ち合わせをして、いつものようにホテルに行って行為に、あの...愛ある行為に及んでいたところ、急に彼女が痙攣し始めて様子がおかしくなったんです。急いで救急車を呼んだのですが、彼女の本名も彼女に旦那さんが...あなたがいるということも知らなくて。今初めて知りました。」

「どういう事ですか?」

 訳がわからなかった。この男は何を言っているんだろう。どう見たって30代の若い男がなんで50歳に手が届く妻と付き合ったりするというだ。