その3

母親から引っ越す度にあの「頭は人の顔で体はヘビの神様」の描かれた紙を台所や、玄関などに貼っておくように言われてた。特には信じていなかったが田舎に帰るときはいつも母親と一緒に拝みに行っていた。


その日は朝から仕事に出たのに忘れ物をして家に戻った。

戻って玄関を開けるとキナ臭い。息子の部屋の扉を開けると白い煙が充満していた。


「お兄ちゃん!燃えてる!」


見えたのは羽毛布団が電気ストーブに接触していてそこから煙がくすぶっていた。

息子はその布団で寝ていた。

「お兄ちゃん!起きて!起きて!」


突然大声で起こされて寝ぼけ眼のままボーとしているようだった。


羽毛布団を風呂場に持っていって水をぶっかけた。

部屋にはごげた匂いが充満していたのでアチコチ窓を開けた。


奥の部屋から娘がでてきた。兄の部屋から出火すれば奥の部屋の娘は逃げ場がない。思わず娘に飛びついて

「良かったー。家事にならなくて。」


ボヤで済んだ。

家を燃やさずに済んだ。

息子を、娘を失わずに済んだ。


通常なら一度家を出れば戻ることはない。だが、会社に必要な書類だった。遅刻してでも持ってく必要があった。いや、そんなことでもなければ戻れなかっただろう。書類は車にあった。もともと戻る必要のない私を家まで呼び戻してくれたのは◯ツ岩様の蛇神様だろう。


私は初めて◯ツ岩様の蛇神様のお力に触れ感謝したのだった。


それでも、それほど信心する程ではなかった。


でも、その後も蛇神様は私を助けてくださった。