前号からつづく。


 青空のトビラの先へと続く春爛漫の田川を背にして、新旧の住宅街をくねくねと歩きながら、出発地点とは反対側のJR宇都宮駅東口を目指してみることにした。駅の東口に広がる区画整理された街区は、昨年の夏に次世代型路面電車が新設されたことに伴い様相が激的に進化しつつある全国的に最も注目されている地域の一つと言っても過言ではない。なお、どの点が具体的に次世代型の路面電車なのかについてはここでは触れないこととする。

 駅の西側界隈から東側へ移動するので、当然ながら線路を横切らなければならなかったのだが、その際、電車を観覧するのに最適なポイントを偶然にも発見した。宇都宮駅から首都圏方面へ向かう電車はわんこそば並みに高頻度で出ているので、数分間待っていれば何かしら見られるだろうと小休止しているうちに、早速列車が緩やかに接近してきた。撮影を主とする熱心な鉄道愛好家が身の周辺にいたら是非このポイントを推薦したいと思いつつ、重たそうに牽引している貨物列車の通過を静かに見届けた。


 時計を見ると、待ち合わせの時間まで残り1時間30分未満となった。急ぎ足で歩けば30分程度で約束の場所には到達できるので若干余裕はあったのだが、早めに着いて香箱座りせずに寛いでいようと思い、大幅に迂回することなく、しかし、ちょっとだけ遠回りして駅へ向かうことにした。
 駅へ近づくに従って、天高く聳える高層ビルが高さを競うように軒を連ね始めた。途中、大きな幹線道路を幾度か渡りながらビル群を縫うように歩みを進めると、「鬼怒通り」と名付けられた大きな道路に出た。この大通りは駅東口から真っ直ぐ東方向に伸びていて、件の路面電車が道路中央部を走行している。今回は徒歩の旅。人口約50万人を有する栃木県屈指の中核都市宇都宮の未来を乗せた路面電車には今回乗車せずに、ちょっとだけ試乗してみたいという煩悩を振り払い、但し、横目でチラリとうらやましく眺めながらそっと寄り添うように歩くこととした。
〈注 あとで利用状況を内密に調査したい〉

 予定時刻よりも早くオカクンとの約束の場所へ到着した。人の目に触れにくい休憩スペースは飲食可能なので、数組の買い物客等が隣接するスーパーで購入したと思われる弁当をテーブルに小さく広げて各自おもむろに昼食をとっていた。
 腕を組んでウトウトしながら体を休めているうちに、「お待たせ。遅くなってゴメンね。」と、オカクンが息を弾ませて小走りで到着した。見ると生涯学習で作ったという菓子箱を手にしていた。「帰ったら、一緒に食べようね。」と、オカクンが笑顔いっぱいにタルトの入った箱を片手で持ち上げてみせた。「その前に、ランチだね。」と、オカクンへ笑顔を返した。
 帰宅後、二人でタルトの味をお喋りしながら楽しんだ。我が家のリビングルームいっぱいに、次々と会話の花が咲いた。しばらく、時の流れを忘れた。