吾輩が朝食後にちょっとひと息入れる時、暑くもなくまた寒くも感じなければこの家に併設されているガーデンルームを使用する。ここは文字通り広いとは全く言えない庭を隅々まで見渡せることはもとより、運が良ければ家屋の合間から清々しい青空を仰ぎ見ることができる。更に運が良ければ憧れの新千歳行きの飛行機雲だって見られることが決して不可能ではない。
 ここでぼんやり次の食事の事などを想像しながら普通に見られるひつじ雲の流れゆく様を目で追っていると、ある種の懐かしさを伴った安らぎさえ覚えるのだ。
 しかし、石材で覆われた都会の真っ只中の大きなお屋敷に、クララの愛玩として半強制的に連行されてきたアルプス育ちの少女ハイジ。彼女は、やはり時折窓の外を眺めては前の暮らしに戻りたいと涙目を浮かべながら、焦点の定まらない遠い眼差しを窓の外へ送っていたのではないだろうか。そう考えると切なさで胸がいっぱいになるのは、おそらく吾輩だけではない筈だ。
 この家の主が、そんなハイジを彷彿とさせる吾輩の憂いある後ろ姿を見て、もしかしたらホームシックになっているのではないかと心配してくれているらしいのだ。何とも実に吾輩思いの優しい主なのである。

 吾輩はこの物語のあらすじなど知る由もないのだが、安心してほしい。吾輩は今の生活に概ね満足している。