とある秋晴れの夕方のことである。吾輩が和室の出入り口付近でグニャリと体を横たえてのんびりしていると、リビングソファで足を組みながら真剣にスマホいじりしていた主が、ふと何かを思い出したかのように颯爽と吾輩がいる和室へと入ってきた。そして、吾輩の横たわっている背中等をそっとやんわりと擦ってくれたのである。
 これを吾輩はちゅーるを貰える千載一遇の機会と捉え、全身の血を俄に沸々と湧き立たせ、弛緩した肉を軽やかに舞い躍らせ、心を込めて熱く艶めかしく「ニャ〜ン!」と鳴いて、主の足元に身体をねっとり絡ませてみせた。
 いつものように悲哀に満ちた表情で主に甘えれば、もしかしたら大好きなちゅーるを目の前に出してくれるかもしれない。そう思って、更に身体の粘着性を強めて、すりおろしたトロロ芋のようにべったり主の足元へ纏わり付けた。
 タイミングを見計らい、吾輩が「ちゅーる、ココにあるよ。」と、置き場所を目で知らせてあげると、主は知ってか知らずか故意に無視して、ちゅーるとは別方向のかけ離れた所に置かれているカリカリを、ジャラっと味気ない皿に広げ出したのである。「もう! それじゃないよ…。」と、吾輩は大いにトーンダウンし、がっくりと肩を落とした背中を更に落として主に向けた。
 そして、吾輩はちゅーるが置かれている書棚のあちこちを頭部で何度もこすり付け、併せて哀しそうな三角涙目で主のことをチラリ見つめ返すと、主は根負けしたようで、「やれやれ、しょうがないなぁ…。」などとつぶやきながら、渋々ちゅーるを時間前倒しで出してくれるのであった。してやったりの根比べは、見事吾輩の完全勝利で幕を閉じた。
 フフフッ。根比べとはこうするのだという模範的見本を、ローマの教皇様に是非見せてあげたいものである。