先日、車で横をかすめて通過した時から気に留めていた、近所の神社の境内に植えられているサンシュユの黄色い花を見たいと思い、昨日(日曜日)の夕食前、オレンジ色のシャツを着た太陽が目を閉じる前に、履き古したサンダルで散歩ついでに会いに行ってきた。途中、シャラシャラと滑らかな音を立てて流れていた春の小川を耳で楽しんでいると、暮れなずむ近くの大きな屋敷林から、一羽のウグイスが日の入りにもめげず元気いっぱいに歌っているのが聞こえてきた。ウグイスが声高らかに歌うのはオスだが、麗しき春の妖精の到来を感じずにはいられなかった。

 サンダルによる夕暮れ散歩から帰宅して、夕方の民放で放映されている世界遺産に特化したテレビ番組をソファに身を預けて視聴していると、オカクンが目を細めて、寝転がってスマホの動画をニヤついて楽しんでいるワガコのふくらはぎをギュウッと抱き締めながら、ベタベタと誉めちぎり始めた。その訳は、昨日のランチの話をしたところ、ワガコの味覚がまた一歩大人に近づいたことが分かったからである。

 さて、件のランチだが、ワガコと二人だけで淡々と執り行われた。なお、オカクンはいわゆる女子だけの食事会へ参加するという理由により生憎の欠席となった。

 ランチ会場の選定について、自分では最優先的に推奨していた丸源ラーメン(ラーメンチェーン店)、我が家からも程近い幸楽苑(同左)、しばらく足が遠離っている丸亀製麺(うどんチェーン店)をワガコに提示したところ、今回、彼はこちらをじっと直視してドラフト2位の幸楽苑を指定した。

 宇都宮市街地西郊に位置する幸楽苑の店内は混雑する直前らしく、自分たちの他に1組の若い家族連れと、カウンター席に推定20才前後と思われる女性が単独でラーメンを啜っていた。ただし、デリカシーに欠いた覗き見行為は出来なかったので具体的なメニューは不明である。ワガコはというと、こちらの意表をついて、どう見ても辛そうなラー油にまみれた長ネギが噴火に喘いだ火山の様に盛り付けられた塩味のラーメンを、何の抵抗もなく澄ましながら注文し、やがて、食べ始めたのだった。

〈注 手前の味噌野菜ラーメンは自分が独断で注文した〉

 持参したタオルで顔を何度も拭きながら、彼は箸のスピードを緩めることなく、餃子と合わせてスープに至るまで一滴さえも残すことなく、見事完食を成し遂げた。味覚もさることながら、食べる量も、もう一人前の大人である。

 二人揃って温暖な陽気に全く対応していない冬の様相で激熱ランチに臨んだため、食べ終えた後、全身をうっすらと汗で濡らした。火照った顔を右手5本指で団扇のように煽っていると、既に食べ終えていたカウンター席の女性が、チラリと一瞬こちらを流し見して、花の香りをふわりと漂わせながら傍らをすっと通り過ぎていったのだった。 




 こうして、週末の出来事を思い浮かべて文をしたためているのだが、今にして思えば、彼女は、もしかしたら麗しき春の妖精、さしずめ、サンシュユの花の化身だったのかもしれない。近いうちに、また、会いに行ってみようか。…件のラーメン店へ。