すっきりしない曇り空の朝、自転車で登校するワガコを、部屋着のポケットに両手を突っ込んで玄関から見送った。この日の左眼の治療からおよそ7時間前のことである。

 ソファで足を組んで寛いでいた昼時前、オカクンが手製のフランスパンに練乳と苺を挟めて、目の前に「はい、どうぞ」と、笑顔を添えて配膳してくれた。邪道な食べ方かもしれないが、上部にツンと乗せられていた4つ切りの甘酸っぱい苺たちを先につまみ食いしてから、甘さ控えめのミルクフランスパンを夢中でほおばった。この日の左眼の治療からおよそ4時間前のことである。

〈正式名称 苺ミルクフランスパン(オカクン談)〉

 そして、迎えた午後3時。一通りの検査並びに診察等を経て、遅滞なくかつ滑らかにこの日の左眼の治療は始められた。診察時、医師から発せられた想定外の衝撃的な言葉に、目の前に迫り来る恐怖と先の見えない底知れぬ不安に怯えた我が心。しかし、医師も看護師も、更にはまるで他の患者までもが、どこまでもそっと優しく自分に寄り添ってくれたように錯覚した。立ち向かうのは自分一人だが、医師も、看護師たちも、みんな同じ方向を見ていてくれた。だからだろう。術中、不思議にも独りぼっちではないことを強く感じとれたのだった。本当に、感謝の一言に尽きる。

 面白おかしくポジティブに視点を変えて、この日はちょっと過激でドッキリ交じりな真剣勝負の儀式に参加したのじゃ!と、更には、これからも儀式に参加するための高額な回数券まで買ってしまったのだからこりゃ使いきらんと勿体ないのだ!と、そんな風に見直してみれば、この難局を、もしかしたら意外と楽に乗り切れるのかもしれない。

 さてと…。眼帯外して、寝よう。3月7日時点において、我が愛しの左眼の、とりあえず一番長い日に、サヨナラだ。