冷蔵庫の中を覗き込むと、半分食べ欠けの芋ようかんが目に止まったので、我が家のマドンナ的存在であるオカクンにその事を教えてあげた。すると、それまでSNSらしき世界で何やら会話を愉しんでいたオカクンがぴたりと指先を止めた。そして、目を輝かせながら、

「マーガリンを上にのせてトースターで温めるとスイートポストになるの!」

と、軽い口ぶりと身のこなしで早速拵えてくれたのである。

 眠くなるソファに身を任せて、オカクンが集めた一昔前の洋楽を2~3曲聴きながら待つことおよそ10分。甘い香りに包まれた薄黄色の芋ようかんが目の前に届けられた。慎重に遠近を計りながらスプーンですくって一口食べてみると、なるほど確かにスイートポストの味だった。銀紙にのせられてあるだけの至って簡単なおやつ。しかし、何物にも代え難い二人だけのおやつ。左眼の視力を大きく落としたが、落ち込むには、まだ早い。


〈注 スイートポストは既に胃袋の中〉

 ワガコが学校から帰宅した。二人だけののんびりとした穏やかな空気は彼によって激しくかき乱された。程なくして、これから自分が食べようとしていたチョコレートパイを目ざとく見つけると、無慈悲にも美味しそうに、遠近感の効かない目の前でパクパクと食べはじめたのだった。残念ながら曇りガラスで覆われたようにしか映らなくなってしまった左眼を閉じて、冷めた渋めのストレートティを、砂糖も入れずに飲み干した。