初詣をまだ済ませていなかったので、独り神社巡りをしてみた。「巡り」というのは、一つのお参りだけでは不足と判断したからであり、自宅から比較的至近距離にある複数の神社を散策ついでに徒歩でまわってみようと急に思い立った。正月の残り香が濃厚に漂う1月6日のことである。
 家族からの激しい引き留めもなく、至って静かに自宅を出発したのは、電柱の影が斜めに長く伸びはじめる午後3時30分頃。水を打ったようにシーンと静まっていた元日と打って変わって通常の活気を取り戻した幹線道路を交通ルールに従って冷静に横断し、しっかりと餌付けされている人慣れした鯉の群れに「こんにちは」と橋の上から軽く手を振って、先ず到着したのは我が家のベランダからも望むことができる羽黒山神社。その名のとおり、こんもりとした丘の上にひっそり佇んでいる。 この神社は昨年の8月下旬にキノコ探索で訪れて以来実に1年5ヶ月ぶりの訪問なのであるが、見違えるほど参道が綺麗に整備されていた。
 息を整えながらゆっくりとした足取りで参道を登ることおよそ10分。無事登頂に成功し参拝を済ませた。誰もいない山頂付近の公園では、エナガの群れが忙しそうに囀りながら、枝から枝へ渡り飛んでいった。見えない姿を両耳で追いかけたが、目で捉えることは残念ながら叶わなかった。枝と枝とから垣間見える街が、西からの陽射しでオレンジ色に柔らかく染まっていた。

 慎重に下山し、区画整理された閑静な新興住宅地を通り抜けて次に辿り着いた所は高靇神社。実は、この神社の存在は前々から認識してはいたのだが、いつも車で側を通過するだけで、長く近所に住んでいながら何と読むのか分からないでいた。しかし、今回あらためて訪問し、英語で表記された解説板を見て、「タカオ…」と読むことが分かった。長年にわたりふわふわ浮かんでいた頭上のハテナの一つがようやく消えて、ちょっと嬉しくなった。
 賽銭を用意していなかったので、その分気持ちを込めて、少々錆びが付着していた鈴を軽く振ってみた。鈴は右に左に揺さぶられながら、コロン…コロン…と、まるで子守唄を口ずさむかの様に、穏やかに歌い出した。 おそらく、この鈴も、今年の正月は、いつにも増して沢山振り回されたのだろう。見上げながら、「ありがとう。お疲れさま。」と、激務に耐えたであろう少々疲労感漂う鈴を労った。
 一通りの参拝を済ませ、後から車でやってきた見知らぬ若い家族連れのじゃれ合う姿を見送って、家族の待つ自宅へゆっくり歩き出した。コロン…コロン…と、穏やかに歌う鈴に見送られながら。