【ウォンキュ小説】踊り子 24  | むらたま SUPER JUNIOR キュヒョンブログ

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※私のどっぷり妄想のウォンキュ小説です。ここからは優しい目で見れる方のみお進みください。ウォンキュの意味が分からない方や苦手な方はUターンしてくださいね。尚、お話は全てフィクションです。登場人物の個人名、団体名は、実存する方々とは関係ございません。


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久しぶりに訪れた『藍』はもう随分来ていないように感じたが、まだ1ヶ月しか経っていない。
小さな藍染めの暖簾が風でぱたぱたと揺れていた。
シウォンは門を開け暖簾をくぐり、二連打ちの飛び石を渡った。革靴のコツコツとなる音がやけに耳に響いて聞こえ、こんなに不安になるのはここへ来て初めての感覚だった。一番最初にキュヒョンに連れて来られた時は好奇心のほうが勝っていたと思う。
重い空気のまま玄関の扉を開けると甘く芳しい香りが漂った。昔を思い出すような懐かしい気持ちにさせてくれる小さな花の金木犀だ。

「お待ちしておりました」

玄関先で迎えてくれたのは女将で、ロビーの隣りにある応接室に案内された。
いつもキュヒョンとシウォンの世話をしくれた仲居がお茶を運んで来ると、女将が話を切り出した。

二人で会うことのタブーは伝えなかった店側とキュヒョンの責任と言うことでシウォンにお咎めは無かった。
今回の件も同伴ならお茶屋遊びのシステムとして、花代、飲食費、交通費など、すべての料金を客に替わってお茶屋に請求がくるようになっていた。
キュヒョンのプライベートはほぼ無いに等しく、それは契約時に本人と交わされたものだった。

シウォンは例外でキュヒョンの紹介でご贔屓になったこともあり、全面をキュヒョンに任せていた。
そんな経緯も知らず、自分の気持ちばかり押し付けてデートに誘った軽率な言動が原因を作ったのだと改めてこの世界の厳しさを知った。

女将の話では、この店ではご贔屓が歳を取ると世代交代のため引き継がれることが多く、一見さんお断りもそんな事情があってのことだった。
昔は人から人へ当たり前のように伝わって来ていたが、今は遊びのルールを知らない者が増えたらしい。

その為、『藍』は誓約書を作ることになった。
誓約書はキュヒョンが客から殴られたことがきっかけで出来たものらしい。
ヒチョルに言ってしまったことを正直に女将に告げると、誓約前だから問題はないですよと言われたが不安は残った。あの時は無我夢中でキュヒョンに会いたい一心だったが、確かに人に知られると立場上まずい。皆が口を閉ざすのも無理はない。恋は盲目とはよく言ったものだ。

『藍』でこれまでのことは一切口外しないと誓約書を交わした後、キュヒョンの年季があけ店を辞めたのを知った。
年季があけるとは、借金を全額返済したということだ。
それでも疑問は残る。まだ多額の借金があったはずだ。一括で返せる程どこにお金があったのか。

携帯は『藍』から支給されていたもので、辞めるとなると返さなければならなかったのもそこで初めて知った。
女将にキュヒョンの居場所を聞いても教えてくれるはずもなく、もしかしたらご贔屓の誰かに身請けされたのかもしれないと頭をよぎった。

それでも会って話がしたい。

キュヒョンを探す手掛かりといえばあとはスト◯ップ劇場だけ。
『藍』を訪ねたその日にスト◯ップ劇場を訪ねた。
ピンクや紫のネオンに人々が群がり、客引きの男女や酔っ払いが道をふさいでいる。ぶつかりそうになりながらも声を掛けられないように足早に地下の階段を下りた。
薄暗い劇場の入り口には踊り子のスケジュールが貼ってある。
しかし、何度見てもキュヒョンの名前は無い。受付で聞いてみたが辞めたと言われただけだった。
諦めきれず入場料を払い、重いドアを開け中に入ると相変わらず耳をつんざくような大音量で音楽が流れていた。初めて入った時と違うのは、客が3分の2ほどしか埋まっていなかったことだ。

艶かしい音楽と踊りはピンクの照明で更に客の興奮を煽り、舞台の上の踊り子は女らしい柔らかそうな腰つきで客を挑発している。
だが、キュヒョンほどのインパクトはない。本当にこの舞台で踊っていたのかさえも今となっては信じられなかった。

舞台の端にオーナーのドンヒを見つけ、近づいて一礼するとそれに気付いたオーナーがシウォンを舞台裏に呼んだ。

「アンタもキュヒョンを探しているのか?」

「え?」

古くなった豆電球の明かりがチッカチッカと点灯と点滅を繰り返している。その側ではスタンバイ中の踊り子がガウンを羽織ってこちらをチラチラ見ながら煙草をふかしていた。

「困るんだよ。次から次へとやって来てキュヒョンを出せ、会わせろとうるさくて。でもな、もういないんだよ。店も辞めてしまったし、どこに行ったか俺も知らないんだ」

「…キュヒョンの連絡先は?」

「こういう所から足を洗う奴はみんな何も言わずに出て行くんだ。分かるだろう?」

確かに、事情があって働いてる人達は行き先を知られたくない人が大半だろう。借金や兄のことでお世話になっていたオーナーに連絡先を教えて行かないのは考えにくいが、キュヒョンは口止めをして去ったのかもしれない。

これ以上は聞いても無駄だと踏み、いつかは部屋を貸していただいてありがとうございましたとお礼を告げ、劇場のドアを開けた。
もう二度と来ることのない劇場は、騒がしい音と一緒に重いドアに飲み込まれていった。

地上に出ると客引きが旅館の浴衣を着た観光客に声を掛けていた。確かに以前行ったスナックで、温泉街は寂れていく一方なのに盛り上がってるのはピンク界隈だけと教えてもらったが本当にそうだ。
シウォンは久しぶりにそのスナックを訪ねてみようと来た道を戻った。
そこに行くのも随分と日が開いてしまった。緩い坂になっている石畳の道は考え事をしながら歩くにはちょうどいい。店のドアを開けるとカウンターの中からママとその娘が迎えてくれた。

「あら、元気だった?久しぶりの顔ね」

顔を覚えてくれていたとなると話は早い。聞けばヒチョルが何度か足を運んでいるようだった。世間話をいくつか終え、何気なくキュヒョンのことを聞いてみたが、シウォンが偶然この店でキュヒョンに会ったあの日以来、ここには来ていないとのことだった。

「え?あの子、いなくなっちゃったの?」

シウォンの開いたグラスで水割りを作りながらママの娘が驚いた顔でシウォンに尋ねた。

「ちょっとね。行方を探してるんだ」

「そっかぁ~。変だと思ってたのよね。体調不良と言って劇場は今月に入ってずっと休んでたみたいよ。辞めたって聞いたのはつい昨日だもの」

「そうだったんですか…」

「お兄さん、あの子のこと気になってたもんね。進展は無かったの?」

「ははは。あったら良かったんですけど…」

そういえば、このボトルでママの快気祝いを一緒に祝った時はまだキュヒョンに素っ気ない態度を取られていて、嫌われていると思っていた頃だ。
まさかその後の展開で自分がご贔屓になるとは思ってもみなかったけど…


※※※※※※※※※※


それから『藍』には一度も行ってない。  

あれから幾度となく季節を迎えたが、シウォンの時間は止まったままだ。
キュヒョンの力になりたいと思っていた矢先に忽然と姿を消した。

最初の出会いは衝撃だったが、ゆっくり心を開いてくれていたのかとばかり思っていたのは俺の勘違いだったのか。
それでも何かしら俺に残していく方法は無かったのか。
俺はキュヒョンにとってその程度の男だったのか。
キュヒョンに最後に会ったあの日、あんなに甘い声で俺の腕の中で啼いていたじゃないか。
絡まる指も汗ばむ肌も切なげな吐息も、全部昨日のことのように思い出せるのに。



つづく。