※私のどっぷり妄想のウォンキュ小説です。ここからは優しい目で見れる方のみお進みください。ウォンキュの意味が分からない方や苦手な方はUターンしてくださいね。尚、お話は全てフィクションです。登場人物の個人名、団体名は、実存する方々とは関係ございません。
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「シウォナ、重いよ」
「ん…こうしてないとキュヒョンがどこかに行ってしまいそうで」
うつ伏せのキュヒョンを後ろから抱きしめるように、シウォンはキュヒョンの背中に体重を預けていた。
「どこにも行かないし」
「うん…」
それはシウォンが『藍』に通い始めて3回目のことだった。
2時間で立ち消える線香は、まだほんの少し残っている。
和紙のスタンドライトの灯りが紅い布団の上に寝そべっている情事の後のシウォンとキュヒョンを照らしていた。
「手…」
「ん?」
「ここ、手首が赤くなってる。どうしたの?」
「ああ、これ?ストリ◯プショーで長襦袢の紐を手首に結ぶ演出があってさ、キツく結び過ぎたみたい」
「痕になってる…痛くない?」
「全然」
「ふぅん…」
キュヒョンの白い手首に付いた赤色の痕。
シウォンはそれが見えないようにそっと手を重ねた。
キュヒョンは隙があり過ぎる。
シウォンの前のご贔屓に殴られたことと言い、自分に非がなくとも傷つけられてもいいと思っているように感じることがある。
「踊り子は…いつまで続けるの?」
「それは…借金の返済が終わるまでかな」
「そっか…危ないことはするなよ」
「何?危ないことって」
「手首を縛るとか、聞いただけで危なっかしいよ」
「縛るじゃないよ。結ぶだよ。シウォンは心配症だね」
「だって、手が赤くなるほど締め付けていたんだろ?心配にもなるよ」
「これは舞台の上でショーを見せながら落ちないように結ぶから仕方ないんだよ…うん、でもありがとう。今度から気をつける」
「うん」
ウザイと思われたかもしれない。でも、言わずにはいれなかった。もう少し自分を大切にしてほしい。こんなこと、言えた義理じゃないのは分かってるけど…
体勢を変えたキュヒョンが上体を起こし、さらりと薄紫の長襦袢を羽織った。
「どこに行くの?」
「お水を取りに。喉渇いてるかと思って」
襖を開けると月明かりにキュヒョンの後ろ姿が映った。羽織っただけの長襦袢の下からは体のラインが透けて見える。青白く映って見えるキュヒョンはどこか儚げで危うい雰囲気を醸し出していた。
体の筋肉のつき方や歩き方はどう見ても男なのに、あのゾクりとする色気に狂わされ会うたびに溺れていく。
キュヒョンが水を持って戻って来ると、シウォンの前に正座をして水を差し出した。
「はい。よく冷えてるよ」
「…キュヒョンが飲ませて」
「え?」
キュヒョンの膝の上に頭を下ろし、仰ぐ形でキュヒョンを見た。
最初は驚いた様子だったが、キリリと冷たい水を口に含んだキュヒョンがシウォンの頭を抱え込んでゆっくりと唇を重ねた。温かい唇から冷たい水が注ぎ込まれる。ごくんと飲み干せば喉仏が上下して、またキュヒョンを抱きたくなった。
「ん?何?」
「髪…伸びたなと思って」
「うん」
「手を伸ばしてキュヒョンの柔らかい髪を撫でると、なんとも言えない表情でキュヒョンが微笑んだ。
「キュヒョナ、痛そうなことだけはしないで」
「うん。そうだね。ただ、お客様を飽きさせないように踊りを考えるのも大変なんだよ。今回は腕から紐を垂らして上手く隠すように踊るんだけど、絶対横から見えてるよね」
「アハハ。確かに」
「いつもより太めの紐なんだけど、小道具を使うにも限界がありそうで」
「俺が観た時は枝垂桜の枝だったしな」
「また観たい?」
「キュヒョナの踊りは見たいけど、劇場ではもういいよ。他の奴らにも見られてるのかと思うと嫉妬でどうにかなりそうだ」
「今ここでこんなことしてるのに?」
「だからなおさら俺以外の奴に見せたくない」
「…」
「無理なのは分かってる。どうにもならないことも。ただ、この時間だけは俺のことだけ考えていて。ここに来た時は全てを忘れて俺だけを見て」
「うん…」
今度はキュヒョンの手がシウォンの髪を撫でた。優しく、愛おしむように。
太腿の間に手を割り入れるとキュヒョンが小さい声を漏らした。
紅い布団の上で体を重ねれば、子供の頃テレビで観た記憶が妙に生々しく残っていたのを思い出す。花魁の話で、艶かしく甘美でもあるのに生と死が隣り合わせのような気がしてつい変なことを連想してしまった。
断片的だか病に侵された遊女が錯乱して朱布団の上で最期を迎える結末は衝撃だった。トラウマとも言えるシーンでありながら、そのドラマは強烈なインパクトを残し、まさか自分がそのような場所に通うことになるなんて、一体誰が想像出来ただろう。
キュヒョンの薄紫の長襦袢が肩から滑り落ちると、紅い布団の上に倒れ込み唇を貪った。
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なぜこの日のことを思い出したのか分からない。
今日キュヒョンの過去を知って、自暴自棄になっていると見えていた原因が分かった気がしたからなのか。
それでも話してくれたことが嬉しくて、キュヒョンの笑顔が見れるだけで幸せで、ずっと一緒に居たいと思う。
なのに幸せであればあるほど不安が募るのは、このささやかな幸せを壊したくないからだ。
シウォンの車は湾岸道路を降り、少し走ると見慣れた街の風景が目の前に広がった。
キュヒョンとこの街に帰って来た。
キュヒョンとふたりで。
格子の中で捕われた踊り子の迎える未来が幸せなものであればいいのだけど…
つづく。