※私のどっぷり妄想のウォンキュ小説です。ここからは優しい目で見れる方のみお進みください。ウォンキュの意味が分からない方や苦手な方はUターンしてくださいね。尚、お話は全てフィクションです。登場人物の個人名、団体名は、実存する方々とは関係ございません。
゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚
「シウォン、今日はありがとう」
「んん?」
「ドンへに会えてよかった」
「会って辛くなかったか?」
「最初はね。でも、ずっと気になってたから。あんなに世話になったのに、メール1通送っただけで音信不通にして、すごく心配してくれてたのに…」
「うん…この店の名前も、いつでも帰って来れるようにと思って付けたのかもしれないな」
「わ!すごい!まさにそれなんだけど」
「え?ほんとに?すごいな俺」
「昔ドンへに聞いたことあるよ。お父さんがいつでも誰でもここに『ただいま』って帰って来れるように付けたって言ってた」
「そっかぁ。イタリア語で『ただいま』も『お帰り』もciaoで、『こんにちは』って挨拶にもなる。ドンへさんのお店にピッタリの名前だ。ドンヘさんはお父さんの意志を受け継いで、情に溢れる本当に素敵な人なんだな」
「うん。いつかドンへにお礼をしたいな。時間はかかるだろうけど」
「だったら今日はドンへさんと一緒に居なくてよかったのか?積もる話もあったんじゃないのか?今からUターンしてもいいし、俺はこのままお兄さんに会いに行ってもいいんだけど」
「いいんだ。それこそ今度は今いる街に戻れなくなる。トゥギヒョンのことも病院側の話によると回復に向かってるし、今会えば兄のことだから無理に退院するって言いかねない。完治してから迎えに行くよ。それにここにはもう俺の居場所はないんだ。俺はシウォンと帰る」
「キュヒョナ…」
まだこの町に来て数時間しか経っていないのが嘘のようだ。
湾岸道路はすっかり夕暮れに染まり、海はオレンジの光で輝いている。
シウォンがキュヒョンに見せたかった景色だ。
「すごい」
「車で走りながら見るサンセットもなかなか乙だろ?」
時の流れを知らせる夕焼け空に、湾の向こう側に見える観覧車のシルエットがノスタルジックだ。雄大な光景に一瞬何もかもを忘れそうな心持ちになる。
「こんな風景があったなんて…トゥギヒョンと海に行く時はいつも昼間だったから、夕陽が沈んでいく海を見るのは初めてだよ。すぐ近くにいたのに、知らないこともいっぱいあったんだね」
「世の中には知らないことのほうが多いんだよ。俺だって自分が見えている世界だけで、知っているのはほんの少しだけ。人生死ぬまで勉強って本当だな。これから色んなことを経験して、たくさん知っていけばいいさ」
「…そんなこと言ってくれる大人は周りにはいなかったな」
そう言って口を尖らせて拗ねる横顔は子供のようだ。
「仕方ないよ。今までキュヒョンは周りを見る余裕なんてなかっただろ?これからだよ。何かを始めることに遅くはないから」
「うん。そうだね。なんか…シウォンてさ、お父さんみたい」
「オイオイ、そこはお兄さんと言ってくれよ」
「アハハ。だって俺にはトゥギヒョンがいるし。それにお兄さんと言われたくないって言ったのはシウォンじゃん」
「それとこれとは違うだろ。あの時は名前を覚えて欲しかったんだよ」
キュヒョンに笑顔が戻ってきた。朝出かけた時と同じように、お互いの話をたくさんした。車の中はシウォンが用意していた花束の香りに包まれ、緊張していたふたりを和ませていた。
「昔、小さい頃あの観覧車に乗ってみたくて砂浜をひとり歩いてさ…」
「うん。どうだった?辿り着いた?」
「全然。辿り着く前に補導された」
「えっ?」
「小学生の子がひとりで海を歩いてるから通報されちゃったみたいなんだよね」
「え?で、どうしたんだ?」
「多分施設の所長が迎えに来てくれたんだと思う」
「そっかぁ」
「なんであそこを目指したのかも、ただの好奇心だったのか忘れちゃったけど、めちゃくちゃ怒られたのは覚えてる。あの観覧車まで辿り着いてたら、もしも乗ることが出来ていたら何か変わってたのかな」
「う~ん。そうだな。なぜか俺と偶然出会って一緒に乗ってたかもな」
「ええ?そうくる?」
「だって、そのほうが夢があるだろ?きっとどこで何をしてても俺たちは出会う運命だったって思いたいんだ」
「…シウォンてすごいね」
「何が?」
「俺が考えるよりもずっと斜め上を行ってる」
「それ、褒められてんの?」
「アハハ。褒めてるよ。俺の前に立ちはだかってた壁をヒョイと乗り越えちゃうんだから。うじうじ悩んでたのが馬鹿みたいだ」
「そんなことないよ。俺だって悩むことばかりだ。知識が増えた分、考えることも多くなったし」
「そうなんだ」
「うん。でもこうやって吐き出して悩みも辛いことも違う視点で考えたら、少しは気持ちも軽くなるかもしれないだろ?まぁ、内容にもよるけど」
「そうだね。ほんとそう思う。シウォンなら俺の悩みもゼロにしてくれそう」
「ハハハ。それは責任重大だな」
キュヒョンの悩みは少し聞いただけでも計り知れない。そんな苦しみを少しでも取り除いてやりたいと思うのは俺のエゴだろうか。
空の蒼がゆっくりと夕陽のオレンジと雲のグレーと重なり黒に染まっていく。沈む太陽がいつもより大きく感じるのは気のせいなのか、溶け込んでいくような夕陽がオレンジに染まった果てしない水平線を俺は一生忘れないと思う。
「シウォナ…今日は本当にありがとう。この街に連れて来てくれて。俺1人だったら絶対ここに来ることもなかった。あれ以来大嫌いだった観覧車もシウォンと一緒なら乗ってみたい。シウォンのおかげで胸に引っかかっていたものが少し軽くなった気がする」
不本意とはいえ、キュヒョンもこの街に来ると思ってなかっただろう。それでも来てよかったと思うキュヒョンの言葉は本心なんだと思いたい。
「キュヒョナ、好きだよ」
「え?なに急に」
「ちゃんと言葉で伝えておこうかと思って」
「相変わらず…」
「何?」
「なんでもない」
照れ臭そうに顔を赤らめて窓の外を見るキュヒョンの横顔は、ちょっと口角が上がって嬉しそうに見えた。
「キュヒョナ、今日ウチに来るか?」
つづく。