※私のどっぷり妄想のウォンキュ小説です。ここからは優しい目で見れる方のみお進みください。ウォンキュの意味が分からない方や苦手な方はUターンしてくださいね。尚、お話は全てフィクションです。登場人物の個人名、団体名は、実存する方々とは関係ございません。
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「キュヒョン、これから海を見に行かないか?」
ランチタイムは客のピークを迎え、今店を出るにはちょうど良い時間帯だ。
キュヒョンに携帯を持っていないことにしてほしいと頼まれ、シウォンはドンへに2時まで戻ると言って自分の電話番号を伝え店を後にした。
日差しが温かく感じる木漏れ日の中、田園風景を眺めながら来た道を戻った。
窓を開け車を走らせると海へ続く道は時折潮の匂いを運んでくる。
「懐かしい…」
キュヒョンがボソッと呟くと、子供の頃兄によく連れて来てもらったと言った。キュヒョンにとってこの街で過ごした数年は楽しくもあり、辛くもあったんだろう。
キュヒョンが抱えている兄のことも借金のことも、周りの人たちの慰謝料が含まれてるのかと思うといたたまれなくなる。
キュヒョンの年齢だと夢に向かって好きなことを思い切り出来る今が一番楽しい時期じゃないか。
背中に背負うものが多過ぎるし大き過ぎる。
シウォンのハンドルを持つ手に力が入った。
坂を下って行くと水平線が見え、真っ青に澄み渡る空にうろこ雲が広がっていた。透き通るような雲が流れていく様子は、とても涼しげで美しく感じる。
海の側の駐車場に車を止め、砂浜を歩いた。
夏の終わりの海は人もまばらで、少し湿っている砂を踏むとキュッキュと音がした。
キュヒョンに初めて会ったのは枝垂桜も散り始めた頃だった。あれからまだ数カ月しか経ってないなんて嘘みたいだ。
どこまでも続く海を見ていると、この場所を選ばなければもっと楽しい時間を過ごせていたかもしれないと思う。
だけどシウォンは今日この街に来たのは意味があるものだと思いたかった。
「大丈夫か?」
「それ、今日聞くの2回目」
「心配なんだよいろいろと。お兄さんのことも借金のことも。ほら、さっきも店で好奇の目で見られてたし、今もこんなおじさんと2人で嫌じゃないか?昔住んでたところだろ?もし誰かに見られたら」
「俺は気にしないよ。ドンへに挨拶したらもうここには戻って来ないつもりだし。どちらかと言えば今住んでる街のほうが人目を気にするかな。客商売だし、特定の人と会ってるのを見られるのはちょっとまずい」
「そっか…」
「嫌だった?」
「え?」
「俺と一緒に居て気まずい思いした?」
「いや、違う。そうじゃなくて、俺…自分の感情でいっぱいいっぱいになってて舞い上がってたんだ。考えが甘いというか、浅はかだったというか」
「え?」
「今日、キュヒョナとデートするのが楽しみって言ってただろ?だけど車の中でダンサーの話をした時も、ドンヘさんの店に行ったのもキュヒョンに悪いことしたなって。無神経な発言もだし、リサーチ不足でほんとごめん」
「それは俺が話してなかったからシウォンが知らないのは当たり前だし、気にすることないよ。車の中で話せなかったのはちょっと驚いたこともあったけど、考えがまとまらなかったというか…」
「うん…キュヒョンにしてみたら何で?だよな。それに、さっき初めて気付いた」
「何を?」
「周りの好奇の目ってやつ。俺はすっかり恋人にでもなった気で、キュヒョンが男だとかそんなの気にしてなかったんだよ。でも、俺が手を握ったせいで周りの空気が変わったのを感じたというか…最初から気付いてた訳じゃないんだ。その時は寧ろキュヒョンが心を開いてくれたことが嬉しかったし、何より力になりたいと思った。あの時抱きしめたかったのも嘘じゃない。だけどキュヒョンがトイレに立った時、聞こえたんだよ男の声でゲイかよって」
「そうだったんだ …」
「うん。でもキュヒョンが俺と一緒でも大丈夫だって分かって安心した」
「だてに修羅場はくぐってきてないからね」
「そのセリフ、ハタチそこそこで言うか?」
「シウォナより人生経験は豊富だと思うけど?」
「確かに」
ふたりで顔を見合わせてプッと笑った。
育ってきた環境が違うと言ってしまえばそれまでだが、こんなに惹かれるのも何か見えない糸で手繰り寄せられているような気さえする。
キュヒョンの横顔はまだあどけなさも残る大人と子供の境界線の上に危うそうに立っているみたいだ。
それでも俺よりは何倍も何十倍も重い過去を背負っている。
こんな時、人生経験は年月ではなく、自分が何をしてきたか、何を残してきたか、これから何に繋げるかだと思う。
キュヒョンは今、人生の岐路に立っているのかもしれない。
「実際、俺は子供だと思う。何も分からないまま大人に言われた通り、とにかく目の前のものだけ片付けて、気付いたら全部失ってた。兄も、家も、金も、学校や好きだったダンスも。大事な友達まで…もっと他に方法があったんじゃないかって、今になって思うよ」
「キュヒョン…」
「俺さ、車の中で考えてたんだ」
「ん?」
「この町に向かっていると気付いて、引き返してほしいって言おうか迷ってた。でもせっかくいろんなプランを考えてくれたのに雰囲気を壊したくないし、引き返すにしても理由が必要だろ?そしたらどんどん知ってる道を進んで行くし、まさかのドンヘヒョンの店だし」
「だよな。どんな確率だって思うよな」
「うん。思った」
「あーーーほんとごめん!」
「ううん。逆に謝らなきゃいけないのは俺のほうだし」
「なんで?」
「シウォンはご贔屓さんで、店に通ってくれる大事なお客さんなんだ。もしもシウォンが俺の過去を聞いて激怒したら、店にバレて叱責されるだろうし、迷惑をかける」
「俺、そんなつもりは…」
「うん。分かってる。今日一緒に居てシウォンはそんな人じゃないってよく分かったし。だから今、話したんだ。おかげでスッキリした。ずっと聞いてもらいたかったんだと思う」
「俺でよかったのか?」
「うん。正直さっきまでは店のお客さんで仲良くなった一人として見ていたんだけど、店や客の関係を抜きにして、シウォンだから聞いてもらいたかったんだ。シウォンが居てくれてよかった」
「キュヒョン…」
「俺さ、また初めていいかな。ダンス…」
「あ、当たり前だろ。やりたいことに早いも遅いもない。俺はキュヒョンを応援したい」
「うん。ありがと。実はさ、歌も勉強してみたいんだ」
「お、いいなそれ。ミュージカルとかいいんじゃないか?」
「ミュージカル?」
「ああ。キュヒョンの声はよく通るし、ステージで映えると思うんだ」
「…ミュージカルか。考えたこともなかった」
「そうなのか?キュヒョンの甘い声で歌ったら、みんなメロメロになるよきっと」
「メロメロて!」
「アハハ。俺なら絶対なる。かけてもいい。俺には見える」
「なんだよそれ、呪い?」
「せめて予知と言ってくれよ。まぁ、なんでもチャレンジしてみたらいいよ。夢は多いほうがいい」
「そうだね。シウォンが言うなら出来そうな気がしてきた」
にこりと微笑んだキュヒョンは穏やかな表情をしていた。歩くと触れる指先をそっと握り返す。波打ち際まで辿り着くと、このままふたりで海の中へ入ってしまってもいいような気さえした。馬鹿なことを考えているのは分かってる。応援したいのも本心なのに、手を離すとキュヒョンがどこか遠くに行ってしまいそうで、急に不安に駆られた。
「ねぇ、手なんて繋いで本当は恥ずかしいんじゃないの?」
「なんで?キュヒョナは恥ずかしい?」
「全然」
「だろ?」
今、この瞬間の俺がずっとキュヒョンの記憶の一部として残ればいい。
いつか海を見た時、ふと俺が隣にいたのを思い出してほしい。
キラキラ輝く水面をふたりで見ていたことを…
つづく。