※私のどっぷり妄想のウォンキュ小説です。ここからは優しい目で見れる方のみお進みください。ウォンキュの意味が分からない方や苦手な方はUターンしてくださいね。尚、お話は全てフィクションです。登場人物の個人名、団体名は、実存する方々とは関係ございません。
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「お待たせ」
シウォンは愛車のア◯ディを路肩に止め、車の窓を開けて歩道に立っていたキュヒョンに声を掛けた。
待ち合わせたのは商店街の外れにある大通りで、キュヒョンはシウォンと分かると「おはようございます」と会釈をし、駆け寄ってきた。少し緊張しているようでその姿に思わず可愛いと口から出そうになって慌てて飲み込んだ。
連日の残業で身体が疲れているにもかかわらず、昨日は深夜だというのに洗車をしワックスまでかけてピカピカになった愛車でキュヒョンを迎えに来ていた。
ドライブデートの約束をした日から数日、シウォンはキュヒョンがどこに行きたいか、何を食べたいか、何をするか想像しながら過ごしていた。昨夜は緊張のあまりほとんど眠れず今日を迎えたほどだ。
店もお金のやり取りもなく、ただ純粋に外で会ってデートをする。
そんな些細なことがシウォンには何より嬉しかった。
助手席のドアを開けようと外に出ると「なんで出てくるんだよ」とキュヒョンが驚く。照れ臭そうに車に乗り込む姿に思わず顔が綻んでしまった。
きっと俺は今、眉が下がってるに違いない。
「ドアを開けるのはデートの基本だろ?」
店で一緒に過ごすキュヒョンは艶っぽくてドキドキするが、今日のキュヒョンは可愛くてドキドキする。いや、キュンとすると言ったほうが正しい。
家を出る前シウォンは一瞬スーツで来ようか迷っていたが、淡い水色のカジュアルなシャツと黒いパンツのラフな格好で正解だったと思った。
久しぶりに見るキュヒョンの私服は『藍』で会う長襦袢姿からは想像もつかない。
きっとオーナーの家に行ったあの日以来だ。
オフホワイトに紺色のボーダーの長袖Tシャツ、ロールアップしたジーンズとスニーカーを履き、しかもリュックを背負って両手でベルトを持ってるなんて可愛すぎて反則だろそれ。
そういうの、何て言うんだ?
ギャップ萌え?
だいたいベルトが短いんじゃないか?
普段使いのリュックってもっとこう、ベルトを長めにしてカバンは腰ぐらいまで下げて使うんじゃないのか?
なんでそんな上で背負ってるんだよ。
三十路を過ぎた男をキュンとさせるなんて恐れ入る。
「これからどこに連れて行ってくれるの?」
無邪気にキュヒョンが尋ねてくる。
「それは内緒」
「なんだよそれ〜ベタなやつ?」
口を尖らせ助手席に乗り込み、シートベルトを締めるキュヒョンは店とは違う雰囲気だ。
「ほら、こういうのって隠しておいたほうがいいだろ?サプライズ的な」
「まさか花束とか用意してないよね?」
「えっ…そのまさか」
「え?あるの?」
「キュヒョンは花が好きだと思ったんだよ。店にはいつも綺麗に生けてあるし」
「あれは女将が用意してるんだよ」
「ああ、そうか!」
「アッハッハ。なんで今気付くんだよ!仮にも旅館をリノベーションしてるんだろ?シウォンてキザなのにどこか抜けてるよね」
「はぁ〜。格好良くキメたかったのに…まただよ。あーまぁいいや。後部座席、見て」
「え?あ、ホントだ。うわっ!すごい綺麗じゃん!いい香りがすると思った」
「その割にめっちゃ笑ってるけどな」
「だって。ククク。花の次はアレだろ?音楽は好きなの選んでかけていいってやつ」
「なんで言うんだよ」
「アッハッハ!ヤベぇ!腹いてぇ〜」
こんなに笑ったのはいつぶりだろう。キュヒョンが腹を抱えて笑う姿を見るのも初めてだ。もしもこれがキュヒョンじゃなかったらムッとしてたかもしれない。
分かっていてもそこは合わせて欲しかったとか、せっかく用意したプランをことごとく見破られダメ出しされたら大抵の男はヘコむ。
なのにふたりで笑い飛ばして、まるで昔から知り合いだったみたいに心地いい。
そのまま肩を引き寄せて思いっきり笑顔ごとキュヒョンを抱きしめたくなった。
ひと回りほど歳が離れているのに、こんなに自然体でいられるのも『合う』というのが一番しっくりくる言葉なのだろうが、やっぱり好きなんだからだと思う。
「ん?何?」
「いや、何でもない」
ニヤける顔を抑えつつ、キュヒョンの選んだ曲を聴きながら湾岸道路を飛ばし西へと走った。
シウォンは仕事が一段落すると、よく湾岸道路を一人で運転していた。
明け方の空気は気持ちが良く、夕方はサンセットビーチで海が紅く染まる。
夜はパーキングに車を停めて星空を眺めることもあった。
日中は車を走らせて気持ちいい気分になるだけだったが、キュヒョンが隣にいるだけで、こんなにも景色が輝いて見える。
目的地まで2時間ほどかかる距離で間が持つのか不安だったが、そんなことは全く気にする必要はなかった。
好きな人と一緒にいる時間はなんでこんなに楽しくてずっと笑顔でいられるんだろう。
一体いつ振りの感情なのか、それまでの記憶を手繰り寄せてもこんな風になった記憶は無い。
キュヒョンといると初めてのことばかりだ。
途中休憩を挟み、立ち寄ったサービスエリアでコーヒーを買ってそこで初めてキュヒョンがコーヒーを飲めないことを知った。
ほら、初めてがまたひとつ増えた。
今まで自分がいかに相手に合わせられるかだけを考えていた。その先にある一緒になって楽しむことや喜ぶことをおざなりにしてきた気がする。相手のことを深く知りたいとも思わなかった。
今思えば、恋愛に興味がなかったのに周りに合わせようと必死だったのかもしれない。
隣りで生クリームいっぱいのアイスカフェラテを美味しそうに飲んでいる姿を見ているだけで愛おしいと思えるのは、そこに『愛』と『恋』が同居しているからだ。
車中ではお互いの好きな食べ物や今読んでいる本やオススメの本、音楽やアーティストの話と尽きることはなく、趣味で車の話にもなった。
「キュヒョンは車持ってないの?」
「車どころか免許も持ってないよ。いずれ取りたいと思ってるけど、なかなか…。シウォンて車好きなの?」
「そうだな。キュヒョンに出会う前までは車が一番だったな」
「ふぅん」
「なんで?」
「運転が好きそうだし、車はピカピカで、さっきから車の話をするシウォンは楽しそうだから」
「そう見える?」
「すっごく」
「そうか〜。まぁでも細部にはこだわったかな」
「うわっ!こだわり強そ!俺は車のことは全然分からないけど、高い車なんだろうなってことは分かる」
「アハハ。まぁ、それなりの値段はするな。でもほら、経営者だから」
「さすが、言うね〜。経営者か。俺もそんな才能があったらなー」
「キュヒョンにはダンスの才能があるんじゃないのか?その道に進む気はないの?」
「ダンスねぇ…」
あ、しまった!
と、思った時には遅かった。きっとこの話はタブーだ。
事情があってスト◯ップと裏茶屋で働いているのに、仕事の話は慎重にすべきだった。どうにかして次の話題をと思った時にはすでに遅く、キュヒョンはそれ以上の言葉を発することなく、窓の外を眺めてしまった。
気まずくなって会話が無くなると急に焦ってしまう。
浮ついていた数分前の自分を殴りたい。
今までの楽しかった時間が嘘みたいになるのは嫌だった。
「あ、えっとキュヒョン、ちょっと早いけど高速を下りたらランチにしないか?あそこに丘が見えるだろ?あの辺にいい店があるみたいなんだ」
「え?ここって…」
「どうした?何かあった?」
「ううん」
知っている場所なのか、また地雷を踏んだのか、シウォンはどうしていいか分からなくなった。
結局目的地の店に着くまでキュヒョンは何か考え事をしているようで、一切口を開くことはなかった。
湾岸道路を下り、海とは反対方向の山道を登り林を抜けると棚田が一面広がる場所に出た。
その先に小高い丘の上の一軒家があった。
元外国人住宅をリノベーションしたカフェで、三角屋根の白い木造の洋館にシンボルツリーのレモンの木が良く映えている。
丘から見渡す海はキラキラと輝き、青々とした木々の揺れる音と小鳥のさえずりが聞こえた。天気の良い日はテラスで食事も出来るようになっているらしい。
「キュヒョン、ここなんだけど、シーフード食べれる?」
「うん…」
「アクアパッツァが人気なんだって。えっと、もし苦手だったら他の店でも全然構わないんだけど」
「大丈夫。シーフード好きだよ。入ろ。今ならまだお客さんも少ない時間だし」
「う、うん」
キュヒョンが木製の白いドアを開けると店内から心地良い風が吹いた。
天井が高く開放感のある空間が広がり、木製のシーリングファンが回っている。
まるでここだけゆったりと時間が流れているような、初めて訪れたのになぜか懐かしい感じがした。
「いらっしゃいませ。2名様ですか?」
俺たちに気付いた店員がカウンターから声を掛けた。
が、一瞬にして店員が驚いた表情になった。
「キュヒョン!」
シウォンが咄嗟にキュヒョンを見ると、懐かしそうなそれでいて気まずそうな表情を浮かべている。
「心配してたんだぞ。元気だったのか?」
慌ててカウンターから出てきた男は少し足を引きずっていた。キュヒョンを抱きしめながら今にも泣き出しそうな表情をしている。
シウォンが初めて来たこの場所をキュヒョンは知っている。店も店員のことも。
一体この男は誰なんだ?キュヒョンとはどういう関係なんだ?
シウォンの隣で男は目に涙を浮かべ、見上げながらキュヒョンの存在を確かめるかのように頬を両手で包んだ。
「キュヒョナ、無事でよかった」
男は安堵の表情になって、今度はキュヒョンを強く抱きしめた。
つづく。