※私のどっぷり妄想のウォンキュ小説です。ここからは優しい目で見れる方のみお進みください。ウォンキュの意味が分からない方や苦手な方はUターンしてくださいね。尚、お話は全てフィクションです。登場人物の個人名、団体名は、実存する方々とは関係ございません。
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「どうしたキュヒョン。心ここにあらずだな」
「そんなこと…すみません」
毎週月曜日に『藍』で会う元ラガーマンの会長はキュヒョンにとって一番信頼できる男だった。
この街に来て間もない頃、スト〇ップ劇場で知り合った羽振りの良い客を接待している時に会長と初めて会った。客達は男の踊り子のキュヒョンに興味深々で根掘り葉掘り聞いてきたが、会長はキュヒョンがのらりくらりと交わしている様子をただ見ているだけで、お酌をする時以外は殆ど話をすることもなかった。
会長と二度目に会ったのは『藍』だった。
呼ばれて座敷に上がった時は驚いた。一番興味がなさそうだった紳士がなぜ指名したのか不思議だった。会長曰く、一目惚れだったと言う事だが、後から聞いた話ではキュヒョンの面倒を見て欲しいと女将から頼まれていたようだった。
裏茶屋で働くには理由がある。
しかし会長はその話については何も触れなかった。すでに調べられて知っていたのかもしれないが、キュヒョンにとってそれはとても有難いことだった。
そこから会長にノウハウを教わるようになり、今に至る。
「悩んでる姿も憂いを帯びていいが、接客を疎かにするのは失礼にあたるからな。気をつけなさい」
「はい」
「それともどこか調子が悪いのならちゃんと伝えなくてはダメだ。客に移してはいけないし、店に迷惑もかかる。体調管理も自己管理もきちんと出来なくてはいけないよ」
「はい。肝に銘じます。体調も悪くないですし、少し考え事をしていました。すみません。これからもご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします」
「分かったならそれでいい。最近はやっと体も応えるようにになってきたからな。私は嬉しいんだ」
「会長が僕に手解きを教えてくれたんですよ」
「そうだったな」
残念ながらキュヒョンの体はどんな男に触られても全く気持ちがよくなかった。だがそれはキュヒョンにとっても好都合で気を遣らなくて済んだ。男たちはあの手この手で悦ばせようと必死になって、気のないキュヒョンの乱れる姿を見たいと通いつめる。
ただ、この会長だけは違っていた。決して無理強いをせず、客との受け応えも丁寧に教えてくれた。毎週会うことになっているが、体の繋がりは毎回という訳ではない。
普段の『藍』の営業はお茶屋で、会長が使っているのは主に会食だ。その時にキュヒョンの様子を伺いに部屋を訪ねてくる。キュヒョンがいる場所は奥の紅い格子が付いた部屋で、一般の客が目にすることはない。
ここに来て1年半、長いのか短いのかよく分からない。無我夢中で借金を返す事だけを考え生きてきた。
キュヒョンにとって会長は恩人で、身請けを頼むことになる時が来たらこの人だと思っていた。
シウォンに会うまでは…
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その週の水曜日、シウォンはいつものように『藍』でキュヒョンと会った。
「すごいね。もう4回目って」
「まだ4回目だ。3ヶ月で4回しか来れてない。俺はキュヒョンのことをまだ何も知らないのに」
うつ伏せになりながらシウォンはキュヒョンの柔らかい髪を撫でていた。
こういうのをピロトークって言うんだっけ?
腕枕は苦手だと言うキュヒョンは、いつもうつ伏せになって曲げた両腕に頬を乗せ、顔だけシウォンのほうを向いて話すことが多かった。
「このままの関係じゃ満足できない?」
「会えば欲が出るのが人間だろ?俺は今、水曜日が待ち遠しくてたまらないんだよ。だけど、水曜日がきたら終わってしまうのが嫌でもあるな」
「こんなに濃密な時間を過ごしているのに?」
「だからこそ、だろ?」
営業トークだと分かっていてもキュヒョンの言動にいちいちドキリとする。
うつ伏せの状態で少し気怠そうに話すキュヒョンを見ていると、柔らかい髪を触っている指先をそのまま首筋を通って下へ下へと這わせ、二回戦に突入したくなる。
本能丸出しでキュヒョンの全てを堪能したいぐらいだ。
明日が休みならそれもアリだろうが、平日ど真ん中で仕事も押しているのにさすがにそれは無理だ。
睡眠時間だって少しは取りたい。
なのにそれでも会いたくなるのがキュヒョンだ。
お金を払えなくなっても会いたいと思ったご贔屓の気持ちが今なら分かる。
離れがたい…
何度体を重ねても、重ねれば重ねるほどキュヒョンに溺れていく。
その愛らしい唇で名前を呼ぶのは俺だけにしてほしい。
いくら願っても叶わないと知りながら、そう思わずにはいられなかった。
ふと仕事のことが頭によぎると、「困ったやつだな」と言いながらもアドバイスをくれる面倒見のいいヒチョルに、これ以上心配をかけたくないと思う。と同時に、それでもキュヒョンに会わなければ終わってしまうこの関係を壊したくないと思う気持ちがあった。
このままじゃいけないことも分かってる。
キュヒョンに溺れて身を滅ぼしかねない。あの俺の前のご贔屓のように…
薄明りの中、時折ふわっと漂ってくる香りで、もうキュヒョンと離れる時間だと気付かされる。
もうすぐ線香がなくなりそうだった。いつも線香がたちぎれそうになると香りが強く感じるのは気のせいなのか、こんな時は名残惜しい。
確かにタイマーよりは全然風情があっていいけど。
キュヒョンも香りに気付いたのか、起き上がりそうになるその腕を掴んで制止した。
「え?何?」
「キュヒョナ、今度海を見に行かないか?」
「海?」
「うん。日常を忘れて美味しいものでも食べて乾杯しよう」
「何に?」
「君の瞳に?」
「言うと思った!」
「ハハハ。お見通しだな」
これで話を流されては困る。キュヒョンにきちんと伝えなければ言うチャンスを逃すことになる。
シウォンはガバっと起き上がると布団の上で正座をしてキュヒョンを見つめた。
「え?今度は何?」
「俺と、外でデートしませんか?」
キュヒョンは半分身を起こしたままの状態で、ポカンと口を開けて驚いていた。
まさか次に発せられる言葉が「そこ、丸見えだけど」とは思わなかったけど。
「あ、わわわわわ」
慌てて布団で股間を隠して、バタバタしてる姿はコントみたいだ。キュヒョンの前だとどうも格好がつかない。これが自分かと思うほど情けなく、格好良く決めたいのにいつも焦ってる姿ばかり見られてしまう。
「いいよ」
「え?ホントに?」
恥ずかしさで耳まで赤くなった俺にとうとう幻聴まで聞こえたのかと思った。
「なんだよ。自分から誘っておいて」
「いやだって、無理だと思ってたから」
「じゃあ、お金取ろうか?同伴てことで」
「いやいやいや、今回はそれ抜きで!純粋にデートを楽しみたい!俺、色々プランを立てるから。どうしよう。すごく嬉しいよ。どこ行きたい?何が食べたい?」
「それをシウォンが考えてくれるんだろ?」
「あ、そっか。そうだよな。うわっ!急に緊張してきた」
「んーっと、そうだな。来週の日曜日なら空いてる」
「分かった」
ああ、神様。俺にこんな幸運が訪れるなんて。
いつもはほとんど笑わないキュヒョンが微笑んでいる。俺が欲しかったのはこんな時間だったんだ。
ただキュヒョンが隣で笑ってくれるだけでこんなにも幸せな気分になれる。
思わずキュヒョンを抱きしめてチュッチュと音が出るくらいおでこや頬にキスをして、ふたりで顔を見合わせて笑った。
幸せだ。
キュヒョンも同じ気持ちだったらいいのに。
つづく。