※私のどっぷり妄想のウォンキュ小説です。ここからは優しい目で見れる方のみお進みください。ウォンキュの意味が分からない方や苦手な方はUターンしてくださいね。尚、お話は全てフィクションです。登場人物の個人名、団体名は、実存する方々とは関係ございません。
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「言ったよね。俺に関わるなって」
「深入りするなとは言われた」
「1から10まで教えなきゃ分かんない?」
「そんなこと言うなよ。一大決心の告白だったんだから」
「俺、男だけど」
「知ってる」
「スト○ッパーだけど」
「知ってる」
「ご贔屓さんと何をしてるか」
「それも分かってる」
「じゃあなんで」
「なんでだろうなー。それが分かったらこうやってキュヒョンを追いかけないし、告白なんてしないだろ」
キュヒョンが困ったような顔をする。『俺も』と、言ってくれるとは思わないが、キュヒョンの記憶の片隅に俺がいてくれたらいいと思う。
「俺は早くまとまったお金がいるからアンタと恋愛ごっこしてる暇なんてないんだけど」
「恋愛ごっこって…じゃあ、ご贔屓さんとやらは真面目に恋愛してるのか?将来のこと考えてるのか?」
「そんなこと、アンタには関係ない」
「そうだな。だったら、俺がご贔屓になるにはどうしたらいい?」
「は?」
「俺はまだ若いし頼りにならないかもしれない。だけど、金はある。身請け?って言うのか?それはいくら出せばいいんだ?」
「本気で言ってんの?」
「冗談では言えないだろ」
「呆れるね。そんな簡単なことじゃないってくらい、分かるだろ?」
「おい、キュヒョンじゃないか」
声を掛けられて我に返った。身なりが整った恰幅のいい中年男性はキュヒョンの知り合いらしい。
恋愛ごっこと言われてついムキになって声を荒げてしまったが、誰かに見られるなんてツイてない。
「どうしたそっちの若いの、知り合いか?珍しくお前が感情むき出しで誰かと話してるから只事じゃないと思って声を掛けたんだが、大丈夫なのか?」
「あ、はい…大丈夫です。あの、オーナー…急なんですが、どこか人目につかない部屋空いてませんか?劇場の関係者やお客様に知られたくないので」
「ワケありか?」
「まぁ、そんなとこです」
このままその場から立ち去ろうと思っていたが、急なキュヒョンの提案に驚いた。シウォンが頭を掻きながら状況を把握できないでいると、それを察したオーナーが「しょうがないな」と言いながら顎で合図をし、訳も分からないままその後に着いて行くことになった。
この男はどうやらスト○ップ劇場のオーナーらしかった。
オーナーの来た道を戻り狭い路地に入って行くと、昔は営業していたであろう何かの店舗や人が住んでいるのか分からない空き家のような長屋が所狭しと並んでいた。
「昔はこの辺も栄えていたんだがな。今はもうみんな店を畳んでどこかに行っちまったか、ひっそりと暮らしているだけだ」
先日キュヒョンに連れて行かれた場所とは正反対で、寂れている印象だ。人家の間は極端に狭く、何年も放置されていると思われるビールケースの空き箱や一斗缶が無造作に転がっている。その路地裏からさらに一筋入ると、この場所にしては小綺麗な平屋の一軒家があった。
「ここが俺の家だ」
「え?オーナーの?」
「俺はこれからオネーちゃんのところに行く約束だからな。今日はお前らが好きに使っていいぞ」
「でも…」
「構わんよ。事情があるのはみんな一緒だ。台所も冷蔵庫の中身も好きにしていい。お湯も風呂もボタンひとつで大丈夫だから」
「お風呂は使いませんよ」
「なんだ遠慮するなよ。あ、ベッド使ったらシーツはクローゼットの中な」
オーナーがお道化ながらウインクをして見せた。
「だから使いませんて」
キュヒョンがオーナーの肩に手を置きながら頭を下げた。
あ…
笑った。
気まずさと照れ臭さもあってか、キュヒョンの笑顔を見たのは初めてだ。
なんだ。こんな顔出来るんじゃないか。
シウォンの胸がチクリと痛んだ。オーナーと話すキュヒョンの表情は柔らかくてリラックスしているように見える。普段のキュヒョンを知らないが、きっと劇場のお姉さんたちと話す時もこんな感じなんだろう。だから噂では弟みたいに可愛がられて誰一人悪く言う人がいないというのも頷けた。
「そうそう、この場所は誰にも言うなよ」
「分かりました。ありがとうございます」
「帰る時に鍵はポストに入れてくれたらそれでいいから」
シウォンが一礼すると、オーナーは云々と頷き、鍵をキュヒョンに渡して足早に去って行ってしまった。
「どうする?」
「どうするって入るしかないだろ。せっかくのオーナーのご厚意なんだから」
「う、うん」
キュヒョンは見た目はふんわりと優しい印象だが、シウォンに対してはどこか冷たく刺々しい感じがしていた。
自分以外の人との接し方を見ていると、キュヒョンは俺のことが嫌いなんじゃないかと思えてくる。なのに好きの感情は収まりそうにもない。なぜ店に連れて行ったり、ここに連れて来たりするのか、寧ろもっと知りたいとさえ思う。
キュヒョンが鍵を開け、申し訳なさそうに入って行く。初めて入る他人の家は不思議な感じがした。玄関を上がると廊下の右側にリビングとダイニングがあり、そこにはテレビとソファーとテーブル、小さな本棚がひとつあるだけで、必要最低限の物しか置かれていなかった。
「キュヒョン…あの、その、ごめん」
「謝るくらいなら時と場所を考えなよ。オーナだったから良かったけど、あんな所で誰かに見られたらあっという間に噂になる」
「そうだよな。俺、自分の事しか考えてなかったな」
キュヒョンは少し呆れたように溜め息をつくとキッチンに向かった。
「そこ、適当に座ってて」
「うん」
ソファーに深く腰を掛けるとシウォンは天井を見上げた。
なんでこんなことになってるんだ…
行く先々でキュヒョンと偶然会うなんて、好意を持たれていなかったら気持ち悪いと思われても仕方がない。どうしてもっと違う形で会うことが出来ないんだろう。
さっきも突然告白した俺をここに連れて来て、本当に嫌ならオーナーに会った時に俺を追い返しても良かったんじゃないのか?それなのに…キュヒョンが何を考えているのかさっぱり分からない。
「シウォナ」
「え?」
「ビールがいい?それとも焼酎?」
「あ、ビールで」
「了解」
え?何だ今の?俺の聞き間違いじゃなかったら、キュヒョンが俺のことをシウォナって呼ばなかったか?
たったその一言で胸の鼓動が早くなって顔がニヤけるなんて我ながら気持ち悪い。そんなことで舞い上がってしまう俺は相当ヤキが回っているとしか思えない。
「はい。瓶のままだけど」
「ありがとう」
「さて、どうしようか」
「え?」
「シウォンは俺をどうしたいの?身請けの話はどこまで進めればいい?」
「え、あ、う…」
幸せな気分は一瞬にして吹き飛び、いきなり現実に引き戻されてしまった。
「怖じ気付いた?」
「違う。そうじゃなくて。そうじゃない…」
恥ずかしい…
名前を呼ばれて一瞬浮かれ、キュヒョンの言動で一喜一憂して。なのにまだどこかで繋がっていたいと思っている。
だけど分からない。どうしていいのか。俺はキュヒョンとどうなりたいのか。勢いで言ってしまったが、身請けなんて本当に出来るのか。
俺は一度だけショーを観に行った客で、ご贔屓でもなければ友達でもない。
なのにあんなことは辞めさせたいと思ってる。
俺がそんなことを言える立場でもないのは分かってるつもりだけど…
本当に、今更ながら痛感する。
遅咲きの恋は厄介だ。
「いるんだよたまに」
「え?」
「俺の事が好きだから辞めさせたいって奴。なんで俺があそこで働いているかも、いくら借金があるかも知らないくせに」
「ごめん…」
「シウォンはそのうちのひとり?」
「…正直、俺は考えが甘かったと思う。キュヒョンの言う通りだ。まずはどうすればいい?」
「どうしたい?」
「俺は…あの劇場で見たキュヒョンがどうしても忘れられない。雷に打たれたように一瞬でキュヒョンに堕ちて、見る者を圧倒する力を持ってると思った。演出も凝っていて素晴らしかったと思う」
「ああ、あの演出はドンヒさんが考えたんだ。あ、ドンヒさんてオーナーのことなんだけどね」
「ドンヒさんて言うのか。あの人が作ったんだ。ひとつの物語を観ているような構成だと思って感心してたんだ。と言っても途中から頭が真っ白になって覚えてないんだけどね」
「残念。そこは覚えていてほしかったな。ドンヒさんはすごいよ。本当ならこんな寂れた田舎の劇場じゃなくて、もっと大きいステージで仕事ができる人なのに、勿体ないと思うことがある」
「オーナーもワケありってやつ?」
「多分ね。じゃないとこの街に居ないだろうし、埋もれるには惜しい才能だけど仕方ないこともある。俺もいつまでここに居られるか分かんないし…」
「そうか…みんな色々抱えてるんだな。俺はキュヒョンにもそう感じるよ。埋もれるには惜しい才能があると思う。キュヒョンの踊りは魅力的で引き込まれて目が離せなくなって、出来ればもう一度見たいと思う。だけど、みんなと一緒にキュヒョンを見るのは嫌だ。周りの奴らがどこを見て興奮しているのか考えただけでおかしくなりそうだ」
「シウォンは純粋というか、素直なんだね」
ほんの数秒、間が開いた。
キュヒョンの伏せた目が悲しそうに微笑んだ気がした。気がしただけで本当かどうかは分からない。次の瞬間にはシウォンの目を真っ直ぐに見た。
「本気でご贔屓になってみる?」
「え?」
「お金ならあるんだろ?俺を独り占めしたいんじゃないの?俺とやりたいんじゃないの?身請けの話は一旦保留にして、試しにやってみて出来なかったらこの話はなかったことにすればいいだけだし。ちょっと高いけどね」
「い、今?」
「まさか。オーナの家ではまずいだろ。準備もあるし」
「準備?」
「何も知らないんだな。それで俺と出来るの?」
「…」
「まあいいや。シウォンがその気になったら連絡して。これ、俺の番号。俺はこれで帰るけど、シウォンの気持ちが固まったら部屋を取るから」
「キュヒョ…」
「何?」
「それでいいのか?」
「何が?望んだのはシウォンだろ?」
違う。そうじゃない。何が違うのか全然分からないけれど、違う気がする。俺は本当にキュヒョンのご贔屓になりたいのか?キュヒョンとやりたいだけなのか?話が飛び過ぎて頭がついていかない。何か大事なことを忘れているような気がする。
ずっと黙っていたからか、キュヒョンはビールを飲み干すと何も言わず鍵を置いて部屋を出て行った。
どれだけ時間が経っただろう。
空き瓶の水滴が乾くまでぼんやりと眺めながら、シウォンは以前キュヒョンに教えてもらった橋の話を思い出していた。
『俺は…今、どっちにいるんだろうって思うよ』
あの時は何も言うことが出来なかったが、今の俺は同じだ。キュヒョンのことも自分のことも宙ぶらりんのままだ。どちらにも渡ることが出来ずただ突っ立っているだけ…
一体俺は何をしているんだ。初めて会った他人の部屋でキュヒョンと現実味のない話をして…
そうだ。ほんの1週間ほど前までは忙しさのあまり恋人も作らず、仕事に明け暮れる毎日を送っていただけの生活だった。仕事は面白かったし、それでいいと思ってた。
なのに、キュヒョンと出会ってから俺の中で何かが弾けて変わった。
どうするつもりだ。今ならまだ引き返せる。
だけど、何度考えても出てくる答えはひとつだけ。
キュヒョンに逢いたい。
つづく。