【ウォンキュ小説】踊り子 6 | むらたま SUPER JUNIOR キュヒョンブログ

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※私のどっぷり妄想のウォンキュ小説です。ここからは優しい目で見れる方のみお進みください。ウォンキュの意味が分からない方や苦手な方はUターンしてくださいね。尚、お話は全てフィクションです。登場人物の個人名、団体名は、実存する方々とは関係ございません。


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シウォンがこの温泉街で過ごすのも今夜だけとなった。
ヒチョルはやっと取れた休みぐらいは家で引きこもりたいと言って早々に帰ってしまい、シウォンはひとり時間を持て余していた。

仕事ならある。しかし後は会社に戻ってからすることのほうが多く、今から帰っても家に着くのは深夜だ。それなら最初の計画通り週末に帰るほうが都合がいい。
ヒチョルと軽く食事を済ませた後、少し早いが初めてここに来た日に行ったスナックへ行ってみることにした。
これからもこの温泉街に何度も足を運ばなければならないし、料理のヒントをくれたお礼にボトルを入れて顔馴染みになっておくのも悪くないからだ。
いつもならヒチョルに任せているが、今回は時間のあるシウォンが行くことになった。

まだ少し夜風が冷たく感じる石畳を歩いているとキュヒョンのことを思い出す。
最初にここを歩いた時はまさかあんな衝撃的な出会いをするとは思っても見なかった。
人を寄せ付けないオーラを出しているのに、どうしても近付きたくなった。
結局スタートラインにも立てなかったけど。

キュヒョンか…
不思議な男だったな。惚れてると気付く前に俺を振った男。
あれが一目惚れと言うのなら、あっという間に恋に落ちて、あっという間に散ったってやつか。

シウォンは遠くからスナックの看板に明かりが点いているのを確認すると、ヒチョルが帰る前に言った一言を思い出した。

「お前みたいに遅咲きの恋って厄介なんだよ」

2時間ほど前ヒチョルが乗る電車の時刻に合わせ、駅で早目の夕食を一緒に取った。
仕事で集中している時はキュヒョンのことを考えなくて済むが、一旦離れてしまえば脳裏をよぎる。何度も溜め息をついているシウォンに気付いたヒチョルが冷麺を食べながら切り出した。

「おい、シウォン。さっきからずっと溜め息ばかりついて俺の話なんて上の空で全然聞いてないだろ」

「え?あ、ごめん。何の話だっけ」

「ここの冷麺の話をしてたんだよ。まぁもういいや。キュヒョンのことを考えるのもいいけど、あまりのぼせ上るなよ」

「のぼせって…うん。側から見たらそうなんだろうな。ごめん。俺、変なんだよ。キュヒョンのことを考えないようにすればするほど考えて、胸が苦しくなって呼吸が出来なくなりそうでつい溜め息が出るんだ」

「ほんとに、これだから遅咲きは」

呆れたようにヒチョルの冷麺を食べる手が止まった。

「おいおい、遅咲きって何だよ。学生の頃から彼女もいたし、それなりに恋愛はしてきたほうだと思うけど」

「そうか?俺から見たらそうは思わないけど。お前、今まで自分から好きになった子っていたのかよ。いつも言い寄られてなんとなく付き合って振られるパターンだっただろ」

「う…言われてみれば…」

「お前みたいに遅咲きの恋って厄介なんだよ。お前はキュヒョンに会ってはじめて恋をしたんだよ」

「は?」

俺が?はじめての、恋?

そういえば…学生の頃から振られても大して落ち込むこともなかったし、ヒチョルの言う通り自分から好きになったことが記憶にない。告白されるのも別れを切り出されるのも全部相手からだった。
なのに今はどうだ。俺の頭の中はキュヒョンでいっぱいだ。自分の気持ちに気付いてからずっと葛藤している。

「悪かったな。俺も少しは責任を感じてるんだよ。あそこに連れてったりしなきゃって…」

「お前は悪くないよ」

「とは言え実際はそうだろ。まさかお前が惚れるとは思ってなかったけど」

「だよな。俺も自分に驚いてる」

「…本当なら応援してやりたいんだよ。でもな、相手が悪すぎる。縁がなかったと思って諦めろ」

「…分かってるよ」

ヒチョルにしては珍しい意見だった。それほど危険な香りがするのは鈍感なシウォンにも分かる。これ以上深みに嵌ると身を滅ぼし兼ねない。

「特に今夜、俺が帰った後あのスナックに行くんだろ?本当なら俺もついて行きたいんだけど」

「一緒に行けばいいじゃないか」

「そうしたいけど、今日はペットを預けてきてないからすぐ帰りたいんだよ」

「そっか。それは心配だな」

「ああ。とにかく劇場だけには行くなよ。忠告したからな」

「行かないよ。もう二度と会うことなんてないよ」

そう言ってヒチョルと駅で別れたが、もう二度とキュヒョンに会えないと思うのも寂しい気がした。数日前まではキュヒョンの態度に腹を立てていたのが嘘みたいだ。
たった数日しか経ってないのに、あまりにも色濃く残っている。今までのシウォンの人生の中で一番衝撃な出会いで失恋だった。


カランカラン…

「いらっしゃいませ」

ドアベルの音色と一緒にハスキーな女の人の声がした。
なのにシウォンの目に飛び込んできたのは声の主ではなく、カウンターに座っていたキュヒョンだった。

「キュヒョ…」

「あら?お知り合い?」

前回来た時は居なかった、少し年配の女性がカウンターの中からシウォンに声を掛けた。

「あ、あの、違っていたらすみません。先日この店に初めて来た時にママが腰を痛めてお休みしてると聞いたのですが」

「ああ、それ私よ。先日は娘が代理でママを務めてくれたんだけど、今日はお休みなの。あの子ったら腰のこと話してたのね。恥ずかしいわ。買い物をしていて腰を痛めた時に助けてくれたのがこちらの彼なのよ」

「そうだったんですか」

「だから今日はお礼に飲みに来てもらったの」

チラっと顔を見たキュヒョンがぺこりとお辞儀をする。シウォンはキュヒョンに吸い寄せられるように隣に立った。

「ここ、いい?」

「どうぞ」

心臓がバクバクする。まさかここでキュヒョンと会うなんて。
シウォンが腰を掛けても顔色一つ変えず、長い指でグラスを傾ける仕草や伏目がちな横顔はやっぱり綺麗で、カランと氷の解ける音までも色気を感じてしまうほどだった。

キュヒョンが今何を考えているのか知りたいと思うのはエゴだろうか。
厄介な奴に会ったと思ってるのかもしれない。
早くここから立ち去りたいと思ってるのかもしれない。
何も言い出せないままいると「同じものでいいかしら?」と、ママがおしぼりとお通しをシウォンに差し出した。

「ああ、それならママの快気祝いと前回娘さんに料理のヒントをもらったお礼にボトルを入れますよ。こちらの彼にも同じものを」

「え?俺は…」

「そう言わずに、ママの快気祝いに一杯だけ付き合ってくれないか?」

「あら、嬉しい。みんなで乾杯しましょ」

「…それじゃあ一杯だけ」

助かった。ママのおかげで会話が出来た。
しかし、何気ないママとの会話の最中もシウォンは動悸が収まらなかった。
どうも右側が緊張する。自分からキュヒョンの隣に座ったものの、何を話していいか分からず変な汗まで出てくる。

「えっと、あの…久…しぶりってほどでもないか。今日、劇場は?」

「俺の出勤は金曜日と土曜日だから。今日は木曜だから休み」

「あ、そっか。じゃあ明日ここに来てたら会えなかったってわけか」

「…」

しまった。と、思った時には遅かった。キュヒョンが怪訝そうな顔をした。それはそうだろう。キュヒョンとしてはこれ以上自分に関わるなと釘を刺した男から会いたかった的なニュアンスをされるのは不本意なはずだ。俺に会うのも嫌だったのかもしれない。なのに意外な質問が返って来た。

「いつまでここに?」

「え?ああ、明日の朝までなんだ。今週は土日も働き詰めだったからね。明日から3日間は休み。さすがに7連勤は疲れたよ」

平静を装って肩をすくめて取り繕ってみたが、頭の中はパニックだ。
まさかキュヒョンから滞在日を聞かれるなんて思ってもみなかった。

「ふぅん。大変だったんだね。俺はもう帰るけど、ごゆっくり。じゃあママ、ご馳走様」

「ええ。またいつでも寄ってね」

「え?ちょ、待てって。俺も一緒に。あ、ママお勘定」

「あら、せっかくボトル入れたのにもう?」

「ええ。また近いうちに顔を出しますから。今度はイケメンの同僚と一緒に来ますよ」

「そう?期待してるわ」

挨拶もそこそこに会計を済ませ、ドアを開けるとキュヒョンはスナックから出た最初の細い路地を曲がるところだった。

「ちょっと、キュヒョン待てって」

慌てて後を追い、声を掛けたがキュヒョンは振り向きもせず隣に並んでも早足でどんどん歩いて行く。

「なんで俺がアンタを待つ理由が?」

確かにそうだ。キュヒョンが俺を待つ理由なんてない。

「言わなかった?足を踏み入れたらいけないって」

「あ…う、ん」

だけど自分の気持ちがモヤモヤしたまま、あんな変な別れ方をしたらどうしても気になってしまう。

「じゃあ、そう言うことで」

「だから待てって」

思わず伸ばした手がキュヒョンの手首を掴んだ。

「まだ何か?」

やっと振り返ったキュヒョンが呆れた表情で溜め息をついた。

「まだ…」

「え?」

「まだ何も!何も始まってない。俺は…俺は君のことが好きだ。君に会って初めて恋をしたんだ。男を好きになったことなんてない。だけど、君のことが気になって頭から離れないんだ。俺はキュヒョンのことが知りたい」

え?
俺、今なんて?

大きな目を丸くさせ、声も出せず体が固まって動けないキュヒョンの腕を掴んだまま、シウォンもまた固まっていた。
それは初めて見たキュヒョンの驚いた表情だった。




つづく。