※私のどっぷり妄想のウォンキュ小説です。ここからは優しい目で見れる方のみお進みください。ウォンキュの意味が分からない方や苦手な方はUターンしてくださいね。尚、お話は全てフィクションです。登場人物の個人名、団体名は、実存する方々とは関係ございません。
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「今日は誰かと一緒だったのか?」
「はい」
「そうか。珍しいな。お前が知り合いを連れて来るなんて」
「偶然道で会ったので」
とくとくとキュヒョンがお酌をしているのは、この部屋を借りているご贔屓だった。
ロマンスグレーの紳士は昔ラグビーをしていただけあって体格がいい。大手建設会社を経営し、今では会長に就任しているらしい。ここの寂れた温泉に来るのは先代の父が建設を請け負っていたからだった。たまたま誘われた接待でキュヒョンに会い、それからこの店を紹介してもらい今に至っていた。
「久しぶりの再会か?」
「いえ…劇場に初めて来てくれたお客さんなんですけど」
「ほぅ、あまり人と関わらないお前が会ったばかりの客と?」
「もうここには来ない方がいいと釘を刺しておきました」
「ハッハッハッ。身の危険でも感じたか?確かに、ここを見せたら大抵の奴は怖気付くだろう。それでもお前に会いたいと言うのなら、相当惚れて周りが見えなくなったか、余程の馬鹿かのどちらかだ。まぁ、私はその両方だけどな」
「ご冗談を。会長のお陰で人並みの生活が出来て、感謝しております」
「それと引き換えに失ったものも多いだろう?」
「いえ…自分で決めたことですから」
キュヒョンは昼間のラフな格好とは違い、本麻の淡い白藍色斜め暈かしの長襦袢にベージュの帯を締め、薄く艶のある透明なグロスを唇に引いていた。
「キュヒョン…お前に何人かご贔屓が付いてるのは知っている。私はお前さえ良ければいつだって身請けする準備は出来ているんだが、考えてみないか?」
「…」
キュヒョンの太腿を這う様に撫で回す会長の手の動きがピタリと止まった。
「まぁ、いい。それはいずれゆっくりと。おかしいな。今日は酔いが早いようだ。キュヒョナ、もう少し近くに」
会長の肩にもたれかかると、待っていたかのようにキュヒョンの腰に手を回し、もう片方の手で隣りの襖を開けた。
唇を重ねながら、キュヒョンは昼間見たシウォンの顔を思い出していた。この部屋を見た時すごく驚いて言葉に詰まり、バツの悪そうな顔をしていた。
どうしてここにシウォンを連れて来て、この部屋を見せたのか分からない。
会長の手がキュヒョンの腰を引き寄せると、襖の閉じていく音がいつもより重く感じたような気がした。
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その後シウォンは仕事に没頭した。キュヒョンのことを考える暇もないくらいと言えば嘘になるが、考えないように仕事を詰め込んだ。そうでもしなければあの襖の向こうの光景が映像となって脳裏に浮かぶからだ。近付いたと思ったら突き放された。シウォンはもうキュヒョンのことを考えたくなかった。
数日後、シウォンが滞在している旅館に仕事のトラブルを処理して戻って来たヒチョルに驚かれたのも無理はない。
「なんだ。すごいな。俺が居なくても良かったんじゃないか?」
部屋に散らかった資料の山は足の踏み場もないほどだ。
「そんなことないって。料理と器はイメージを伝えただけで手付かずだし、酒も決まってない。それはお前に任せたほうがいいだろ?」
「その件だけど、シウォンのおかげでいいアイデアが浮かんだんだ」
ヒチョルはデータと写真の束をテーブルに広げ、早速仕事に取り掛かった。
「料理の大まかなことはシムシェフに全て伝えて任せたのがこれ。大体のイメージはこんな感じかな。酒も地元にこだわって、ワイナリーや酒蔵のリストも手配した。器はセンスのいいイェソンに頼んだから、あとは料理が決まり次第だな。シムシェフをここに連れて来たり、産地を回る計画をしようと思う」
見せられたリストは、もうヒチョルの中で出来上がってるであろうと思われる品揃えで、地味な海藻もアートのような美しさで盛り付けられ、他の食材を使った料理もほぼ完璧に近かった。
「すごいな。相変わらず仕事が早い。イメージよりさらに良くなってる」
「お前ほどじゃないよ。悪かったな。1人で色々やらせて。あとの細かいところは社に持ち帰って手分けするとして、全体のリノベーションを考えないとな」
「そうだな。料理に季節感をたっぷりと盛り込む分、館内は木をふんだんに使おう。部屋はシンプルながらもリラックスできる空間を、この地に根を張るという意味でロビーから見える庭園は竹林を表現して風情ある心地よさを造り上げるのはどうだ?」
「引き算の美学ってやつか。いいな」
「俺はここを会員制の旅館にしたいと思ってる。廃校はカジュアルなホテルにして差別化を図る」
のっている時の仕事は早い。時間が経つのも忘れ、驚くスピードで片付いていく。シウォンはこの時間が好きだった。何もかも忘れて仕事に集中し夢中になれる。
今までは、そうだった。
「どうした?いつもと様子が違うな」
「え?そんなことないだろ」
「いや、何かあっただろ。俺は感がいいんだ」
さすが、ヒチョルは鋭い。
「参ったな。気付かれないようにしてたんだけど」
「何が違うって説明出来ないけど、何となく違和感があるんだよ。何があった?さぁ、吐け」
「ちょ、おまっやめろよ」
ヒチョルがシウォンの背後に回り、抱き着きながら頬をつねって笑いながらも心配そうに尋ねた。
「何があったんだ?」
「…うん。俺もまだ頭がついていかないんだよ」
「キュヒョンか?」
「え?」
キュヒョンの名前を聞いてドキリとした。
「やっぱり」
キュヒョンの名前が出ただけで動揺する自分にシウォンは驚きを隠せなかった。
忘れるどころかキュヒョンのことをますます考えてしまう自分に呆れてしまう。
「なんで分かるんだよ」
「分かるだろ。会社のトラブルでそんな顔はしないし、彼女はもう随分いないだろ?ここには知り合いもいないし、だとしたら最近気になるのはキュヒョンかなって。お前、食いつきすごかったからな」
「食いつきって…俺、そんなに食いついてた?」
「今まで見たことない表情だったことには違いないな。何度か一緒に合コンに行ったけど、そんな顔一度も見たことないからな」
「そっか…」
「好きなのか?」
「え?」
「キュヒョンのこと、気になってるんだろ?」
「俺が?キュヒョンを?」
考えてもみなかった。
好き?
え?
男なのに?
だから気になって仕方なかったのか…
こんなに誰かのことを考えたことも、気にすることをやめたいと思ったこともシウォンにとっては初めてだった。
ずっと、認めたくなかった。男というだけで恋愛対象から外し自分の気持ちにブレーキをかけていた。人を好きになるのに理由なんていらないと今やっと分かった。
ああ、そうか。
俺はキュヒョンが好きなんだ。
「何だよキョトンとした顔して。惚れてるんだろ?」
「…惚れる前に振られたよ」
「は?ツッコミどころ満載なんだけど。好きだって気付いてなかったお前にもビックリだけど、惚れる前に振られたって何だよ。向こうにお前が自分に惚れてるかもしれないと思って、俺は無理だからみたいなこと言われたのか?え?それってどんな状況だよ。いつの間にそんなこと話せるぐらい親密になったんだよ」
「お前…すごいな」
「観察力、洞察力がすごいと言ってくれ」
「いや、俺が男に惚れてもいいんだって」
「そこかよ!」
ヒチョルが居てくれて良かったと思う。ひとりで抱え込んでいたものが少し軽くなった気がする。二人で笑いながらシウォンの表情が和らいだのが分かったのか、ヒチョルはこれ以上深入りするなよと言ってキュヒョンとの間に何があったのか、それ以上のことは聞いてこなかった。こんな関係はすごく助かる。ただ側で見守り、間違えた時は叱ってくれる。シウォンにとって居心地が良く、頼り甲斐があって安心できる男だ。
「ヒチョラ、お前モテるだろ」
「なんだそれ。今頃気付いたのかよ」
つづく。