※私のどっぷり妄想のウォンキュ小説です。ここからは優しい目で見れる方のみお進みください。ウォンキュの意味が分からない方や苦手な方はUターンしてくださいね。尚、お話は全てフィクションです。登場人物の個人名、団体名は、実存する方々とは関係ございません。
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次の日、シウォンは一週間滞在した旅館を後にし家に戻った。
一人暮らしの男が久しぶりに家に戻ってすることと言えば、郵便物のチェックと洗濯、そして観葉植物に水を与えるぐらいだ。
お湯を沸かし、コーヒーを淹れる用意をしながら郵便物に目を通すと結婚式の招待状が2通届いていた。
このタイミングで2組も結婚なんてどんな確率だよ。
宛名を見ると大学時代の友達と会社関係からだった。
そういえば30を過ぎたあたりから親から結婚の話題が多くなった。どこどこの誰々が結婚したとか、誰それが婚活に行ってるとか、最近は見合いの話まで持ってくる。そんな息子は10も年下の、しかも男に現を抜かしてるというのに。親が知ったら卒倒ものだ。
まだどうにもなってないが、きっとどうにかなってしまうのをシウォンはもう分かっていた。
連絡さえしなければ会うこともない。なのにキュヒョンの連絡先を知ってしまった。いつかこの番号にかけてしまう。
本当はすぐにでも連絡を取りたかったが、少し頭を冷やすには時間が必要だ。逆上せあがってキュヒョンに迷惑をかけたくない。
招待状の封も開けず、苦めのコーヒーを飲みながらテレビの電源を入れた。
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「もっと早く連絡が来ると思ってた」
女将がキュヒョンを連れて部屋に入って来た時、シウォンはその姿を見てドキリとした。
優しい色彩で染め上げられた藤色のむじな菊の長襦袢を着崩し、湯上りの火照った頬にはまだ乾ききってない濡れた毛先が艶っぽさを醸し出していた。
女将が一礼して退がると、キュヒョンはシウォンの傍に腰を下ろした。
キュヒョンに会う決心をするまで1ヶ月かかった。受け取った連絡先を捨ててしまえば楽になったかもしれないのに、会いたいと想う気持ちのほうが強かった。
人ひとりが通れるほどしかない小さな藍染めの暖簾がかかった門を、今度は1人で開けることになるとは思っても見なかった展開だ。
シウォンが前回初めてこの店を訪れた部屋とは間取りが逆だったが、中はほぼ同じだった。庭を囲んだ紅い格子のある客室は数室しか無いようだ。
キュヒョンを待っている間、シウォンは酒をたしなみながら庭を眺めていた。
どの客室からも眺められる造りで、四季の移り変わりが分かるようその季節の木々が植えられている。細かく手がかけられた低木は丁寧に刈り込まれ、苔がある人の通るところには白砂利が鮮やかに目を打った。まだ咲き始めの薄いピンクの紫陽花や座敷前の青モミジは見事な枝振りで、地面を覆った苔はビロードのように青く輝いている。日も暮れ始め、これから夜の姿になる庭の表情も見てみたいと思った。
「久しぶりだねキュヒョン。最近仕事が立て込んでいて連絡が遅くなったんだ」
「うん」
「落ち着いてからのほうがゆっくり話せるかと思って必死に片付けて来たよ。あ、先に始めててごめん。どうも緊張して呑まなきゃ正気を保てそうにもなくて」
「御膳は?」
「喉を通らないよ。酒とツマミだけでいっぱいいっぱいだ。夕方前にここに入って気分を落ち着かせようと思って来たのに、逆にどうしていいか分からなくてずっと庭を眺めていたよ」
「もしかしてシウォンて見かけによらず小心者とか?」
「ハハ。どうなんだろうな。キュヒョンの前ではそうなのかもな。普段は緊張なんてしたことないのに、キュヒョンに電話を掛けた時も携帯を持つ手が汗をかいてたし、あれから1ヶ月以上も過ぎていて、なんて言おうか練習したぐらいだ。今もキュヒョンの色っぽい姿を見て心臓が口から飛び出しそうになってる」
「そ、れはどうも。シウォンていつもそうなの?」
「いつもって?」
「恥ずかしいセリフを言えるタイプなのかなと」
「これでも理性を抑えるのに必死なんだよ。それに、好きな人に想いを伝えるのに恥ずかしいもないだろ?」
「ストレートなんだね」
「それは誉め言葉?軽くディスられてるの?」
「両方」
「ハハハ参ったな」
キュヒョンがお酌をすると、グッと近くなる距離にドキリとする。相変わらずぶっきらぼうだけど、少しずつ距離が縮まっていくのも悪くないと思った。
「あ、そうだ。キュヒョンにお土産があったんだ」
「お土産?」
「出張で台湾に行ってたんだよ。はい、これ」
山吹色にレトロな模様の蓮の花と象が描かれた紙袋を渡すと興味を持ったのか、しげしげと見つめていた。
「ありがとう。開けていい?」
「どうぞ」
「て、全く読めないんだけど」
「だよな。この黄色の箱がパイナップルケーキで、白い箱がお茶。この1番大きいのはポット」
「ポット?」
「うん。まずはお茶から開けてみて」
不思議そうに箱を開けるキュヒョンはワクワクしているようで、今までとは全く顔つきが違う。いつも不機嫌そうでどこかアンニュイな雰囲気だったが、話をしていくうちに解れていくような感じがした。
「え?これ、お茶?」
「ビックリしただろ?花茶と言って、お湯を注ぐと中から花が咲くんだ」
「だからポット!」
「正解」
「アハハハハ」
初めてキュヒョンの笑い声を聞いた。俺だけに見せてくれる笑顔だ。
「コーヒーとお茶に詳しい社員がいて、あ、イェソンて言うんだけど、そいつが世界中のカフェを見て回って自分の店を持つのが夢なんだ。今回も台湾に一緒に買い付けに行った時、教えてもらって買って来たんだ。俺も初めて知ったんだけど、この丸い緑の玉が茶葉でこれを透明なポットに入れて…」
「シウォンて…」
「ん?何?」
「ちょっとイメージが変わってきた」
「え?どんなイメージだった?」
「んーーー。強引で自分の思った通りにならないとキレるのかなって」
「アハハ。強引と言うのは当たってる」
「でも本当は人を喜ばせたいと思う気持ちが強い人なんだなって」
「なんだ、やけに株が上がってるな」
「だってそうだろ?仕事も俺のことも、相手のことを考えてる。思ったことを口に出してしまうのは伝えたい気持ちが強いからだし」
そう言いながらキュヒョンがポットにお湯を注いで蓋をすると、茶葉の中からゆっくりと乳白色のジャスミンが花を咲かせた。
「うわ!すごい」
「気に入ってくれた?」
「うん。こんな綺麗なお茶があるなんて初めて知ったよ。ずっと眺めていたくなるね。ありがとう」
「よかった。気に入ってもらえて」
さっきまでの緊張が嘘みたいだった。
美味しいと言いながらお茶を飲むキュヒョンのリラックスした表情だけでシウォンは温かい気持ちになっていた。まるでキュヒョンはこのポットの中に咲いている乳白色の可憐なジャスミンのようだ。ホッと息を吐いたキュヒョンの頬は紅みを帯びて色っぽく、目が合うと柔らかい表情でシウォンに微笑んだ。
「これから線香を焚くけど、匂い大丈夫?」
「え?なんで線香?」
「まだゆっくり話していたいけど…これが消えるまで2時間かかるんだ。昔は芸者さんは線香で時間を計ってたらしいよ。花代(支払い)を時間で換算したり、線香がたちぎれば芸者は帰らなければいけなくなったんだって」
ああ、そうか。
俺はここにキュヒョンと話をしに来たんじゃなかったんだ。
今、ずっとこのままこうしていたいと思った。それでもいい。もっとキュヒョンのことが知りたい。なのに、どんどん艶っぽくなっていくキュヒョンに触れたいと思う欲望に抗えるはずがない。
「この線香はそんな意味があるんだ。なかなか粋だろ?」
「うん。そうだな」
「最近はタイマーをセットすることが多くなったって聞いたけど、俺としては味気ないと思う。少しでも身体に香りが移るのを気にするご贔屓さんもいるから仕方ないんだけどね。でもこの線香はあまり香りが残らないし、風情があると思うんだけどな」
「煙が消えるまでっていうの、そそるな」
「だろ?匂いを気にするなら遊ぶなって言いたいよ。まあ言わないけど」
「アハハ」
「あ、ごめん。俺、つい余計なこと…なんか調子狂うな。シウォンと話してると喋りすぎる気がする」
「キュヒョン…」
「前から自分でも思ってたんだ。シウォンと話すとどうも素が出るみたいで、上手くかわせないと言うか…」
「それは、いいこと?悪いこと?」
「…わかんない」
「俺は、キュヒョンが少しでも心を開いてくれてると思いたい。俺と話す時が素のキュヒョンなら嬉しいし、寧ろそっちのほうがいい」
「…こんな出会いじゃなかったらシウォンと俺、友達になれてたかな。歳は離れてるけど」
マッチを擦るキュヒョンの指先や、火をつけた後線香を立て、縦に手を振る所作は溜息が出そうなほど美しかった。
ああ、今気付いた。
俺ってキュヒョンの手フェチなんだ。以前も長い指を見てどきりとしたことがある。
手を伸ばすとそれに気付いたキュヒョンが手を重ね、指と指が絡まった。
「うん…そうだな。本当にそう思うよ」
仄かに漂う甘い香りが合図だった。
この煙のように恋は儚いものだと思う。もしもキュヒョンと違う出会いをしていたら、俺たちは友達になっていたかもしれない。
いや、友達なんかじゃ物足りない。やっぱり俺はキュヒョンが欲しくなっていたと思う。抱きしめてキスをして、それから…
「キュヒョナ…俺、男は初めてなんだ」
「大丈夫。そんなの心配しなくていいよ。シウォンはどんなプレイが好み?」
「プレイて…」
「一応聞いておかなきゃいけないだろ?」
「…俺はキュヒョンの笑顔が見たい」
「え?」
「こうやって他愛のない、普通の会話をして笑って過ごしたい」
「…俺としたくないの?」
「触れたいよ。すごく」
忘れていた。こんな感情。いや、初めてかもしれない。他人に全てを奪われるような感覚。誰かに心を支配されるなんて思っても見なかった。
だからこんなにも戸惑ってるんだ。
つづく。