高架門で 27 | むらたま SUPER JUNIOR キュヒョンブログ

むらたま SUPER JUNIOR キュヒョンブログ

SUPER JUNIORのキュヒョンと、
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※私のどっぷり妄想のウォンキュ小説です。ここからは優しい目で見れる方のみお進みください。ウォンキュの意味が分からない方や苦手な方はUターンしてくださいね。尚、お話は全てフィクションです。登場人物の個人名、団体名は、実存する方々とは関係ございません。




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「…こんな時に電話って」

「出たほうがいいんじゃない?家の人かもしれないし」

「いや、リョウガからだ。もしもし?」

シウォンが離れるといきなり現実に戻された気がした。慌てて涙を拭い、背を向けるシウォンを見て急に切なくなる。抱きつきたい衝動を抑え伸ばした手が止まった。

「あ、シウォナ〜?何やってんの〜?遅いから心配したじゃん!みんな待ちくたびれてるんだけどー」

「悪い。生徒会室に鍵かかってるの忘れて往復してたらこんな時間になった」

「もう!待ってるから慌てないで急いで来てよね」

「どっちだよ」

電話の主はキム・リョウクだ。シウォンは彼には頭が上がらないらしい。
だけど携帯の番号をリョウクは知っていて、自分は知らないんだと思うと少し複雑な気持ちになる。電話を切って振り向いたシウォンが少しバツの悪い顔をする。

「シウォン、そろそろ行かないと」

「でも…」

「これ以上待たせたらみんなに悪いよ」

「うん…なんか…えっと、キュヒョナ怒ってる?」

「別に」

「別にって明らかに怒…ってるよね?俺、何か余計なこと言ったとか?」

「…携帯、持ってないんじゃなかったかなって」

「あ、これは新しい携帯で、前のは本当に親に取り上げられたんだ。これも親から与えられた物で。今日は久しぶりに学校に来て、リョウガにはさっき教えたばかりなんだよ。…えっとちょっと待って。…はい」

シウォンが制服の内ポケットからカードケースを取り出し、手渡されたのは名刺だった。

「内緒な。一応いつも持ち歩くようにしてるんだけど、まだ誰にも言ってないんだ。もちろんリョウガにも。もう少し形になってからキュヒョンに伝えようと思ってたから」

「え?これって…」

「卒業式が終わったら高架門で待ってる」

「え?」

「今はまだ連絡出来ないけど、卒業式の日は親の監視もゆるくなってると思うから、その時ゆっくり話そう」

頭がついていかない。どういう事?シウォンが代表?この名刺の肩書きって一体…
そういえば聞いてない。シウォンのやりたい事って…

訳が分からないままシウォンが教室から出て行く姿を呆然としながらただ見送るしかなった。



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あれからシウォンに連絡を取る事も出来ず、名刺に書かれた会社名をネットで検索してもヒットする事はなかった。

デジタルアートレンタル
『CREA』
代表チェ・シウォン

これがシウォンの肩書きだった。
アドレスも番号も書かれていない。
本当にシウォンは卒業式の後高架門に来るのか、これは一体何なのか、何を話すのか、気になることが多過ぎて頭がパンクしそうだった。

今日、卒業式を迎えるまで少なからず不安な日を過ごした。
よく晴れた穏やかなこの日、2月にしては珍しいくらい暖かな日差しが降り注ぎ、生徒達や父兄は思い思いに写真を撮りあっていた。
花束を持った卒業生を見ると自分の頃を思い出す。まだ卒業してからそんなに経っていないのに、もうずっと昔のことのようだ。
子供と大人の境界線は社会人になった時から始まるのか、学校を卒業したらなのか、年齢なのか、自分の意識の問題なのか分からないが大人に卒業はない。
キュヒョンは美術室の窓から見える生徒達をぼんやり眺めながら大きなため息をついた。

「やっぱりここにいた」

「え?」

振り向くと帰ったとばかり思っていたシウォンが笑顔で入って来た。

「少しの間だったけど、美術部員だったから。はい」

「え?な、何?なんで?」

「先生お疲れ様。学校辞めるって聞いたから」

「ああ…」

白と青を基調にアレンジメントされた花束が綺麗だった。

「こんな時じゃないと花を贈る機会ないし、どうしても渡したかったんだ」

「あ、りがと。でも、これどうやって?」

「ネットで予約して校門の近くに宅配してもらった。親にお世話になった先生に渡したいって言って取りに行ってもらって」

「え?それって…大丈夫だった?何か勘ぐられたりしなかった?」

「それが何も言ってこなくて逆に拍子抜けだったよ。あの人達が何を考えてるか分からないけど、俺たちの事がバレていても結果を出せばいいのかなと最近思ってる」

「でも、そんな簡単には…」

「まあね。この先どうなるか分からないけど」

そう言ってシウォンは美術室の中を歩き始めた。シウォンの横顔は窓際の棚に並べられた彫刻のように整っている。時々この子はどこかの国の王子とか、ローマ時代からタイムスリップしてきたとか、本の世界から抜け出してきたんじゃないかと思わせるほどで、現実離れした容姿は類い稀な美しさだった。そもそも本当にここに存在しているのかと疑いたくなるぐらいだ。
それだけ惹きつける魅力ががシウォンにはあった。

「短い期間しかいなかった部員だったけど、俺、ここで絵を描くのが好きだったな。窓から見える景色も、少し薄暗い場所に夕日が差し込むオレンジの色が綺麗でさ」

「うん。僕も好きだったよ」

シウォンや他の部員達に絵を教えるのは本当に楽しかった。絵の具の匂いも生徒達の真剣な表情も笑顔も、ここで過ごした日々はかけがえのないものだった。

「もっとここで一緒にいて話したいけど、人の目もあるし。後で高架門で待ってるから。今から友達と会って16時ぐらいに一度抜け出してくる」

「そんな大変だろ?また日を改めてのほうがいいんじゃ?」

「…俺には時間が今日しかないから。じゃあ、後で」

「シウォ…」

急いで美術室から出て行くシウォンに廊下で話しかける聞き覚えのある声が聞こえた。

「おお!シウォナもここに来てたんだ」

「そう。先生に挨拶に」

「だよなー。じゃあ、また会場で」

「ああ、後でな」

ひょこっとドアから顔を出して入って来たのはドンへだった。

「先生、お疲れ様でした」

「ドンへこそ、卒業おめでとう」

にこにこと人懐っこい笑顔で本当に嬉しそうに笑うドンヘは、さっきまでの複雑なキュヒョンの気持ちを和ませてくれた。

「これ、どうしても今日渡したくて。先生に一番最初に見てもらいたかったんだ」

少し恥ずかしそうに渡されたのはA4サイズの封筒で、封はされてないかった。

「え?何?開けていいの?」

「ぜひ」

何か分からないまま封筒の中を見ると、そこには一枚のモノクロの写真が入っていた。

「え?これって…」

「うん。シウォンと先生。ずっと前に校舎を歩きながら被写体を探してたんだけど、たまたまそこの庭を横切った時、その窓から2人が見えて。絵を教えてる先生とシウォンがすごく楽しそうで思わずシャッターを押してしまったというか。許可なく黙って撮ってしまったからなかなか言い出せなくて。すみませ…え?せ、先生?」

写真の中の2人はただ幸せそうだった。古い窓枠が額装のようで、美術室の中でシウォンがパネルの前に座りキュヒョンが後ろに立ち2人で顔を見合わせて楽しそうに笑っていた。
夢を語り合った懐かしい日々が蘇ってくる。
絵を描くことが好きで、絵を教えることが好きな僕たちが一緒にいることが出来た僅かな時間。
一緒にコンサバターを夢見て、寝る間も惜しんで資料を集めたりもした。
廊下や階段ですれ違ったこと、美術室の匂い、月明かりの教室、夜のプールの気持ち良さ、シウォンを探して校舎を走った事もあった。
溢れる涙を止めることも出来ず、写真を抱きしめて泣いた。

「ドンへ…ありがとう。ありがとう。この教室で生徒に教えることが出来て、みんなと過ごせて本当に良かったと思ってる」

「先生…」

「こうやってドンへにいつも救われてたの、知らないだろ?」

「え?俺そんな大したことは…」

「僕には充分なくらいだよ」

立ち止まっても、振り返っても、また歩き出せる。何度だって。
見上げると、きらりと光る窓の外に羽ばたく一羽の鳥が見えた。



つづく。