※私のどっぷり妄想のウォンキュ小説です。ここからは優しい目で見れる方のみお進みください。ウォンキュの意味が分からない方や苦手な方はUターンしてくださいね。尚、お話は全てフィクションです。登場人物の個人名、団体名は、実存する方々とは関係ございません。
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重い沈黙の後、先に話し始めたのはシウォンからだった。
「ごめん…」
「何が?」
「色々と…」
薄暗い教室に月だけの明かりで輪郭が見える。青い色に映るシウォンは幻想的だ。
僕たちの周りにはいつも月があった。太陽の下で二人で歩くのはあまりにも不自然で、でもシウォンのエクボができる笑顔にいつも救われた。
シウォンは僕の太陽だった。
だけど眩し過ぎる笑顔が嬉しくて辛かった。
膝を抱えて座っているシウォンの横顔に閉じられた瞼から睫毛が少し揺れ、言い出せずに我慢をしているのか、眉間にしわを寄せていた。その先を聞きたいような聞きたくないような、でも今聞かないともう聞けないような気がした。
「月…」
「ん?」
「俺…ずっとヒョクチェとドンへみたいな関係に憧れていたんだ」
窓から見える月を見上げ、シウォンが語り出した。
「うん…」
「いつも太陽のように明るくて周りを温かい気持ちにしてくれるドンへと、その隣にはいつも見守ってる月のようなヒョクチェが居て、そんな二人が羨ましかった。シムさんとキュヒョンがそうだったように、俺は羨ましくて羨ましくて仕方なくて…俺はキュヒョンの太陽になりたかった」
「シウォ…」
「キュヒョナ、月不見(つきみず)っていう名前の池知ってる?」
「え?池?月不見月(つきみずづき)じゃなくて?」
「うん。日本に月が見えない池があるんだって。なんでかって言うと、池の周りが大きい岩と樹木や藤の花に囲まれてるから池に月が容易に映らないらしいんだけど」
「へぇ…」
「キュヒョナみたいだと思ってた」
「僕?」
「池に映れば手に取ってすくえるのに、いつも自分を隠して他人を寄せ付けないところが…月も裏側を見せないって言うし。初めは俺と会っている時も自信がなさそうで…俺との関係を悩んでるのも分かってた。だけど何をそんなに抱えてるのか不思議だった。だから俺は殻に閉じこもってるキュヒョナを笑わせたくて、悩みがあるなら言ってしまえばスッキリするんじゃないかってずっと考えてた」
シウォンの言葉ひとつひとつが胸のつかえを取り除いていく。自信がないのは自分の不甲斐なさで、他人を寄せ付けなかったのは同性しか好きになれそうもない事を知られたくなかったからだ。シウォンはそんな僕の中にどんどん入ってきて、救い出そうとしてくれていた。
「また難しい顔してる。俺、キュヒョナの上がった口角が好きだよ」
どうしてシウォンは想いを真っすぐ伝えられるんだろう。暗がりの中でも赤い顔を見られてるような気がした。ずっと会っていなかったからか、シウォンの言動ひとつひとつがくすぐったい。今まで何度も大人っぽくなったと思ったことはあったが、明らかに違う。会えない数ヶ月に何かあったとしか思えないほどだ。
「俺も少しは大人になったかなと思ってる。キュヒョナと会って初めて嘘を覚えたし」
「え?それ、僕のせい?」
「うん。キュヒョナだよ、俺をこんな風にしたの」
身体がほんの一瞬強張った。シウォンの射抜くような眼差しに身体中の血液が熱くなり、眠っていた感情が溢れ出しそうになって息を止めた。
近付いてくる次の行為を期待してなかったわけじゃない。
さっきシウォンの背中に回した手の感触がまだ残ってる。シウォンの手が頬に触れそうになった時、唾を飲み込んだ音が聞こえたのか、緊張が伝わったのか、距離が近付いたところでシウォンが躊躇したのが分かった。
目を逸らし、行き場の失った手をキュヒョンの肩にポンと置くと、それ以上求めてくることはなかった。
「親にもたくさん嘘をついたし、キュヒョンにも隠してた事がある。俺さ、シムさんと会ってたんだ」
「あ、うん…」
「ずっと連絡出来なかったのは…俺、キュヒョンのアパートに行く途中で家に連れ戻されて軟禁されてたんだ」
「うん。知ってる」
「え?」
「イェソンさんから聞いた」
「イェソン?」
「コンビニの店員さんなんだけど」
「ああ!もしかして黒髮で切れ長の目をした線の細い男の人?」
「うん。そう」
「何でその人が?」
「見てたんだって。シウォンが連れ去られるの」
「ええ?」
「警察を呼ぼうかと思ったらしいけど、三人いた男の人の一人がシウォンの名まえを呼んだら急に大人しくなって車に乗って行ったから通報しなかったって。以前から僕たちが一緒に居るのを知ってたんだ。イェソンさんの弟が僕たちのことを見かけて同じ学校だから気になって相談してたらしくて。でもイェソンさんは弟が誰かに話すことで変な噂が立ったら嫌だろ?って口止めしてたみたいで」
「そんなことが…」
「学校に休学するって連絡がきてたし、もしかしたら連絡出来ないのも携帯を取り上げられたかなと思ってた」
「うん。まさにその通りで。参ったよ。書斎に入れられてそこで過ごしてトイレと風呂以外は出してもらえなくて、いつの時代だよっつーね」
「はは…大変だったんだ」
「でもおかげで俺のやりたい事がハッキリした」
「やりたい事?」
「うん。軟禁されてた間ずっと考えていたんだ。シムさんと初めて図書館の近くで会った時の俺は本当に自信のない子供だったと思う。キュヒョンがシムさんのところに行ってしまうんじゃないかってどうしようもない不安感に襲われて、少しでもキュヒョンのことを知りたくて近付きたくて…キュヒョンがどうしてコンサバターを諦めたのか、留学を途中で辞めたのか知りたくてシムさんに会いに行った。でも、聞く相手間違ってるよな。それに気付いて聞くことをやめたんだけど」
「…そうだったんだ」
「でも安心していいから。シムさんはコンサバターのことも留学のことも話さなかったよ。あの人はすごいよ。本当に格好良い。やりたいことが見つかったのも行動に移せたのもあの人のおかげなんだ」
それからシウォンはチャンミンと会っていた日のことを話した。
図書館へ続く道の階段ですれ違った時にチャンミンから名刺をもらったこと。
ソルロンタンの店で待ち合わせしたこと。
チャンミンが僕たち二人は恋人同士だと分かっていたこと。
キュヒョンとチャンミンが学生の頃は毎日のように一緒にいたこと。
親友の恋人が高校生だと知って心配していたこと。
「最後に叱咤されてエールを送られたよ。お前が幸せにしてやるんだろ?って」
「え?チャンミンがそんなことを?」
「ずっと言えなくて…ごめん」
「ううん。チャンミンが僕のことをそんな風に思っていてくれてたなんて知らなかった」
図書館の前で会ったチャンミンは全然変わっていなかった。学生の頃から真っ直ぐで格好良くて自分の信念を曲げず、常に憧れの存在だ。寧ろ変わったのは僕の方だった。それも悪い方に。上手くいかないのを周りのせいにして苛立ちばかり募っていた。チャンミンはいつでも前を向いて進んでいる。あの時の気持ちも色褪せて前に進めず、時間が止まったままなのは僕だけだ。
「シムさんは本当にキュヒョンのことを心配していたよ。もし、名刺をまだ持っていたら連絡して欲しいって言ってた」
「うん。ありがと…落ち着いたら連絡してみようと思う」
「きっと喜ぶよ」
シウォンの安心した一言に違和感を感じたが、キュヒョンにはそれがなんだか分からず話を進めた。
「…チャンミンにも話してないんだ。僕がどうしてコンサバターを諦めて留学を辞めたのか。気になってるだろうなとは思ってたけど、思い出したくないと言うか」
「いいんだよキュヒョナ。思い出したくないのを無理に思い出す必要はないよ。俺が気にしすぎたんだ」
「ううん大丈夫。ずっと引きずったままたったから…」
この暗い教室よりもっと暗く深い闇の『あの日』を思い出す。外は青々とした空と白い雲。少し汗ばむくらいの気温に時折吹く風が木々の甘い匂いを運んで夏が近付ていた。
「僕…襲われたんだ」
「え?」
「未遂だったけどね」
「キュヒョ…」
「留学先でシェアハウスを借りてたんだ。7人いて全員男だし、どこか安心してた。その中に偶然同じ大学で学部も一緒な奴がいて、すぐ仲良くなったんだよね。名前はジフと言って、そいつと毎日のように大学に行って帰って来てた。シェアハウスはいつも英語、イタリア語、韓国語、日本語が飛び交って、みんな身振り手振り話してワイワイして楽しかったんだ。でも…」
ある日、事件が起きた。
つづく。