高架門で 16 | むらたま SUPER JUNIOR キュヒョンブログ

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少し、いやかなり日が空いてしまいました。
↓前回の話はこちらをポチ。

『高架門で 15』







この店に来る途中、俺にはずっと離れないキュヒョンの言葉があった。

外は冷んやりと寒く、道路は所々凍結している。
コートの襟を立て、耳元を隠したがそれだけで凌げる程甘くなかった。
ふと空を見上げると大きな月がこちらを見ていた。
月を見るとヒョクチェを思い出す。
いつも静かに周りを見守るヒョクチェ。
その隣には決まってドンへが居た。
人懐っこくて明るくて、太陽のように眩しい笑顔で話しかけてくる。
お互い空気のような存在で一緒にいるのが当たり前で。
まるで家族みたいに。
高校を卒業したらみんなバラバラになる。
ヒョクチェは推薦が決まった大学へ行き、ドンへは美術の大学に進む予定だ。
離れても俺らは大丈夫だと笑って言う二人が羨ましかった。
俺とキュヒョンは…
離れたらきっとダメになる。
危うい関係の中で成り立っている俺たちに、未来の約束など出来るはずがない。
それでも一緒にいたいと願い、いつかふたりで暮らせたらと夢を描く。
俺はキュヒョンとあいつらみたいになりたかった。







アパートから出て、一つ目の角を曲がった所で男に電話をした。
ひとつの賭けだった。
電話に出なかったらこのまま帰る。
もしも出た時は…

『もしもし?』

アイツの声だった。
聞き覚えのある、夕方に会ったあの男の声。

『あの、チェ・シウォンです。図書館の前の階段で会った…。シム・チャンミンさんですか?』

男は今から30分後にソルロンタンの店で会おうと言った。
夕方階段で別れた時にキュヒョンに分からないようにそっと渡された名刺。
男は俺が電話をかけてくるのを分かっていたようだった。
この男に会うまでは俺たちは幸せだった。
一緒に朝まで過ごし、遅めのランチを二人で一緒に作ることがこんなにも楽しくて嬉しいなんて今までの自分からは想像もつかない。
やっと想いが通じた俺たちに唯一許された時間。
一秒も離れたくない大切な時間はあっという間に過ぎて行く。
高台の図書館へ本を返しに行く途中、教会から聞こえた讃美歌を優しく微笑みながら聞くキュヒョンの横顔が綺麗で見惚れてしまった。
自分の口から自然に出た言葉はプロポーズじみたセリフ。

「二人でタキシードかな…とか。」

耳まで真っ赤になったキュヒョンが可愛くて、呆れたように照れながらも少し嬉しそうに階段を一段ずつ飛ばしながら上って行くキュヒョンが愛しくてしょうがなかった。
俺はあんな幸せそうに微笑んだキュヒョンを見た事が無かった。
このまま時間が止まってしまえばいい。
俺はあの時の風景を忘れない。
キュヒョンのはにかんだ顔。
教会の尖塔につけられた風見鶏。
子供達の賛美歌。
緩やかにカーブを描く階段。
そこから見える石畳の路地裏。
春が待ち遠しい一本だけある大きな桜の木。
振り返ると高架門。
照れながら二人で早歩きで階段を上った。


男が指定したソルロンタンの店はここから歩いて15分程かかる。
どんどん冷たくなる外気が肌に当たって痛い。このままでは耳と鼻がちぎれそうだ。
マフラーを買おうと交差点の角にあるコンビニに寄った。
一歩店内に入ると暖かく、自動ドアの横にはマフラーや手袋など防寒グッズが並べられていた。

そこから見える大きな月。
キュヒョンがあの男、チャンミンと自分はヒョクチェとドンへみたいだと言った。
きっとキュヒョンには分からない。
その時俺がどんな気持ちだったか。
幼い頃から何不自由なく暮らし、親の敷いたレールに沿って歩いて来た。
放課後は友達と遊ぶ暇もなくほとんど学校と塾と家の往復の毎日だった。
ヒョクチェとドンへも同じような環境だったが、二人はそれを楽しんでいた。
悲しいことも辛いことも乗り越えて笑顔に変えていく強い二人の絆をいつも感じていた。
きっとキュヒョンとあの男もそんな感じだったんだろう。
俺の中で黒い感情が自分の中で渦を巻く。
苛立つ気持ちを押さえ適当にマフラーを選びレジに持って行った。
さすがにこの時間の客は俺一人みたいだ。

「いらっしゃいませ。」

「あの、すぐ使いたいのでタグを取ってもらえますか?」

「かしこまりました。」

店員がバーコードを読み取りタグをハサミで切り取って俺に見せた。

「こちらでよろしいですか?」

「はい。ありがとうございます。」

マフラーを渡された時、店員と目が合った。いや、見られていたと言うべきか。

「君、学生だろ?」

「え?」

サラっとした黒髮に切れ長の目をした線の細い男。
名札を見ると『イェソン』と書いてある。本名なのか分からないけど。

「最初私服だから分からなかったけど、最近昼間に学生服でよく来るじゃない。」

「あ、友達がこの辺に住んでて。」

「ふうん。」

「あまり遅い時間に出歩いて、親に心配かけるなよ?」

「はあ…」

ぺこりとお辞儀をしレジから離れると店員はにっこり微笑んだ。
この時の俺は知る由もなかった。
なぜ俺に店員がこんな事を言ったのか。
なぜ俺に話しかけたのか。

「ありがとうございました。」

その場でマフラーを巻き、違和感を感じながらもコンビニを後にした。
目の前の横断歩道を渡り夕方通った道を急ぐ。
胸がチクチク痛み出す。
キュヒョンに黙って出てきた罪悪感と、これから会う男と何を話せばいいのか。
俺はあの男と会って何がしたいんだろう。どうしたいんだろう。
何か聞いたところで何もならないのは分かっているのに。
自分がしている事は子供だと充分過ぎるほど分かっていた。
でも、知りたかった。
キュヒョンの事を知って、自分がそこに居なかった時間を埋めたかった。
そんな事、出来るはずないのに。


土手まで来ると風がいっそう冷たく感じる。
ピウッと風が吹くとキュヒョンと同じシャンプーの香りが自分から漂った。
今日のキュヒョンは儚く脆そうで触れると壊れてしまいそうだった。
なのに抱かずにはいられなかった。

キュヒョンの柔らかい唇から甘い吐息が漏れると俺の理性はあっという間に崩れ落ちた。
これ以上ないくらいに身体中、手の指から足の先まで優しくついばむようにキスを落とした。
耳元で息をフッと吹きかけるとブルッと震え、目をキュッと閉じる。
口をへの字にしてゆっくりと目を開き上目遣いで俺を見るキュヒョンがたまらなく好きだ。
指で唇をなぞるとそれに応えるかのように舌を絡めてくる。
猫のように指を舐めるキュヒョンは妖艶で目眩がするほど美しい。
それだけで達してしまいそうになる俺をキュヒョンが目で誘う。
優しく抱きたい自分と乱暴に抱きたい自分。
あの男の顔がチラついて、キュヒョンをめちゃくちゃにしたかった。
俺の腕の中で啼かせて籠の中の鳥のように、お前は俺のものだと言いたかった。
愛しくて哀しくて泣きたくなる自分を抑え、息が出来ないくらいに唇を重ねる。
キュヒョンから蜜がぷつぷつと溢れ出し、俺自身の蜜と重なった。
ゆっくりと時間をかけて愛してゆく。
シーツを掴むキュヒョンの手に自分の手を重ね深くついた。
部屋には二人の息遣いと水音。
キュヒョンの柔らかい髪が汗ばんだ額に貼り付き、濡れた毛先が色気を増す。
憂いを帯びたキュヒョンの横顔は桜色に頬を染め、こめかみから流れる汗が首筋を伝う。
とろんとした瞳が潤み、しまりがなくなり薄く開いたままの唇は淫らで綺麗だった。
キュヒョンの顎が空を仰ぐ度、開いた口から呪文のように繰り返される言葉。

「シウォナ・・・もっと・・・」

ねだる声を唇で塞ぎ、猛った欲望をキュヒョンの中で掻き混ぜ体ごと揺さぶった。
愛しくて愛しくて壊したい。
内腿がヒクヒク痙攣し背中を大きくしならせる腕の中の愛しい人をどうすればいいのか。
抱く度にトロトロに開いて俺を受け入れるこの人を、
恐ろしいまでの色香を放ち誘ってくるこの人をこれ以上傷つけないようにどうすればいいのか。
溶けそうな程おかしくなるぐらいに気持ちのいい柔らかい身体が俺を包み、くらくらするほどの甘い香りを放つ。
キュヒョンの匂いだ。
寝ても寝ても醒めない夢の中にいるように溺れていく。


「どうかした?」

ハッと顔を上げて周りを見渡す。

「すみませ~ん。5人だけど座れる?」
「こっち2人前ね。」
「あ、水くださ~い。」

ガヤガヤと周りの騒がしい声や音が聞こえ出した。
そうだ。
ここはソムロンタンの店で俺は目の前のシム・チャンミンと一緒にいる。

「いえ…。」

汗ばんだ手を握りしめ、一気に水を飲み干しテーブルに置くと男は俺をジッと見ていた。





「どこから話そうか。」

俺を見ながらネクタイを緩める仕草が大人の男に見えて、
俺は…この男に嫉妬した。

俺は…
ただの子供だった。






つづく。






[画像はお借りしています。ありがとうございます。]