※ウォンキュ小説です。
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<シウォンside>
「待ってたよ。」
キュヒョンのアパートから図書館へ向かう階段の手前に路地裏がある。
奥へ進んで行くと一軒だけあるソルロンタンの店。
24時間営業のこの店は、仕事帰りのサラリーマンや飲んだ後の〆にやって来る若者がひっきりなしだった。店内に入ると店主が釜でスープを煮込む姿が見えた。奥の一角のテーブルに一人の男が座っている。
「絶対会いに来ると思ってたよ。」
男は綺麗な顔をしていた。
大きな黒い瞳ににすっと通った鼻立ち。
細身の長身で見た目は女性よりも綺麗なんじゃないかと見紛うほどで、
仕立ての良いスーツをさらっと着こなした彼はまるでモデルの様だ。
「大丈夫だったんですか?こんな時間に。」
時計はすでに午前2時を回ったところだ。
「君こそ学生なのに。俺はこれから早朝のフライトで日本に出張だから。」
「そうなんですか。僕も…大丈夫です。」
男の方がまだ学生のような幼い顔立ちをしていた。
夕方、図書館へ続く階段でこの目の前の男に会った。キュヒョンの学生時代の友人でシム・チャンミンと言う。その時はトレーナーにパーカーを羽織りジーンズという格好で気付かなかったが、キュヒョンと同じ匂いがした。
いつも服には無頓着なのに、決める時はキメて周りを驚かす。キュヒョンは普段は学校でもシャツにベストやシャツにセーターで地味な色合いを好む。家ではスウェットが定番だ。だが、学校行事ともなれば黒いスーツを着こなし、男度が増す。そのギャップがたまらない。
「…君から電話をもらった時、今しかないと思って。
というか、今日かかってこなかったら会う事はなかったかもな。
まあ、立ってないでかけなよ。」
「どうも。」
こんな時間だというのに店は賑わっていた。
ソルロンタンしかないこの店では席に着くと店主が何も言わず壺に入ったキムチとソルロンタンを持ってくる。
昼間から何も食べていない事に気付き、スープを一口飲むと胃に優しく染み渡った。
キュヒョンは大丈夫だろうか。
俺がいないことに気付き不安じゃないだろうか。
せめて自分が帰るまでは眠っていてほしい。
アパートを出る時、何も言わず出て来た。
目の前のこの男と会ってると知ったらどう思うだろうか。
「あの…なんで俺…、僕から電話がかかって来ると思ったんですか?」
「え?だって君、キュヒョンの恋人だろ?」
ゴフッとソルロンタンを吹き出しそうになった。
慌てて手で押さえ、事無きを得たがいきなり確信を突かれスープが器官に入り鼻の奥がツンとなる。むせながら水を一口飲んでも鼻がムズムズした。
「ちょ、大丈夫?」
「大丈夫です。」
男が出したティッシュを貰い鼻をかんだ。なんだか自分が見っともなく、情けない様に感じる。大人の余裕なのだろうか?この男の前では格好つけてもダメだと本能的に分かった。
「で、どうなの?違った?」
「いえ、まあ、合ってますけど。」
「だろ?」
「初めて人に言いましたよ。」
「ハハ。だろうね。」
男はひとつ溜め息をつくと深く椅子に腰かけた。
「キュヒョンに名刺を渡したのは、君から連絡が欲しかったからだよ。」
「え?」
「俺らの学生時代のこと聞いた?」
「ええ。まぁ少し・・・。」
「あ、ここのキムチが美味しいんだよ。食べた事ある?」
「いえ。初めて来ました。一度来てみたいとは思ってたんですが。」
「そっか。ここのキムチはさ、ちゃんと毎年キムジャン(キムチ漬け)を行ってるんだよ。ちょうど一週間ほど前に仕込が終わったんじゃないかな?その間店も休むし。だから今週は余計に混んでるのかもな。」
「そうだったんですか。キュヒョンもここのキムチが美味しいって言ってました。だからずっと来たかったんです。まさかアナタと一番最初に来ると思わなかったですけど。」
「クックックックッ。それは悪い事したなぁ。」
肩を震わせて片手を口元に当て笑う姿はやんちゃな子供の様でそんなところもキュヒョンとよく似ていた。
「フフ。君にならアイツを….キュヒョンを任せられるかな。」
「え?」
首を斜めに傾けジッと見つめられると一瞬ドキッとする。
この男はキュヒョンとは違うタイプの綺麗さだ。いつもキュヒョンを見て可愛いとか綺麗だとか思っているが、この男も周りが放っておかないほど惹きつける魅力を持っている。
「君は素直だね。純粋と言うか・・・」
「何ですか急に。」
「普通はさ、初めて会った相手には警戒して自分の事は話さないものだし、ましてやキュヒョンとの事なんて隠そうとするのが普通だろ?しかも俺の話が飛びまくってもちゃんと受け止めて答える事が出来る。」
「…それは夕方あなたに会ってキュヒョナの学生時代の友人と分かってたし。」
「うん。」
「正直良い気はしないですよ。二人の過去に嫉妬さえします。」
「まぁ、恋人なら気にはなるだろうね。」
男は焼酎をグラスにとぷとぷと注いでいく。
その姿はまるでワインを注ぐキュヒョンのようだ。
キュヒョンはワインが良く似合う。ソファーで本を読みながら俺の作ったオムレツで一杯飲むのが至福の時だと言っていた。この男もまたワインが似合いそうだった。どうしてだろう?さっきからこの男の言動ひとつひとつがキュヒョンと重なる。
「何?」
「いえ…あなたもワインが似合いそうだなって。」
「フッ。キュヒョナのせいかな?」
「キュヒョンの?」
「うん。アイツ、俺にワインをプレゼントしてくれた事があったんだよ。お祝いなんだけどさ、留学先で美味しいワインに出逢ってから夢中になったらしくて。もらったワインは飲んだらビックリするほど美味しかったよ。俺に合うワインを選んだとか言ってたな。それから俺も飲むようになったんだけど、嬉しかったよ。俺の為に探してくれたって事がさ。アイツ、のめり込むタイプだし、すごく一生懸命に探してくれたんだと思うと可愛くて。」
「可愛い?」
店は大勢の客で賑わっているはずはのに、周りの声や音が聞こえない。
まるで男と二人しかいないような、そんな緊張感が走った。
手にじんわり汗が滲む。
「可愛いよ。今も昔も。」
つづく。
[画像はお借りしています。ありがとうございます。]