こんにちは。役者で出させていただく林俊輝です。
今回、気まぐれに(ブラック)ショートショートを書きました。ちょっとだけ本編と関連しているようなしていないような(していません)。稚拙でつまらないと思いますがお時間ありましたら・・・
『真剣ゼミ』
僕は真剣ゼミの漫画の主人公だ。
実際主人公だと「お声」がかかったわけではない。しかし、中学生の頃から自分は真剣ゼミの漫画の主人公なのだと自覚し始めた。
それは、中学生のときに勉強も部活も全く両立できなかった頃から始まった。中学校に入ったときから、勉強のレベルは格段にあがり、授業に全くついていけなくなった。部活のテニスも同級生の友達に大きく差をつけられていた(しかも頭がいいときたもんだ!)。
そんなこんなで悩んでいたときに、知的で聡明、そして落ち着きのある先輩から「真剣ゼミ」を勧められた。始めは半信半疑だったものの、先輩の風格のある勧めですっかりその気になり、「塾も中途半端だったじゃないの」と反対する母を説き伏せ、ついに真剣ゼミのテキストが届いたのだった。
真剣ゼミをやるうちに頭の片隅で(ここがポイント!)などと声がするようになり、テストでは面白いくらいにゼミとほぼ同じ問題が出るようになり、その勢いで部活のテニスもうまくなり、やっぱりその勢いで彼女もゲットした。テニスの同級生も真剣ゼミをやっていたらしく、話が合った。そしてついに、僕と彼女とその友達で3人揃って第一志望の高校に合格できたのであった。
「では次の方」
「はい。私は5回浪人した後第三志望の大学に入り、就活に失敗しました。その後特に定職には就かず実家にひきこもっています。彼女ですか?高校の頃に寝取られました。アルコール中毒でうつ病、6回の自殺未遂経験があります。今でも幻聴が聞こえます」
周りで自分に重ね合わせてすすり泣く声や、死んだ目をした中年の男性の呻き声がかすかに聞こえる。
「あなたも悲惨な体験をなされたんですね。では次の方」
今年で「真剣ゼミ被害者の会」の会員が100万人を突破したらしい。
『ホール』
僕は穴を掘るのが好きだ。
特に使い古された教室机の表面の小さな穴。授業中はいつもそこを鉛筆でほじくっては、どこまで掘り進めるかを試している。そう、そこにロマンを感じずにはいられないのだ!
今日も前席の同級生のおかげで先生から見えないことをいいことに、机の穴を熱心に掘り進めていた。今日はいつにもましてペースが早い。もしかしてこの中からお宝でも発見できるのでは?そんなありもしない妄想を広げていたその時、急に鉛筆の先の圧力がなくなり、鉛筆は机の中に吸い込まれるように一気に加速した。
(あちゃあ、もしかして貫通して引き出しまで届いちゃったかな)
と思った直後、穴の中から
「ぎゃあああ」
と微かだが強烈な声が聞こえてきた。僕はわけもわからずパニックになって鉛筆を引っ込めた。僕は周りの同級生が不審な目を向けているのも気にせず穴の中をそっと覗いてみた。しかしそれはいつもの穴であり、ましてや貫通さえもしていなかった。なんだったんだと思いつつも僕は寝ぼけていたのだと自分を納得させた。唯一不審だったのは鉛筆の先に粘膜のようなものが張り付いていたことだけだった。
20年後、時間移動の理論が発達し、どんな場所からでも過去のある地点にタイムホールを作り、過去を観察できる機械が発明され、ロマンをくすぐるこの商品は大人たちの世代に大ヒットした。
その年、僕は左目を失明した。