Bizarre Rendezvous
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トリックスター

バイク、電車や車といった便利な交通法は減り徒歩や自転車(中には馬や驢馬を手名付けている者もいる)ぐらいが唯一の交通手段になっているが誰も遠くに行くなんて気力はとうに薄れている。そのため手紙や小包の郵便関係はごく僅かな人間が取得した鳥を使ってのバードメールが行われるようになった。

実はミルズにはもう一つの顔があり鳥獣使いとして有名なサーカスバンドのメンバーで一番の人気者バスターでもある。主にアルという名の鷲を伝達使いとして慕っている。他にも梟、白鳩、烏、鸚鵡、白馬やライオンとも行動を共にしている仲間がいる。
特にライオンのレグルスとは固い絆と強い信頼関係で繋がっていてミルズにとってはなくてはならない大切な友達とも言えよう。




三人がビザールランデブーに入り数分もしないうちにスコールが降り出した。「間一髪ってやつだな」コキタは窓際に手を突き窓ガラスに額をつけて空や辺りを見渡した。ハイジは自分の部屋へ行こうと店の奥に進もうとしたら、そんな事はさせまいと言わんばかりにコキタの激がハイジを襲った。



「ノラ、酒だ!地下倉庫にある酒持って来い!」

「…何で知ってんのよ」

「いいから早く持って来い!オイッミルズお前も手伝ってやれ、ホレ行けっ!早く行ってこいジャンッジャンッ持って来ーい!!」

「ジャンッジャンなんて程の量は置いてないし…それにまだ昼前」

「ゴチャゴチャぬかしてねぇで頼むから…」コキタは顔を下げ肺が破裂するほどの息を吸い上げては外で鳴る強烈な雷の音と共に怒鳴り散らした。「俺に酒を飲ませろぉぉぉぉぉぉ!」その時、既にハイジとミルズの姿は無かった。


「凄い雷だね?近くに落ちてたりして?」

「そうね…」

「…爺ちゃんは何で君のことノラって言ってるんだろう?」

「……野良猫みたいにフラフラしてるから」

「確かにその仏頂面とか似てるかもね」ミルズは小生意気な口調でにこやかに話しかけた。
「それって強い自分をアピールしてるの?それとも緊張してる?何か人に対して興味ないと言うか、ガード固いよね?そんな、不細工面していたら素敵な王子様に逃げられちゃいますよ?」

「…逃げだすような王子はたんなる洟垂れ小僧ね…ママのオッパイでもしゃぶってればいいのよ。だいたい、人間なんか必要なかったのよ互いの喉を切り裂きあうだけじゃ飽きたらず地球までボロボロにしやがって…特に男は全員、去勢手術してやる」

「お~怖っ…男の方に対して少々、お厳しいのでは?女の子にはいつだって笑っていてもらいたいなぁ~」
ミルズは寂しげな声で呟くと前を歩いていたハイジの足が止まりミルズの方へと振り向くとポケットからニンジンを取り出しミルズに差し出した。

「ウサギちゃん、これをあげるから黙ってくれる?」

「僕、ニンジン食べれない」

「じゃあ、どうしたら静かになるのか言ってみ?」

ミルズは閃いたように左人差し指を立ててはハイジの唇を指差してから自分の唇の方に誘い込むようにして言った。

「ん~…では、お互いに静かになる方法の一つでその唇で僕の口を塞いでみたらどう?」

バコォーンッ!!!鈍い音がした。ハイジがウサギの被り物を被ったミルズの頬の辺りを平手打ちしたのだ。その際ウサギの顔はグルッと半回転して真後ろを向いてしまいミルズの視界は奪われてしまった。それでもミルズは微動ともせずに何事もなかったようにのウサギの被り物を回して正面に戻した。

「ならば、逆に僕のほうからいきましょうか?」

再度ハイジの右平手が飛んでくるのを察知したミルズは左手で素早く受け止めるとウサギのままの姿でハイジの唇を塞いでみた。あまりの早さでついて行けなかったのかハイジの動きは暫し時が止まってしまった。

「いつか、君が隠した笑顔を僕が見つけだしてあげます。どうぞ、それまで僕から逃げないもらいたな?…ヴァージンクイーン?」

ミルズはおもぐろにウサギの被り物を脱ぎとっては誰も答えられなかった教師の意地悪な問いかけに唯一、反論した反抗期の生徒のように優越感にしたった表情でハイジを見つめ悪戯な笑みを浮かべて見せた。

ミルズの素顔をみたハイジは全てを納得した上で力を抜いて答えた。

「貴方、トリックスターの…」
「そちらの方の呼び名はバスターと。先程のご無礼どうか、お許しを…でも、私の気持ちは変わりません。覚悟しといて下さいね?因みに、素直に言うことを聞いていただけたなら、それなりのご褒美を用意しますよ?」

「フッ…お生憎様、アタシは貴方が出逢ってきた女性とは勝手が違うの。…どうせ、貴方も同じ有名人という値札(タグ)のついた商品に過ぎない。残念ながらアタシにはブランド品を買えるようなお金も吊り合う代物も持ち合わせてないの、貴方みたいなガキなら駅前の娼婦や妖女が喜んで股を広げて可愛がってくれるわよ。正直、貴方のこと嫌いなの」

「そのセリフを言ったこと、後で後悔させてやる」

不満げな顔でそう言ったミルズはウサギの被り物を装着すると裏口の扉を使って沃さと店を出て行ってしまったた。ハイジは追いかけることなく視線を下に向けるとおもぐろに手の甲で口を拭き取り酒を取りに地下倉庫へ向かわずコキタから好きに使っていいと言ってくれた部屋へ向かった。部屋に入るなりベッドの上に寝転び枕の下に手を入れては手のひらに乗っかるぐらいのサイズで手で回しながら音が鳴るオルゴールを出してゆっくり鳴らし始めた。キュルッキュルッと鳴る音と共に流れ始めたメロディーは『Hail Holy Queen』するとハイジはそのメロディーに合わせて小さく歌い始めた。


Hail holy queen and throne above
Oh,Maria

Hail mother of mercy and of love
Oh,Maria

Triumph all ye cherubin
Sing with us sweet serafin
Heaven and Eath resound the
hymm

Salve, Salve, Salve Regina~♪



(聖なる女王と天の王座を讃えよう嗚呼、マリア様。哀れみと愛情の母を賛美せよ嗚呼、マリア様。ケルビンよ、喜ぶがいい。優しい天使、我々と共に歌って。天と地が讃歌を鳴り響かせるでしょう。サルヴェ、サルヴェ聖母マリアに幸あれ。)






気付けば雨は上がり数ヶ月ぶりに太陽が町を覗かしている。ハイジはベッドから起き上がってはアーチ型の窓に近づいていった。窓枠が額縁の代わりになり、その風景はまさに絵画の世界。ハイジはその時、不意に窓ガラスに移る自分の姿に違和感を感じた、よくよく見ると髪に何かがついている。それは小ぶりの白い薔薇の花だった。誰がやったのかは直ぐに見当がついている。
ハイジは髪に刺さっている薔薇を抜き取ると軽い溜め息を吐いては窓を開けた。風が部屋に広がり壁に貼ってある何処とぞ知れぬ風景写真がベラベラッと音を鳴り響かせ激しく揺れ動くハイジは目をつぶり浅い深呼吸をしてゆっくりと瞼を上げて光に満ちてゆく町を眺めた。
するとハイジの視界に突如、黒い影が入り込んできたので顔を上げ空を見上げるように体を窓から乗り出し傾けた。バサッバサッと此まで、濁りたまった粘る雲を裂いて散らしてるかのように空を切って泳ぐ鷲がこの町に現れた。ハイジの気持ちに何かが起き始めている。今までとは何かにかが違う変化を感じていた。雲間から差し込む光のシャワーを浴びながら鷲は旋回しながらセントラルパークにその身を降ろしていった。

此から起きる素敵な出来事をまるで祝福してるかのように薄い青が滲み出し

【白い薔薇の花言葉は“私はあなたに相応しい”】

ウサギ

かつては艶やかな電飾で昼も夜も忙しなく輝いていた摩天楼の面影は消え青い空海も夜空の月や星も見れなくなってしまった。インクを零したような分厚い雲海に包まれたこの町には未だに人々が寄り付く憩いの場がある。それがコキタが経営しているミュージックホール“ビザールランデブー”。

赤煉瓦と漆喰でできた屋上付き四階建ての小さなビルで音楽だけでなく映画の鑑賞もできる。ノスタルジックな匂いがする笑いと涙が絶えない場所といった趣が評判でお忍びで訪れる有名人や人気バンドグループなども暫し訪れて来てくれては落書きだらけの壁や床にサインやメッセージを残していってくれたもんだった。その跡は今でも色濃く残されている。

ハイジはビザールランデブーで住み込みのアルバイトをしている。というのも今は亡きハイジの両親はコキタの店の常連客で友達でもあったからでコキタから見れば娘同様。世の中の仕組みに興味のないハイジはある意味、騙されやすい娘でもあったため偶々、出逢った女に騙されグルだった男たちにレイプされかけた経験もあり人を信じる勇気を失っている。コキタは亡き二人の友のためにもハイジに少しでも生きていて良かったと感じてもらえるように色んな人間が出入りするミュージックホールで働いてもらっている。


ハイジは両ポケットに手を突っ込み黒髪のおさげを揺らしては鉄板の階段をまるで鉄琴の上をポンッポンッと跳ねるように軽快に下っていった。最後の一段に差し掛かかる手前で片足を大きく前に出しジャンプしては一段抜かしでコンクリートの地に着地した。その勢いでか少し前へつんのめりそうになり両ポケットから素早く手を出した瞬間、近くにいた鳩たちが驚いていっせいに空へと舞ってしまった。ハイジは目を細めてしばしば立ち尽くしていると、自分と対向する先に人影らしきものが見え此方へと近付いてきているきている気がしたので改めて焦点を合わせるため瞬きをした瞬間、人影の姿は消えていた。辺りを隈無く捜していたらハイジの直ぐ背後で誰かが囁くように声をかけてきた。


「誰か捜してるの?」

「?!!」

ハイジは“ビクッ”と肩を上げて驚き後ろを振り向こうとしたが自分の足に躓きバランスを崩して尻餅をついた。体を丸く埋めては打ちつけた尻を押さえて軽く舌打ちをしてしまった。

「アッごめんなさい!大丈夫?」

するとハイジは深い溜め息をつき睨みつけるようにして顔を上げてみると、そこに立っていたのは白いウサギの被り物を被った野郎だった。

「…うっウサギ?」

「いえ、ミルズです。僕の名前はミルズというんですよ。キミは?」

「あぁ、ミルズさん。アタシはハイジ……………えっ、ミルズ?!」



その時、展望室にいたコキタが今、漸く下りてきてはハイジの姿を見るなり怒鳴り散らしてきた。


「オイッ、てめぇノラッ!!!コノヤローふざけやがって!店番しに行ったんじゃなかったんかっ!大体、何だそのウサギは、ええ?お前の新しいペットか?」

コキタは首からぶら下げているタオルで額の汗を拭いながらがに股歩きで近づいてきた。ピンク色の派手なビーチサンダルのペタペタという音が次第に大きくなり、未だコンクリートの上でへたれてるハイジはアグラをかく姿勢にかえて呟いた。


「あんたの捜していた孫でしょ?」

「…爺ちゃん」

「あぁ?何だウサギ喋れんのか。」

「爺ちゃん俺だよ!ミルズ!」

「ミルズ…ミルズか?」

「相変わらずしぶとく生きてるじゃん。良かった良かった」

「ミルズお前、この町に留まるんだろ?」

「暫くはね。此処に留まろうと思う。」

「…まだ、諦めてはいねぇみてーだな?だから、俺んとこに来たってか?」


その時、ハイジは少し気になり二人の会話に聞き耳をたてたが、それを邪魔するかのように突如、稲光が頭上をはしり気付けば辺りは暗雲が立ちこもっていた。

「くるな?」コキタが空を睨み呟いた。まだ、立ち上がろうとしないハイジを一度、みてからミルズに向かって言った「まぁいい、取りあえず帰るぞ。話はそっからでも遅くはねぇよな?」

人捜し

……季節から
“春”と“秋”がなくなった……

都市部の最高気温は4℃近くにまで上昇。真夏日は100日も超えるようになった。集中豪雨と巨大台風によって首都圏は壊滅状態、“JAP EAST CITY”は水没した。



今や環境難民による餓死者が溢れだしマラリアの再流行や、デング熱の発生などといった最悪の被害が日常化してしまった。


健康な十代から四十代の男女の人間を除き免疫力の少ない幼児や老人は衰微して、ただ死を待つだけたった。死者の増加はまるで毎日の日常にでるゴミのように無造作に落ちていたり捨てられてたりする。
次第にはゴミの山に人間の姿が目に付くようになるその人間が寝ているのか死んでいるのか誰も彼もが観て見ぬ振りをして通り過ぎるだけだ。

そんな目にも見えぬ得体の知れない恐怖と背中合わせの中、行き場を失い取り残されたように淡々と日々を過ごす人間たちは死ぬまでの間に喜怒哀楽を味わっていた。少なくともそこには平安というものがあったのだろう。






過去に美しく柔らかく疲れた夜の時間に癒やす輝きを放っていた大都市のシンボル、Tタワーはただの鉄鋼のクズと化している。遠い昔の写真には百万ドルの夜景を一望できる展望台として観光名所の一つでもあったがNEOTタワーの誕生によりTタワーに訪れる者も減っていった。だがそんなNEOTタワーに近付くことは自殺行為の様なものだった。青い海とは程遠い薄い茶色がかったまるでカフェラテのような大きな水溜まりが広がる海の中に聳えている哀れなNEOTタワーがおどろおどろしく浮かび上がっている。


そんなNEOTタワーを視野に入れつつも日の入りを見に廃虚となっているTタワーの展望室から更に上がったてっぺん近辺で足をぶらつかせながら柔らかな風が吹き抜ける場所で静かな町並みを何気なく眺めているハイジ。風が持ってきたその時々の音や匂いが味わえる早朝の僅かな時間が何よりもお気に入りの時間で今は波も穏やかである。



「おい、ノラッ!テメェ下りてこい!さぼってねぇで新入り探してきやがれってんだ!」

下の方から嗄れた声でコキタが叫んでる。ハイジにとってはママを呼ぶ子犬の鳴き声に聞こえた。渋々、展望室のところまで降りてゆくと岩石のようなゴツイ顔に白髪交じりの無精髭を生やした男が地べたにアグラをかいて座っていた。

「よく上がって来れたわね?高所恐怖じゃなかったっけ?」

ハイジは表情ひとつ変えることなく物腰の柔らかさを少し気取る感じで言った。

「バカヤロー!誰が高所恐怖だっ俺を甘くみんなっ!」

コキタはこの地区内で残ったただ一人の長老様といえよう。最近の情報(世界の情報を交換する渡り鳥“WIEM”の調査結果)によれば最高齢の平均年齢は55歳から58歳と発表されているがコキタの年齢は63歳の立派なクソ爺だ。
身なりも口も汚いが根は孫をみるような視線でこの辺りの若者を見守っていたりもする。

「今の俺に不可能は存在しねぇんだバカヤロー!記憶しとけ!」

「大丈夫。毎日、記憶してるから。」するとハイジは少し腰をかがめコキタの顔を覗き込みながら言った「ええーっと、只今のジジイの目玉は~チャプチャプ泳ぎまくっているっと」
するとハイジはペンを持つフリをして手のひらをメモ帳に見立て舌先で上唇をなぞりながら書いてみる。
「他に記憶するものは?」
そう言ってコキタの方に目を向けた。すると少しうつむき加減で手紙をハイジに渡した。

「手紙?どうやって届いたの?」

「知らねぇよ。今朝、便所の小窓に挟まってやがったんだ。……読んでみろよ」

ハイジは手紙を開いて短い文章を心の中で読み上げた。


《じいちゃん、お久しぶりです。生きてますか?今度、その町に僕が行きます。 ミルズ》


すぐにその内容を改めて確認するとコキタの方に顔を向け訪ねた。




「ジジイお前孫いたのかよ?!」

「あんにゃろ~俺に似てしぶてぇ奴だなー全くたいした野郎だぜ!」

話が少しズレた気はしたが改めて聞き返すことなくハイジは気にせず話を続けた。

「まぁ別にジジイの孫に興味はないし人捜しなら他あたって。今日はアタシが店番するから」


そう言って展望室を後にした。